答案例
第1 設問1
1 設問見解は妥当か。違憲審査権の根拠条文が問題となる。
(1) まず、98条1項は憲法の最高法規性を規定しており、憲法に反する法令は無効である。よって、同項は法令の合憲性を判断する機関が存在することを前提にしている。そして、その役割を担うのが裁判所であるから、同項から違憲審査権を抽出できる。
(2) 次に、76条3項は裁判官の職務の独立性の一環として、裁判官が憲法に拘束されることを規定している。そうであれば、同項は裁判官が法令の憲法適合性を判断することを前提としている。よって、同項から違憲審査権を抽出できる。
(3) そして、99条は裁判官の憲法擁護義務を規定しているから、裁判官は法令が憲法に違反する場合は司法権の行使として法令を無効にすべきである。よって、同項から違憲審査権を抽出できる。
2 以上より、設問見解は妥当である。
第2 設問2
1 Aの主張
(1) まず、憲法と条約は同一法体系に属する。
(2) 次に、憲法の最高法規性により憲法は条約に優先する。
(3) さらに、81条は違憲審査の対象となるものを例示列挙した規定であるから、本条約は違憲審査の対象となる。
(4) なお、条約に後述の統治行為論は採用されないから、本条約につき憲法判断をすべきである。
2 国の主張
(1) まず、憲法と条約は異なる次元に存在する。
(2) 次に、憲法は国際協調主義(98条2項)を採用している。よって、条約は憲法に優先する。
(3) さらに、81条及び98条1項に条約が規定されていない。よって、本条約は違憲審査の対象とならない。
(4) また、条約は国家統治の基本に直接関わる高度に政治性のある国家の行為であるから、政治部門の判断を優先すべき(統治行為論)であり、司法審査になじまない。よって、本条約につき憲法判断をすべきでない。
3 私見
(1) まず、憲法の条約の承認手続き(61条)から憲法と条約は同一法体系にあると解する。
(2) 次に、国民主権及び硬性憲法の建前上、憲法が条約に優先すると解する。また、国際協調主義を採ることと、憲法が条約に優先することは両立し得るから、98条2項から直ちに条約が優位することを導けない。
(3) そして、81条及び98条1項は憲法の国内法秩序における最高法規性を規定したものであるから、条約が規定されていないことが、条約が憲法に優先する根拠にはならない。そして、このように解さなければ条約締結権(73条3号)を有する内閣が憲法に反する条約を締結できるという結論になり、国民主権(全文1項、1条)原理に反する。よって、本条約は違憲審査の対象となる。
(4)
ア また、裁判官は民主的プロセスを経て選任されていないので、国家統治の基本に直接関わる行為への司法審査は抑制されるべきである。もっとも、権力分立(41条、65条、76条1項)との調和が必要である。そこで、条約は一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り憲法判断を行うべきでないと解する。
イ これを本件についてみると、本条約はX国との貿易摩擦解消を目的としているところ、この目的達成のために本条約を締結することは、国家統治の基本に直接かかわる行為といえる。なぜなら、本条約締結の可否判断には国家間の交渉や専門技術的判断が必要不可欠であるからである。また、本条例締結により日本の食料自給率が20パーセントを下回ることが予想され、先進国と比べて低い数値になる可能性がある。しかし、食料自給率の重要度や適切な割合についても政治的判断にゆだねるべきであると解される。よって、本条例につき一見極めて明白に違憲無効と認められる事情がない。
(5) 以上より、本条例につき憲法判断をすべきでない。