答案例
第1 設問1
1 国民審査法(以下、「法」という。)15条は、適格と判断した裁判官に〇を付けることを許容しない点及び白票を罷免可としないという扱いをする点において、憲法(以下、法名省略)79条2項に反し違憲である。
(1) 79条2項は「任命は・・・国民の審査に付」すと規定している。また、国民審査の趣旨は裁判官の任命に民主的コントロールを及ぼす点にある。よって、国民審査とは、内閣による最高裁判所裁判官の任命を完結確定させる行為であると解する。また、79条2項前段は国民審査が任命後に短期間に行われ得ることを前提にしており、これは国民審査に対する上記の考え方と親和的である。
(2) そうだとすれば裁判官の適格性につき国民に積極的・能動的に判断をさせるべきである。そして、検察審査会や裁判員裁判のように国民の司法への関与の機会が多くなり、司法への関心が高まっている現代では、国民は裁判官の適格性を合理的に判断できる。そして、1952年の判決はこのような時代背景とは異なる時代背景を前提に判断されたものであるから、判例変更されるべきである。
(3) 以上より、国民審査は、罷免可を×、罷免不可を〇、棄権を無記入とする扱いにすべきである。しかし、法15条はこのような扱いではないので、違憲である。
2 法53条及び同条の委任を受けた施行令(以下、「令」という。)26条は、裁判官の適格性を判断するための資料を十分に提供しておらず、79条2項に反し違憲である。
(1) 前述の国民審査の趣旨により、79条2項は国民が裁判官の適格性を判断できるよう必要な限度で資料を提供することを要求していると解する。そして、必要な限度とは通常の判断能力を有する一般人の理解で判断可能な資料と解する。
(2) これを本件についてみると、法53条及び令26条の規定するものだけでは不十分である。よって、法53条及び令26条は違憲である。
第2 設問2反論
1 法15条1項
(1) 79条3項は「多数が・・・罷免を可とするときは・・・罷免される」と規定しているから、国民審査はリコール制度であると解する。
(2) そうだとすれば法15条1項の制度はリコール制度と親和的である。
2 法53条及び令26条
(1) 国民審査の趣旨はAの主張するようなものではない。
(2) よって、法53条及び令26条の規定で十分である。
第3 私見
1 法15条1項
(1) 国民審査は反論のとおりリコール制度と解する。確かにA主張のとおり裁判官の任命に民主的コントロールを及ぼすべできある。もっとも、議院内閣制(66条3項、69条)の下では、内閣による最高裁判所長官の指名(6条2項)及び長官以外の裁判官の任命(79条1項、80条1項)を通して、裁判官の指名又は任命につき間接的に民主的コントロールが及んでいる。また、多数決原理による少数派への人権侵害の救済という裁判所の役割に鑑みれば、国民審査をAの主張のとおり解する必要性は低い。加えて、原告の主張するとおり現代は1952年と時代背景が異なるが、少数派保護の必要性は変わっていない。
(2) よって、法15条1項は79条2項に反しない。
2 法53条及び令26条
(1) 国民審査の趣旨は反論のとおりであるから、79条2項がAの主張するようなことを要求しているとはいえない。もっとも、国民審査をリコール制度として解するとしても、国民が裁判官の適格性を判断するための資料提供はできる限り行うことが望まれる。しかし、国民審査に関する事項は法律で定められる(79条4項)から、立法府に裁量が認められる。そこで、資料提供の不備につき79条2項に反するか否かは、資料提供に不合理な点があるかで判断する。
(2) これを本件についてみると、審査公報に裁判官の主要な裁判の見解などの情報を掲載すると、かえって選挙公報をみづらくする可能性がある。また、現代ではインターネットの方法でも情報収集が可能である。よって、現行制度に国民への資料提供につき不合理な点があるとはいえない。
(3) 以上より、法53条及び令26条は79条2項に反しない。