答案例
第1 小問1
1 本件供述調書によって証明する事実は刑罰権の存否及び範囲を画する事実であるから、かかる事実の証明は厳格な証明でなければならない(317条)。よって、本件供述調書は証拠能力を有する必要がある。
また、本件供述調書の内容は被告人甲が自己の犯罪事実の重要部分を認める供述、すなわち自白である。そして、かかる自白が「任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)であれば証拠能力が否定される。そこで、本件供述調書はかかる理由から証拠能力が否定されないか。自白の証拠能力を制限する根拠が問題となる。
(1) そもそも不任意自白の証拠能力が否定される根拠は、かかる自白は類型的に虚偽である可能性が高く、誤判を招くおそれがあること及びかかる自白の証拠能力を否定することで黙秘権を中心とする人権の侵害を防止して人権保障の実効性を担保することにあると解する。
そこで、不任意自白か否かは、①虚偽自白を誘発する状況の有無、②黙秘権を中心とする人権を不当に圧迫する状況の有無によって判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、Aは取調べ中に甲に対し「甲と乙が火をつけるのを目撃した者がいる。」という虚偽の事実を伝えた。かかる事実は甲の犯罪立証における決定的な証拠となるから、取調べ中という不安定な心理状態にある甲にとって虚偽の自白が誘発される危険性が高かった(①)。
また、決定的な証拠の存在は、甲が黙秘権を行使して、防御する意欲を削ぐものである(②)。
(3) よって、本件供述調書は不任意自白であるから証拠能力がない
2 よって、証拠とすることができない。
第2 小問2
1 小問1と同様の理由で本件供述調書は証拠能力を有する必要がある。そして、「公判期日における供述に代えて書面を証拠と・・・することはできない」(320条1項)ところ、本件供述調書はかかる書面に該当するか。伝聞証拠の意義が問題となる。
(1) 伝聞法則の趣旨は伝聞証拠に対しては反対尋問や裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察をなしえない点にある。すなわち、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるところ、各過程には誤りが介在するおそれがあるので、宣誓とこれに伴う偽証罪による処罰の予告がなされる公判期日において反対尋問(憲法37条2項前段参照)による吟味、裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察が必要である。しかし、伝聞証拠に対してはかかる反対尋問や裁判官による直接視認・観察をなしえない。そのため伝聞証拠の証拠能力が否定される。
そこで、かかる趣旨に鑑み、伝聞証拠にあたるか否かは、要証事実との関係で、供述内容の正確性・真実性について供述状況の直接観察や反対尋問による吟味が要請されるか否かにより相対的に決せられると解する。
したがって、伝聞証拠とは①公判期日外の供述を内容とする証拠で、②その供述内容の真実性を立証するために提出・使用される証拠を指すと解する。
(2) これを本件についてみると、本件供述調書はAの取調べに基づいて作成されたので、公判期日外の供述を内容とする証拠である(①)。
そして、本件供述証書によって立証する事実は乙の犯人性であるところ、かかる事実の立証は「乙と一緒に放火した。」という供述内容の真実性を立証することに等しい(②)。
(3) よって、本件供述証拠は伝聞証拠にあたり、弁護人の同意(3326条1項)がない本件では、証拠能力が否定されるとも思える。
2 もっとも、伝聞例外(321条以下)にあたり証拠能力が認められないか。
(1) 甲と乙が共同被告人でない場合、本件供述調書を乙に対する証拠として利用するには321条1項3号の要件を充足する必要がある。また、甲と乙が共同被告人である場合、乙にとって甲は第三者であるから、「被告人以外の者」(321条1項柱書)にあたる。よって、かかる場合も本件供述調書は321条1項3号の要件を充足する必要がある。
(2) これを本件についてみると、「供述者」である甲は「死亡」しているので公判期日で供述できない。そして、乙は公訴事実を否認しているので、本件供述調書の甲の供述は乙の「犯罪事実の存否の証明に欠くことができないもの」といえる。しかし、前述のとおり不任意自白と認められた本件供述調書の収集過程は「特に信用すべき情況の下」といえない。
(3) よって、本件供述調書は321条1項3号の要件を充足しないので、証拠能力を有しない。
3 以上より、本件供述調書を証拠とすることはできない。
解説
伝聞法則検討の要否
本件供述調書を甲に対する証拠として利用する場合、本件供述調書は自白調書ということになる。そこで、小問1では本件供述調書につき319条1項の検討をする。
また、小問1では本件供述調書につき伝聞法則も問題となりうる。すなわち、本件供述調書につき小問2と同様に伝聞証拠と認定した上で、伝聞例外に該当するかを検討することが可能である。しかし、本件供述調書は後述のとおり322条1項により伝聞例外に該当し、証拠能力が認められることが明らかであるから、小問1で伝聞法則の論述をする実益はない。
自白法則と伝聞法則
本件自白調書は、「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」であるから、322条1項本文で証拠能力が肯定される。また、322条1項ただし書は本件自白調書においては検討する必要はない。
なぜなら、322条1項ただし書は自白調書に適用されないからである。すなわち、自白調書の任意性は319条1項で検討するから、319条を準用する322条1項ただし書で検討する必要がないのである。
そのため、322条1項ただし書は「自白にあたらない、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面」において検討する。