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刑法

平成27年予備試験 刑法論文

答案例

第1  甲の罪責
1
(1) 甲が用度品購入用現金から50万円を支出し、丙に渡した行為に業務上横領罪(253条)が成立するか。背任罪(247条)の成否も問題となるが、両罪は法条競合の関係にあるので、先に業務上横領罪の成否を検討する。
(2)  
ア 甲はA社の総務部長であるから、社会生活上の地位に基づいて反復継続的に行う事務の内、委託を受けて金銭を管理することを内容とする事務を行っている。よって、甲の行為は「業務」といえる。
イ 甲は用度品を購入する際、A社から与えられた権限に基づき、用度品購入用現金を支出することができた。よって、A社の用度品購入用現金は「自己の占有する他人の財物」といえる。

(ア) 上記行為が「横領」といえるか。
(イ) 「横領」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思、すなわち不法領得の意思を発現する行為を指す。
(ウ) 用度品購入用現金はA社の用度品購入のためのものであるから、甲が乙のために賄賂で使用することは甲に与えられた権限外の行為である。また、本件支出行為は甲名義で行われている。さらに、乙の賄賂のために使用することは甲の計算と同視できる。よって、上記行為は不法領得の意思を発現する行為といえる。
(エ) よって、「横領」にあたる。
(3) 以上より上記犯罪が成立し、後述のとおり横領罪(252条1項)の範囲で乙と共同正犯(60条)となる。
2  
(1) 甲が丁経由で丙に50万円を渡した行為に贈賄罪(198条)が成立するか。
(2) 甲は後述のとおり受託収賄罪(197条1項後段)が成立する丙の行為につき、賄賂を「供与」している。なお、甲は賄賂の資金を調達し、丙と会って交渉をしているので、正犯性が認められる。
(3) よって、上記犯罪が成立し、後述のとおり乙と共同正犯となる。
3 以上より、甲は業務上横領罪、贈賄罪の罪責を負い、両者は併合罪(45条前段)となる。
第2  乙の罪責
1
(1) 乙が、甲に金銭を丙に渡すことを依頼した行為に、甲が罪責を負う上記犯罪につき甲と共同正犯が成立するか。
(2)  
ア 業務上横領罪は、「占有」を身分とする真正身分犯であり、「業務」の存在により刑が加重される不真正身分犯である。そして、65条1項は真正身分犯の成立と科刑を、同条2項は不真正身分犯の成立と科刑を規定していると解する。さらに、非身分者は身分者を介して法益侵害が可能であるから、「共犯」には共同正犯も含むと解する。
イ よって、非占有者は65条1項で単純横領罪の共犯となり、業務上の占有者は同2項で業務上横領罪の罪責を負う。
(3)  
ア 乙は実行行為を行っていないので、共謀共同正犯の成否が問題となる。そして、①正犯意思に基づく共謀、②共謀に基づく他の共犯者の実行行為が認められれば共謀共同正犯が成立すると解する。
イ 乙は甲に対し、用度品購入用現金の支出及び丙への金銭交付を持ち掛け、甲は承諾した。また、乙は甲の行為により自己の営業成績を向上させる目的があり、正犯意思がある(①)。そして、甲は共謀に基づき横領行為及び贈賄行為を行った(②)。
ウ よって、共謀共同正犯が成立する。
(4) 以上より、乙は横領罪、贈賄罪の罪責を負い、両者は併合罪となる。
第3  丙の罪責
1 丙が丁経由で甲から50万円を受領した行為に受託収賄罪が成立するか。
2 「公務員」であるB市職員丙は、その具体的職務権限に属する公共工事の業者を選定する「職務」に関し、50万円の「賄賂」を「収受」した。また、甲は丙に公共工事についてA社と契約するという内容の職務を行うことを依頼し、丙はそれを受け入れたので、「請託を受けた」といえる。
3 よって、上記犯罪が成立し、丙はかかる罪責を負う。
第4  丁の罪責
1 丁が甲から50万円を受領し、丙に渡した行為に、受託収賄罪の共同正犯(60条)が成立するか。
2  
(1) 丁は「公務員」の身分を有しないが、前述のとおり共同正犯になり得る。
(2) 丁は甲から経緯を聞いた上で、丙と連絡をとり、丙の代わりに50万円を受け取り、丙に渡している。しかし、丁の指示に従って行動しているだけである。また、丁は受け取った50万円をそのまま丙に渡している。よって、正犯性が認められない。
(3) もっとも、丙の収賄行為を容易にしたといえるから、「幇助」(62条1項)にあたる。
3 以上より、丁は受託収賄罪の幇助犯(65条1項、62条1項)の罪責を負う。

解説

横領罪と背任罪

横領罪と背任罪は法条競合の関係にある。よって、ある行為につき、横領罪と背任罪の成否が問題となった場合、まず横領罪の成否を検討する。そして、横領罪が成立すれば背任罪の成否の検討は不要となる。横領罪が成立しなければ背任罪の成否を検討する。

また、横領罪と背任罪の区別には2パターンある。なお、答案例は前者で記載。

  • 他人の物の占有者が権限を逸脱すれば横領罪、その権限内での濫用があれば背任罪となる区別。
  • 本人の名義かつ本人の計算で行われれば背任罪、行為者の名義又は行為者の計算で行われれば横領罪となる区別

※「名義」とは、処分行為の当事者に着目したものである。すなわち、処分行為者の外観である。「計算」とは処分行為によって生じる利益・損失の帰属を意味する。

業務上横領罪の共犯

乙の横領罪の罪責についての記述の内、下記の部分は通説の見解である。

「 よって、非占有者は65条1項で単純横領罪の共犯となり、業務上の占有者は同2項で業務上横領罪の罪責を負う。」

これに対し、判例の見解に立てば、上記の部分は下記のようになる。なお、他の記載は同じである。

「よって、非占有者は65条1項で業務上横領罪の共犯が成立し、同2項で単純横領罪の刑が科せられる。」

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