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刑事訴訟法

平成19年旧司法試験 刑事訴訟法論文第2問

答案例

1 本件認定における実行行為者の択一的な認定は許されるか。
(1) 同一構成要件内の事実に関する択一的な認定の場合、かかる択一的認定が「罪となるべき事実」(335条1項)の特定に不可欠な事項の認定ではなく、細部の事実の認定であれば許されると解する。
そして、「罪となるべき事実」とは構成要件に該当する具体的事実を指すと解するから、「罪となるべき事実」の認定は特定の構成要件に該当するか否かを判断するに足りる程度に具体的であれば足りる。
(2) これを本件についてみると、共謀共同正犯においては共謀関与者の一人が犯罪を実行すれば、他の共謀関与者も実行者と同様の責任を負う。そうであれば上記認定は同一構成要件内の事実に関する択一的な認定である。
そして、甲と氏名不詳者以外の関与がなく、そのいずれか又は両名がAを殺害したと認定できれば、かかる認定は殺人罪の構成要件に該当するか否かを判断するに足りる程度に具体的であるといえる。
よって、本件認定は「罪となるべき事実」を認定として不備はないから、本件認定は同一構成要件内の細部の事実の認定である。
(3) 以上より、本件認定は許される。
2 「氏名不詳者と共謀の上」という認定は許されるか。
(1) 前述と同様の基準で検討すると、氏名不詳者及び甲以外の共謀がないと認定できれば、かかる認定は共謀の事実を認定するに足りる程度に具体的であるといえる。
よって、上記認定は「罪となるべき事実」を認定として不備はなく、同一構成要件内の細部の事実の認定である。
(2) 以上より上記認定は許される。
3 そうだとしても、上記認定と訴因にずれが生じているので、不告不理の原則(378条3号)に反し許されないのではないか。訴因変更の要否及び判断基準が問題となる。
(1) 当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下、審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であるから、事実に変更があれば訴因変更が必要であると解する。もっとも、軽微な変更にまで訴因変更を要求することは訴訟経済の観点から妥当でない。そこで、重要な事実に変更があれば訴因変更が必要であると解する。そして、訴因特定の趣旨は裁判官の審判対象を画定する点(識別機能)及び被告人に防御の範囲を示す点(告知機能)にある。そして、訴因が他の犯罪と識別できれば被告人の防御の範囲が明確となり、告知機能が作用したといえるので、識別機能が第一次的機能であると解する。
そうであれば、まず、審判対象の画定に不可欠な事項の変更があれば訴因変更を要する。
次に、それ以外の場合でも一般に被告人の防御にとって重要であり、訴因として明示された事実に変更があれば訴因変更を要する。もっとも、かかる場合でも、被告人の防御の具体的状況等の審理の経過に照らして被告人にとって不意打ちとならず、認定事実が訴因と比べて被告人に不利益とはいえない場合には例外的に訴因変更を要しないと解する。
(2) これを本件についてみると、まず、共謀共同正犯において共謀者及び実行行為者は訴因の特定に不可欠な事項ではないので、かかる事項は審判対象の画定に必要な事項ではない。
次に、共謀者及び実行行為者が誰であるかは一般に被告人の防御にとって重要な事項であり、本件では訴因で明示されている。しかし、本件では甲は公判で乙との共謀を否認し、実行行為が乙ではなく、氏名不詳の男であると主張した。そうであれば、共謀者及び実行行為者が誰であるかにつき公判で審理されていると考えられる。よって、甲の防御の具体的状況の審理の経過に照らすと甲に不意打ちにはならない。また、本件認定は訴因と比べて甲に不利益とはいえない。
(3) 以上より、本件認定において訴因変更は不要であるから、不告不理の原則に反しない。

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