※平成29年改正に対応済み
答案例
第1 設問1
1
(1) AはCに対し追完請求権に基づきA邸の修補請求(559条本文、562条1項本文)として、事実7の請求をする。
(2)
ア Aに「引き渡された目的物」であるA邸が、AC間の打ち合わせ時に確認したB邸の外壁とは異なっている。
イ よって、「品質」に関してAC間の「契約の内容に適合しないものである」。
(3) したがって、「目的物の修補」として、事実7の請求をすることができる。
2
(1) これに対し、Cは引き渡したA邸は契約不適合物ではないと反論する。そこで、A邸は、AC間の契約において品質が不適合と言えるか。
(2) A邸に使用された「シャトー」はB邸の「シャトー」と比較して、表面の手触りや光沢が若干異なることで色が少し違って見えるが、耐火性、防水性等の機能は同じである。しかし、AC間は発注前の打ち合わせ時に、AはCに対し、B邸を見せた上でB邸と同じ仕様にしてほしい旨を伝えている。B邸を実際に見せるということは、B邸に関して視覚による情報を共有することを目的としている。よって、AC間の契約においてはB邸の外観と同じものにするという合意がされていたと判断できる。
(3) よって、A邸の外観は品質において契約に適合しないと言える。
3
(1) これに対し、CはA邸に性能の問題はないにもかかわらず、多額の費用と時間をかけて改修工事を請求されることはAC間の契約関係において妥当な解決方法とは言えず、「社会通念に照らして不能」(412条の2第1項)であると反論する。
(2)
ア 確かに改修工事は「シャトー」を新たに特注し、外壁の工事作業を最初からやり直すことになるので、Cにとって大きな負担となる。
イ しかし、前述のとおりAC間の契約においては、外壁をB邸と同様にすることは重要な要素であったといえる。
(3) よって、CのAに対する債務を完全に履行するために改修工事を請求することは妥当な解決方法であるから、「不能」とはいえない。
4 以上よりAの事実7の請求は認められる。
第2 設問2
1 Aは債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項本文、559条、564条)をする。
2
(1) 「債務者」Cは事実8のとおり工事に着手しなかったので、「本旨に従った履行」をしていない。また、CがE社から特注品として「シャトー」を注文することは可能である。そして、AがCに与えた3か月と言う期間は妥当である。なぜなら、当初の契約が1か月であり、特注品「シャトー」の制作には2週間あれば足りるからである。よって、Cの債務の履行は可能であった。
(2) なお、不履行は、CがEに「シャトー」の材料変更の事情を確認しなかったことに起因するので、Cに免責事由(415条1項ただし書)はない。
(3) もっとも、「シャトー」には性能上の問題はなく、A邸の売却価格に影響がないので、「損害」がないとも思える。しかし、現にA邸の修補が必要である以上損害は認められるべきである。また、債務不履行と損害との因果関係もある。
(4) なお、AがCに損害賠償を請求した時点でAは既にA邸を売却している。よって、AはA邸の修補請求をする必要がないので、損害賠償ができないとも思える。しかし、損害賠償請求は契約当事者の地位に基づき認められるものであるから、本件では依然として損害賠償請求は可能である。
3 以上よりAの請求は認められる。
解説
設問1
本問は、平成29年改正前の民法634条1項の条文の当てはめ問題である。ポイントは条文中の「瑕疵」、「相当の期間」、そしてただし書の解釈を問題文の事実関係に照らし展開することである。
「瑕疵」
平成29年改正後は改正前634条の規定は削除されたので、本問は追完請求権(559条、562条)の問題として処理することになる。すなわち、A邸の外壁の色等がB邸のそれとは異なることにつき、改正前は「瑕疵」にあたるかを論述する必要があった。しかし、改正後は「品質」に関して契約不適合が否かを論述することになる。
「相当の期間」
改正前634条1項には「相当の期間」を定めることが規定されてあった。そこで、問題文中の、AがCに対し与えた「3か月以内」の期間が相当な期間であるかを検討する必要があった。改正後の追完請求(559条、562条)には「相当の期間」の規定がないので、積極的にこれを論述する必要はない。もっとも、追完請求にあたり社会通念上妥当でない期間での追完請求を要求した場合は、後述の履行不能(412条の2第1項)の問題が生じると思われる。
改正前民法634条1項ただし書
平成29年改正前は、瑕疵が重要でなく、修補に過分の費用を要するとき請負人の担保責任を追及できなかった。
改正前634条の削除により、改正後は412条2第1項の問題として検討することになると考えられる。すなわち、追完請求の内容が社会的に妥当かという観点等から、妥当性を欠く追完請求は履行不能(412条の2第1項)であるとして、請求を拒める可能性がある。すなわち、不適合の内容の重要度や、追完に必要な費用を考慮し、社会的に妥当でない追完請求は「社会通念に照らして不能」であるとされる可能性がある。
平成29年改正前 民法634条
仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。
設問2
設問2は改正前634条2項の解釈を問われている。改正後は損害賠償は債務不履行責任(415条)の問題となる。また、564条では、追完請求権の行使と共に損害賠償請求をできる旨が規定されているので、設問2の論点の重要度は改正前に比べて低下していると思われる。