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法律論文の書き方(司法試験・予備試験)

法的三段論法

法的三段論法とは法律問題を解決するための思考過程である。法的三段論法は、大前提、小前提及び結論から構成される。そして、大前提は法律要件、小前提は事実、結論は法律効果という対応関係にある。

ここでは、法的三段論法を現住建造物等放火罪の例を用いて説明する。

まず、大前提は、現住建造物等放火罪が成立する法律要件を定めた刑法108条である。

刑法
(現住建造物等放火)
第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

次に、小前提である事実は、問題文中に示される。ここでは問題文で次の事実が提示されたと仮定する。

「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。」

最後に、結論は刑法108条の法律効果が発生するか否か、すなわち、同条の構成要件に該当するか否かの見解である。例えば次のようになる。

「よって、甲の行為は現住建造物等放火罪にあたる。」

これらを視覚的分かりやすく表現するとは次のようになる。

大前提(法律要件):刑法108条(現住建造物等放火罪)

小前提(事実):「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。」

結論(法律効果):「よって、甲の行為は現住建造物等放火罪にあたる。」

これが法的三段論法である。ここで、小前提が大前提に該当するか否かの検討を「あてはめ」と呼ぶ。この事例では、問題文中の事実が、刑法108条の構成要件に該当するか否かの検討が「あてはめ」である。

答案の型

問題提起

司法試験・予備試験の論文試験(以下、「論文試験」)ではこの法的三段論法を駆使して論述をする。但し、論文試験の答案では、先ほど説明した大前提、小前提及び結論に、問題提起が加わる。そして、答案は、問題提起→大前提→小前提→結論という順番で構成される。

問題提起とは、「これから何を論述するか」を述べることである。論述する上で問題提起の存在は必須ではない。しかし、問題提起があると読み手は論述者の意図を読み取りやすくなるので、問題提起を入れることが望ましい。

先の例でいえば、問題提起は次のようになる。

「甲の行為は現住建造物等放火罪(刑法108条)にあたるか。」

なお、問題提起と結論はほぼ同じ内容になる。

適用例

前述の現住建造物等放火罪の例を論文試験問題として構成すると、問題文は次のようになる。

「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。甲の罪責を論ぜよ。」

この問題文の前半部分は先ほどの小前提である。そして、この問題文の後半部分が、「問題提起」である。ここでは「甲の罪責を論ぜよ。」という問題提起がされている。この問題提起は「甲の行為は何罪にあたるか検討せよ。」と読み替えることができる。

ここで、この問題文から判明した問題提起及び小前提を、前述の法的三段論法に乗せると次のようになる。

問題提起:「甲の罪責を論ぜよ。」(=「甲の行為は何罪にあたるか検討せよ。」)

大前提:?

小前提:「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。」

結論:?

次に、甲の行為が刑法の何罪にあたるかを検討するため、刑法の条文をピックアップする。ここでは現住建造物等放火罪に該当するか否かを論述するので、刑法108条をピックアップする。そして、このピックアップした条文が法的三段論法中の大前提となる。

そして、問題文の事実が刑法108条の構成要件に該当するか否かを検討し、あてはめ、現住建造物等放火罪が成立するか否かの結論を出す。そうすると、次のようになる。

問題提起:「甲の罪責を論ぜよ。」(=「甲の行為は何罪にあたるか検討せよ。」)

大前提:刑法108条(現住建造物等放火罪)

小前提:「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。」

結論:よって、甲は現住建造物等放火罪の罪責を負う(負わない)。

入れ子の法的三段論法

論文試験の法的三段論法の大枠は前述のとおりであるが、試験問題を解答するには、このような法的三段論法の中に、さらに別の法的三段論法を入れ込む必要がある。この入れ込む法的三段論法をここでは便宜上「入れ子の法的三段論法」と呼ぶ。

そして、「入れ子の法的三段論法」は法解釈を行う上で使用する。

例えば、現住建造物等放火罪(刑法108条)の構成要件的結果発生の有無を検討する過程において「入れ子の法的三段論法」を使用すると次のようになる。

問題提起:甲の行為によって、現住建造物等放火罪の結果が生じたか。「焼損」の意義が問題となる。

大前提:「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したことをいう。

小前提:本件では、建物の床の2メートル四方を燃やした。一辺が2メートルであるから、それは成人男性の平均身長より長く、火が床から壁に燃え移り建物全体が燃える危険があった。

結論:よって、「焼損」が認められ、結果が発生した。

この「入れ子の法的三段論法」の大前提においては「焼損」の意義について法解釈をしている。その上で、小前提の事実を大前提の解釈にあてはめている。

そして、「入れ子の法的三段論法」は最終的に法的三段論法の中に組み込まれる。この事例では「入れ子の法的三段論法」を、前述の法的三段論法の大前提に組み入れる。すると次のようになる。

問題提起:「甲の罪責を論ぜよ。」(=「甲の行為は何罪にあたるか検討せよ。」)

大前提:刑法108条(現住建造物等放火罪)

問題提起:甲の行為によって、現住建造物等放火罪の結果が生じたか。「焼損」の意義が問題となる。

 ↓ 

大前提:「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したことをいう。

↓ 

小前提:本件では、建物の床の2メートル四方を燃やした。一辺が2メートルであるから、それは成人男性の平均身長より長く、火が床から壁に燃え移り建物全体が燃える危険があった。

