答案例
第1 被疑者が逮捕されている場合
1 可否
(1) 強制採尿は身体に対する侵襲を伴い、かつ対象者に屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるから、個人の尊厳(憲法13条)を害し、違憲な捜査とも思える。しかし、医師等の専門技術者が行えば、対象者の身体への危険を回避することができる。また、強制採尿による精神的打撃は検証としての身体検査においても同程度認められる。そこで、犯罪の性質上やむを得ないと認められ、かつ最終手段として用いられる場合に強制採尿は許されると解する。
(2) これを本件についてみると、覚せい剤使用は被害者がおらず目撃者がいることは稀である。また、覚せい剤は水に流すなどして容易に証拠隠滅が可能である。そのため、尿検査という科学的捜査の結果は覚せい剤使用の犯罪立証の決定的な証拠となる。さらに、覚せい剤使用により錯乱状態に陥り、他人に危害を加えること可能性があるから、本件被疑事実は重大犯罪である。よって、覚せい剤使用の嫌疑がある被疑者が任意の採尿を拒否した場合には強制採尿は最終手段と認められ、るやむをえないといえる。
(3) よって、上記の場合強制採尿は許される。
2 要件
(1) そもそも、尿は無価値物であるから、身体の一部ではなく、単なる物と解すべきである。また、強制採尿を鑑定処分と解すれば、鑑定受託者は被疑者が採尿を拒んだ場合に強制的にこれをすることができない(225条4項は172条を不準用、225条4項が準用する168条6項は139条を不準用)。もっとも、この場合でも身体検査令状(218条1項)を併用すれば強制採尿が可能となるが、このような取り扱いは便宜的扱いであり、理論構成に一貫性がない。
(2) よって、強制採尿は捜索差押(218条1項)の性質を有する行為といえる。
(3) もっとも、強制採尿は前述のとおり、医師等の専門技術者によってなされる必要がある。そのため、218条6項を準用して条件を附するべきである。
(4) 以上より条件付捜索差押令状に基づき行うことができる。
3 問題点
(1) 対象者が強制採尿の際に採尿場所への任意同行に応じない場合にいかなる根拠で同行を強制するかが問題となる。
(2) この点、被疑者が逮捕されている場合は身柄拘束の一環として連行できる。
第2 被疑者が逮捕されていない場合
1 可否
(1) 被疑者の身柄拘束と証拠収集活動は法理論上別のものである。
(2) よって、逮捕されていない場合と違いはない。
2 要件
可否の場合と同様に逮捕されていない場合と違いはない。
3 問題点
(1) 捜査比例の原則(197条1項本文)により強制採尿のための連行は被疑者に承諾の下に行われるのが原則である。もっとも、被疑者を連行することが事実上困難である場合に、強制力が行使できなければ強制採尿令状の発付が無意味になる。よって、強制的に連行する必要性がある。また、裁判官は強制採尿の令状発付の際に強制連行の当否も含めて検討している。
(2) よって、強制採尿のために最寄りの採尿場所への強制連行は、強制採尿令状の効力として許容される。