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刑法

平成26年予備試験 刑法論文

答案例

第1 甲の罪責
1 甲は詐欺目的でホテルの一室に入ったので、管理権者の意思に反する立ち入りと言え、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
2  
(1) 甲がVに対し、2000万円と引き換えに仏像の引渡しを求め、乙に渡させた行為に詐欺罪(246条1項)が成立するか。
(2)  
ア 仏像は密輸入されたものだから、禁制品である。禁制品を没収するには一定の手続きが必要であるから、その限度で、「財物」と言える。
イ  
(ア) 「欺」く行為とは、重要な事実を偽り、財産的処分行為に向けて相手を錯誤に陥らせる行為である。甲はVに対し、仏像の対価2000万円を支払うという重要な事実を偽っている。そして、Vを錯誤に陥らせようとしている。もっとも、甲はVが鑑定目的で乙に仏像を渡すこと要求している。そこで、Vの処分行為に向けた欺く行為が認められるかが問題となる。
(イ) 窃盗罪と詐欺罪を区別するため、処分行為の有無は処分意思に基づく占有移転の有無で決すべきと解する。そして、処分意思については、被欺罔者の財物を自己の支配領域外に移転する認識が必要であり、占有を弱める認識では足りないと解する。
(ウ) 乙に渡された仏像をVに戻すかは甲の意思にかかっているので、上記行為により仏像に対するVの支配が及ばなくなる。よって、処分意思に基づく占有移転が認められ、処分行為に向けた「欺」く行為と言える。
ウ また、禁制品である仏像の売り渡しは不法原因給付(民法708条)にあたるので、Vに返還請求権がない。しかし、民法と刑法を統一的に解釈する必要はないので、Vの財産上の損害は認められる。よって、財産上の損害に向けられた「欺」く行為と言える。
エ Vは「先に仏像を渡しても代金を受け取り損ねることはないだろう」と考えていたので、錯誤に陥った上で、処分行為がされ財産の移転がされた。
(3) 以上より、上記事実に上記犯罪が成立する。
3  
(1) 甲がVをナイフで刺した行為に強盗利得罪(236条2項)が成立しないか。
(2)  
ア ナイフで刺す行為は相手の反抗を抑圧する程度の有形力の行使であるから、「暴行」がある。

(ア) 強盗罪は相手の反抗抑圧状態を利用する犯罪であるから、相手の処分意思は不要であると解する。もっとも、処罰範囲限定のため、「暴行」は相手の確実かつ具体的な財産的利益移転に向けられている必要がある。
(イ) 密輸入された仏像の売買を知る者は甲とV以外にいるとは考えづらい。また、甲の身元はVに知れていない。よって、取引現場から逃げれば確実に代金の支払いを免れることができる。
(ウ) また、仏像は禁制品であるが、財物にあたる以上、その返還を免れる利益も「財産上不法の利益」と言える。
(エ) よって、利益移転に向けられた「暴行」がある。
ウ 以上より、上記行為は上記犯罪の客観的構成要件に該当する。よって、甲は「強盗」である。
(3)  
ア そこで、甲に強盗殺人未遂罪(243条、240条後段)が成立しないか。
イ 240条は強盗の機会に被害者の生命・身体に危険が及ぶことが刑事学上顕著であることに着目した規定であると解する。よって、同条後段は強盗が殺意をもって相手を殺害する場合も含むと解する。
ウ 甲は支払いを免れるために殺意をもってVを刺した。
エ しかし、Aは一命を取り留めたので死の結果が発生していない。なお、強盗罪の第一次的な保護法益は人の生命・身体であるから、強盗殺人罪の未遂既遂は死亡の結果の有無で判断する。
オ よって、上記行為に強盗殺人未遂罪が成立する。
(4)  
ア もっとも、甲に正当防衛(36条1項)が成立しないか。

(ア) Vは甲にナイフを突きつけて脅したので、甲の生命身体という「自己の・・・権利」に対する法益侵害が現に発生していた。また、Vが仏像を取り返すためにナイフを突きつける行為は社会的相当性を逸脱しており、自救行為として違法性は阻却されない。よって「急迫不正の侵害」がある。
(イ) 甲はVに刺される危険を認識していたので、法益侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態であったと言える。よって、「防衛するため」といえる。
(ウ) しかし、甲はVを指す前にVからナイフを奪っている。また、その後Vが甲につかみ掛かっているが、甲はVより約40歳若く、身長体重的に体格で優っているので、Vをナイフで刺すことなく、Vのつかみ掛かる行為をかわすことができたと言える。よって、相当性に欠け、「やむを得ずにした行為」とは言えない。
ウ 以上より、甲には正当防衛は成立しないが、過剰防衛(36条2項)が成立する。
(5) よって、上記犯罪が成立するが、刑が減免し得る。
4 以上より、甲は①建造物侵入罪、②詐欺罪、③強盗殺人未遂罪の罪責を負う。そして、②と③は行為につき場所的時間的に近接しており、かつ保護法益が共通しているので、②は③に吸収され包括一罪となる。さらに、①と③は牽連犯(54条1項後段)となる。
第2 乙の罪責
1  
(1) 乙が甲から事情を打ち明けられた後に仏像を保管した行為に盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。
(2)
ア 仏像は甲が詐欺により領得した物である。また、禁制品である仏像の売却は不法原因給付であるが、前述の通り民法と刑法を統一して解釈する必要はないので、仏像の所有権は依然Vにあると解する。
イ 乙は保管開始後に、甲に一連の事情を聞いている。その上で保管を続けているので、被害者に対する追求権行使を困難にしている。よって、「保管」にあたる。
(3) よって、上記犯罪が成立する。
2  
(1) 乙が仏像を売却した行為に横領罪(252条1項)が成立するか。
(2)  
ア 前述の通り仏像の所有権はVにあるので、仏像は「他人の物」である。
イ 「占有」とは、委託信任関係に基づく占有である。甲は仏像に関する詐欺の犯人であり、所有者でない。しかし、複雑化した現代社会においてはそのような者の委託も保護に値すると解する。よって、「占有」が認められる。
ウ 「横領」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背き、権原がないのに所有者でなければできないような処分をすることであると解する。仏像を売却することは所有者でなければできない行為である。よって、「横領」がある。
(3) 以上より上記犯罪が成立する。
3 以上より、乙は①盗品等保管罪、②横領罪の罪責を負い、これらは併合罪(45条前段)となる。

 

解説

本答案例は学習の便宜のため、詳細に記載してあります。

よって、試験における現実的な答案ではありません。

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