結論:よって、「焼損」が認められ、結果が発生した。

小前提:「甲は、乙が寝ている建物内で、段ボールに火を付けて、建物の床の2メートル四方を燃やした。」

結論:よって、甲は現住建造物等放火罪の罪責を負う(負わない)。

論点の明示

前述のとおり、「入れ子の法的三段論法」は法解釈を行う上で使用される。そのため、「入れ子の法的三段論法」の大前提では法解釈のための規範を定立する必要がある。規範とは法解釈をするための指針である。

そして、規範定立に説得力を持たせるために、なぜそのような規範を導き出したかという理由付けが必要である。この理由付けを「論証」と呼ぶ。

※なお、先の例では「焼損」の意義についての論証は展開していない。

また、規範を定立する場合、「入れ子の法的三段論法」の問題提起中で論点を明示することが望ましい。

先の例では、刑法108条の「焼損」の意味が条文だけでは不明確であるから、それを法解釈をする必要があった。そこで、「入れ子の法的三段論法」の問題提起に『「焼損」の意義が問題となる。』という論点を明示し、「入れ子の法的三段論法」の大前提で『「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したことをいう。』という規範を定立している。

これからわかるように、問題提起における論点の明示と、大前提における規範の定立は対応関係にある。

事実の評価

「入れ子の法的三段論法」の小前提における、「一辺が2メートルであるから、それは成人男性の平均身長より長く、火が床から壁に燃え移り建物全体が燃える危険があった。」の部分は事実の評価と言われるものである。事実の評価は事実の意味付けともいわれる。事実の評価は問題文中の事実を規範に当てはめるための懸け橋である。

すなわち、「建物の床の2メートル四方を燃やした。」という事実をもって、なぜ「焼損」と言えるのかを説明するため、かかる事実を評価する。

事実の評価は事前に完璧に準備できるものではなく、試験中にその場で考えるものである。そのため、骨が折れる作業であるが、論文に説得力を持たせるものであり重要である。

簡易な入れ子の法的三段論法

このようにして「入れ子の法的三段論法」は使用されるが、これとは別に「入れ子の法的三段論法」を簡易な形で使用することがある。この簡易な形の「入れ子の法的三段論法」をここでは便宜上、「簡易な入れ子の法的三段論法」と呼ぶ。

話は先の例にもどり、現住建造物等放火罪が成立するには、放火対象が「現に人がいる建造物」であることを認定する必要がある。そこで、この認定を「簡易な入れ子の法的三段論法」を使用して行うことにする。具体的には次のようになる。

『甲は、「現に人がいる建造物」である、乙が寝ている建物内で火を付けて・・・』

ここで、「現に人がいる建造物」であることの認定を、先の「焼損」の認定と同様に「入れ子の法的三段論法」を使用して行ってもよい。しかし、本件では問題文中に「乙が寝ている建物」とあるので、刑法108条の「現に人がいる建造物」の要件を満たしていることは明らかである。そのため、このような場合にも「入れ子の法的三段論法」で論述することは煩雑である。そこで、「簡易な入れ子の法的三段論法」を使用して、要件の認定を迅速・簡易に行う。

そして、この論述も法的三段論法における大前提に組み入れることができる。

型に入れない

このように「簡易な入れ子の法的三段論法」は、ある法律要件を認定する上で、「入れ子の法的三段論法」を使用するまでもない場合に使用されるものであるが、「簡易な入れ子の法的三段論法」でさえも使用する必要がない場合がある。

話は先の例にもどり、現住建造物等放火罪が成立をするには実行行為の認定、すなわち「放火」を認定する必要がある。そして、問題文で「火を付けて」とあるので、放火の実行行為が明らかに認められる。この場合は「入れ子の法的三段論法」はおろか「簡易な入れ子の法的三段論法」を利用する必要もない。そこで、「型に入れない」で論述する。具体的には次のようになる。

『甲は、「現に人がいる建造物」である、乙が寝ている建物内で火を付けており、実行行為がある。』

そして、この記述も例によって法的三段論法中の大前提に組み入れることができる。

なお、例えば問題文が放火罪の不真正不作為犯を検討させるものであれば、不真正不作為犯が成立するか否かという一大論点を展開する必要があるので、「入れ子の法的三段論法」を利用しなければ書きにくくなる。

つまり、これらのどの型を利用するかは問題文を分析して判断する。

ナンバリング

論文を書く際はナンバリングをする。ナンバリングの方法に決まりはない。下記はナンバリングの大小関係の一例である。

第1>1>(1)>ア>(ア)>ⅰ>(ⅰ)

型の集合体

刑法の論文ではこのようにして構成要件該当性を検討し、「法的三段論法」、「入れ子の法的三段論法」、「簡易な入れ子の法的三段論法」、「型に入れない」記述を組み合わせ、ナンバリングをすることで論文が完成する。本問における完成論文は次のようになる。

1 甲の行為は現住建造物等放火罪(刑法108条)にあたるか。

(1)甲は、「現に人がいる建造物」である、乙が寝ている建物内で火を付けており、実行行為がある。

(2)甲の行為によって、現住建造物等放火罪の結果が生じたか。「焼損」の意義が問題となる。

ア 「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続し得る状態に達したことをいう。

イ 本件では、建物の床の2メートル四方を燃やした。一辺が2メートルであるから、それは成人男性の平均身長より長く、火が床から壁に燃え移り建物全体が燃える危険があった。

ウ よって、「焼損」が認められ、結果が発生した。

(3)また、実行行為と結果に因果関係がある。

(4)さらに、甲は上記事実を認識・認容しているので故意がある。

2 以上より、甲の行為は現住建造物等放火罪に該当するので、甲はかかる罪の罪責を負う。

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