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労働法

令和2年司法試験 労働法論文第2問

答案例

第1 設問1
1 まず、E組合はA社が本件団体交渉を拒絶したことは団交拒否(労組法7条2号)及び支配加入(同3号)にあたることを理由に、労働委員会に対し労組法27条1項に基づいて、「A社は本件交渉事項にかかる団体交渉に応じなければならない」旨の救済命令及び支配介入を行わない旨のポストノーティスを申立てる。
2 次に、E組合は裁判所に対し、憲法28条及び労組法7条2号に基づいて団体交渉請求権(以下、「団交請求権」という。)を被保全債権とする、団交応諾仮処分を求めることができるか。私法上の団交請求権の存否が問題となる。
(1) 団交拒否を定めた労組法の規定は公法上の義務を定めたものに過ぎないので、労組法により私法上の団交請求権を導き出すことはできない。また、仮に私法上の団交請求権を認めても、使用者の給付内容が不明確であるため、団交請求権の強制執行は実効性が乏しい。よって、憲法28条や労組法は私法上の団交請求権を認めているとは解されない。
(2) 以上より、E組合は上記を求めることができない。
3 そこで、E組合は裁判所に対し、労組法1条、6条、14条、及び16条に基づいて、団体交渉を求め得る法的地位の確認する判決を求めることができるか。
(1) 同条は憲法28条に基づき、法適合組合(労組法2条、5条2項)が使用者に対して義務的団交事項につき団体交渉を求め得る法的地位を私法上設定していると解される。
(2) よって、E組合は上記判決を求めることができる。
4 また、E組合は裁判所に対し、民法709条に基づいて不法行為に基づく損害賠償請求の判決を求める。
第2 設問2
1 本件減給処分は、労働者Cの労働条件に関する事項であって、使用者に解決可能なものである。よって、本件交渉事項は義務的団交事項(労組法7条2号参照)であるところ、A社による本件団体交渉拒否は許されるか。
(1) まず、使用者は「正当な理由」があれば団体交渉を拒める(同号)。そこで、A社が組合員名簿の提出を求めたことは「正当な理由」にあたるか。
ア 団体交渉において組合員を特定する必要がある特段の事情がある場合を除いて、組合員名簿の不提出は「正当な理由」にあたらないと解する。
イ これを本件についてみると、本件交渉事項はCの処分に関する者であり、C以外の組合員を特定する必要はない。
ウ よって、上記は「正当な理由」にあたらない。
(2) 次に、CがB組合に加入していることが「正当な理由」にあたるか。
ア CがB組合に本件減給処分につき相談をしたところ、B組合は「既に解決済み」という回答をした。そうであればB組合が本件減給処分につき団体交渉を申し入れることはないと考えられる。そのため、E組合が団体交渉をしても二重交渉にはならない。
イ よって、上記は「正当な理由」にあたらない。
(3) また、Cが管理職員であることで、E組合は法適合組合にあたらず、労組法の救済を受けられないのではないか。「使用者の利益を代表する者」(労組法2条1号)の意義が問題となる。
ア 同号は2条本文に加重した消極要件であるところ、組合員の資格によって組合自治への不当な制限とならないよう、同号の要件該当性は実質的に判断すべきである。そして、「使用者の利益を代表する者」とは、同号の文言上、管理職一般ではなく、管理職の中でも特定の人事権を直接有する者に限定されると解する。
イ これを本件についてみると、
(ア) Cの勤務内容及び処遇の①につき、確かにCは人事考課を行っているが、その対象はCが所属する課員に限定されている。また、かかる人事考課は最終的に人事課に提出されるので、Cが課員の人事を直接左右できるものではない。また、②につき、Cの役割は希望を聴取して、取りまとめるという事務的な作業に過ぎない。よって、Cは特定の人事権を直接有する者とはいえない。
(イ) ③につき、Cの職務は人事に関係がない。④につき、経営会議及び取締役会においては所属する課に関するものだけに出席し、議決権はない。よって、Cが「機密の事項に接し」ているとはいえない。
(ウ) ⑤及び⑥につき、Cは管理職的な扱いを受けている。しかし、上記の権限を考慮すればE組合の自主性を損なわせるほどの立場にはない。
ウ よって、Cは同号に該当する者とはいえないので、Cが所属するE組合は法適合組合の要件を充足するといえ、労組法上の救済を受けられる。
2 以上より、A社の団交拒否は許されず、Eの救済は認められる。
3 また、A社の団交拒否はE組合の法適合性を否定して組合活動を萎縮させるものである。よって、支配介入にあたるから、Eの救済は認められる。

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