※平成29年改正に対応済み
答案例
第1 設問1
1 設問1の請求が認められるには、甲建物につき、C所有及びA占有が認められる必要がある。甲建物はA所有であり、Cは無権利者Bから甲建物を買った。よって、Cは甲建物の所有権を取得しない。
2
(1) そこで、Cは94条2項の第三者として保護されないか。もっとも、AB間で通謀の事実はないので、94条2項が類推適用されるかが問題となる。
(2) 94条2項の根拠は真の所有者の帰責事由に基づく虚偽の外観を信じた第三者を保護するという外観法理にある。そこで、虚偽の外観、虚偽の外観作出につき真の所有者の帰責性、及び虚偽の外観につき第三者の信頼が認められれば94条2項を類推適用できると解する。
(3)
ア AはBから甲建物を買ったにもかかわらず、BからAへの譲渡担保による所有権移転登記がされたので、虚偽の外観がある。
イ そして、Aは甲建物を買った時点でA名義への登記をしなかった。また、AB間の売買契約から2か月程度してようやく名義変更をしたが、書類の中身を理解せず、Bの言葉を鵜呑みにし、書面を検討することなく書類に署名押印した。不動産の契約は一般消費者にとって重大な買い物であるから、署名する書類は注意深く確認するべきである。よって、BからAへの譲渡担保権の登記という虚偽の外観作出につきAに帰責性がある。
ウ ところで、Aは虚偽の外観の作成に積極的に関与したわけではないので、110条の趣旨を類推適用し、Cには善意無過失が要求されると解する。そして、CはAが甲建物の譲渡担保権者ではないこと知らなかったが、知らなかったことに過失があった。
(4) 以上より、94条2項を類推適用できないので、CはAが譲渡担保権者であることを前提として、供託が有効であることをAに対抗できない。その結果、Cは甲建物の所有者であることをAに対抗できない。
第2 設問2
1 CE間の法律関係
(1) 「賃借人」DがCの承諾を得て「適法に」賃借物である「甲建物」をEに「転貸した場合」、「賃貸人」Cは賃貸借を合意解除したことをEに対抗できない(613条3項本文)。また、「賃貸人」Cが「賃借人」Dに対し、「債務不履行による解除権を有し」ていないので、同項ただし書に該当しない。
(2) もっとも、契約関係の簡明、契約関係からの当事者の解放という解除の趣旨及び賃貸人の、使用収益させるという債務が没個性的であることを考慮し、Dは賃貸借及び転貸借の契約関係から解放されると解する。そうであれば、賃貸人C、賃借人Eとして契約関係が新たに成立すると解する。
2 CのEに対する請求
(1) Cは所有権に基づき、甲建物の明渡しを請求するが、前述の通り、CE間で新たな契約関係が成立したので、認められない。では、不当利得返還請求権(703条)に基づき、賃料相当額25万円の請求は認められるか。
(2)
ア Eは平成27年5月以降も継続して甲建物を使用するので、「利益」がある。また、Cは、甲建物をEが使用し、かつDから賃料を請求できないので、「損失」がある。そして、因果関係もある。
イ もっとも、前述のとおり、CE間では新たに賃貸借契約が成立したと解されるので、Eの利益につき実質的相対的理由がある。よって、法律上の原因がある。
(3) 以上より不当利得返還請求権に基づく25万円の請求は認められない。ただし、CはEに対し、賃料月額15万円を請求できる。なぜなら、Cは賃貸借契約の合意解除をEに対抗できない以上、合意解除前よりEを不利な地位に置くことはできないので、賃料月額相場価格はもとより、CD間の賃料月額20万円も請求できないからである。
3 EのCに対する請求
(1) Eは修繕費の償還請求(608条1項)として事実9の請求をする。
(2)
ア 「賃借人」Eは「賃借物」である甲建物について「必要費」を支出したときは賃貸人に直ちに償還を請求できる(608条1項)。
イ 建物が雨風を避けることは建物の最低限の役割であるから、雨漏りの修繕は「必要費」といえる。
ウ もっとも、Eが修繕した時点ではDが転貸人であったので、Dが負担すべきである。しかし、Dの地位はCに承継されたので、Cは負担する義務を負う。
(3) 以上より、Eは事実9の請求ができる。