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刑事訴訟法

平成16年旧司法試験 刑事訴訟法論文第1問

答案例

第1 設問1
1 本件捜索差押えは令状に基づくものではないので、原則違法である(憲法35条、218条1項)。もっとも、逮捕に伴う捜索差押え(220条1項2号)として適法となるか。
(1) 「司法警察職員」である本件警察官は、本件被疑事実により逮捕状を得た上で、甲の自宅に赴いたので、「第百九十九条の規定により」の要件を満たす。
(2) そして、本件警察官は甲に対する逮捕状の発付を得ていたところ、甲の自宅に赴き、甲の妻から甲が間もなく帰宅すると聞いたので、その場で甲を逮捕する蓋然性があった。よって、甲宅内は「逮捕の現場」といえる。
(3) もっとも、本件警察官は甲を逮捕する前に甲宅内を捜索し、ナイフを差し押さえている。そこで、この行為が「逮捕する場合」に行われたといえるか。「逮捕する場合」の意義が問題となる。
ア そもそも憲法35条及び刑訴法220条が令状主義の例外として逮捕に伴う無令状捜索・差押えを認めた根拠は、逮捕の現場には逮捕被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が一般的に高いことに加えて、かかる証拠が被逮捕者等により隠匿破壊されること防止してこれを保全する緊急の必要性が高いことにある。そこで、「逮捕する場合」といえるには少なくとも逮捕に着手する現実的な可能性が必要である。
イ これを本件についてみると、甲は不在であったので、警察官が甲を逮捕する現実的な可能性はなかった。
ウ よって、本件捜索差押えは「逮捕する場合」にされたといえない。
2 以上より、上記行為は適法でない。
第2 設問2
1 本件警察官は本件覚せい剤を、強盗を被疑事実とする逮捕に伴って差し押さえることができるか。
(1) 警察官は乙を逮捕しているので、「逮捕する場合」といえる。
(2) また、前述の逮捕に伴う無令状差押えの根拠より、「逮捕の現場」とは被疑者等による証拠隠滅破壊が可能な範囲、すなわち被疑者等の身体や直接の支配下に限られると解する。
これを本件についてみると、捜索場所は乙の勤務先の引き出し内部である。引き出しの内部は同僚や上司は勝手に中を見ることは通常ないから、乙の直接の支配下といえる。
よって、本件差押え場所は「逮捕の現場」といえる。
(3) しかし、前述の逮捕に伴う無令状差押えの根拠より、無令状差押えができる物は逮捕被疑事実に関連するものに限られると解する。
これを本件についてみると、強盗と覚せい剤所持は被疑事実が異なる。
(4) よって、上記の差し押さえはできない。
2 本件警察官は覚せい剤所持の疑いで、乙を逮捕し、それに伴い覚せい剤を差押えできるか。
(1) 警察官は乙の引き出しから覚せい剤を発見したので、乙は覚せい剤所持という罪について「現に罪を行」(212条1項)っていた。よって、警察官は乙を現行犯人として逮捕できる。
(2) よって、これに伴って覚せい剤を差し押さえることができる。
3 警察官は覚せい剤を領置できるか。
(1) 所持者が任意に提出した物は領置できる(221条)
(2) よって、乙が覚せい剤を「任意に提出」(221条)すれば警察官はこれを領置できる。
4 警察官は覚せい剤を差し押さえる物として新たな令状発付を受けて差し押さえることができる。

解説

逮捕に伴う無令状捜索・差押えが許容される趣旨としては、相当説と緊急処分説がある。これらのいずれの説を採っても、「逮捕する場合」(220条1項前段)とは少なくとも逮捕に着手する現実的な可能性がある場合でなければならない。

これを設問1においてみると、甲は帰宅していないので、警察官が甲を逮捕する現実的な可能性はない。

よって、相当説と緊急処分説のいずれを採っても「逮捕する場合」に該当しないので、逮捕に伴う無令状捜索・差押えは許されないと考えられる。

なお、判例(最大判昭和36年6月7日)を基に設問1を検討すると、本件捜索差押えは適法となる余地はある。しかし、この判例は相当説の立場からも妥当性を欠くと考えられる。よって、この判例を基に適法という結論を出せば、論理的な論述が難しくなるだろう。

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