答案例
第1 小問1
1 訴訟要件が具備されていなければ裁判所は訴訟判決たる却下判決をする。そして、訴訟要件とは本案審理を続行して本案判決をするための要件であるところ、訴訟要件の一つに、訴訟物について自ら訴訟追行し、本案判決を求める得る資格たる当事者適格がある。そこで、甲に当事者適格が認められるか。
(1) 債権者代位訴訟(民法423条1項)においては、被保全権利の存在が原告たる債権者の当事者適格を基礎づけている。そのため、被保全債権が存在しなければ当事者適格がなく、訴訟要件が不存在である。
(2) これを本件についてみると、被保全権利たる甲の乙に対する債権が不存在である。
(3) よって、訴訟要件が不存在である。
2 以上より、裁判所請求却下判決をすべきである。
第2 小問2
1 判決が確定した場合、前訴の判断内容の後訴における拘束力(既判力)が生じる(114条1項)ところ、本件判決に既判力が生じるか。
(1) 訴訟の弾力化・簡易化のため、既判力は訴訟物たる権利関係の存否の判断についてのみ生じると解する。そして、請求却下判決では本案審理がなされないので、訴訟物たる権利関係の存否の判断はなされない。よって、請求却下判決では既判力は生じないとも思える。しかし、既判力の根拠は手続き保障に基づく自己責任、機能は紛争の蒸し返しの防止にある。そして、請求却下判決では訴訟要件の存否につき当事者に争う機会が保証され、また、同一内容の訴訟要件の具備に関する紛争につき蒸し返しを防止する必要がある。そこで、請求却下判決にも既判力の趣旨が妥当する。よって、請求却下判決にはかかる判決における訴訟要件の不存在の判断につき既判力が生じると解する。
(2) これを本件についてみると、甲の当事者適格がないという訴訟要件の不存在という訴訟判決が確定した。
(3) よって、当事者適格がなく訴訟要件の不存在である点に既判力が生じる。
2 以上より、本件訴えは不適法である点に既判力が生じる。
第3 小問3
1 乙は権利主張参加(47条1項後段)の要件を具備して、独立当事者参加できるか。二重起訴禁止(142条)の該当の有無、当事者適格の有無、権利主張参加の要件該当の有無が問題となる。
(1) 甲丙間訴訟が係属中であるから、乙の丙に対する訴訟は二重起訴に該当しないか。「事件」の同一性の判断基準が問題となる。
ア 「事件」の同一性は当事者及び審判対象の同一性で判断する。そうすると、両訴訟の訴訟物はいずれも乙の丙に対する売買代金支払請求権であり同一である。また、両訴訟の当事者は形式的には異なるが、既判力が乙に及ぶ(115条1項2号)ことから実質的には同一である。よって、「事件」の同一性が認められ、二重起訴にあるとも思える。しかし、独立当事者参加では併合審理が強制され、訴訟の目的が合一に確定するから、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触の恐れという二重起訴禁止の趣旨が妥当しない。よって、二重起訴に反しない。
イ これを本件についてみると、乙の請求は独立当事者参加に基づくものである。
ウ よって、二重起訴に反しない。
(2) また、乙は甲丙訴訟が係属しても管理処分権を失わない(民法423条の5)ので、乙には当事者適格がある。
(3) では、権利主張参加の要件を満たすか。
ア 権利主張参加の趣旨は参加人が本訴当事者をけん制しつつ、自らの請求をして三者間での合一確定を図る点にある。そこで、本訴請求と参加人の請求が論理的に両立しない場合に認められる。また、かかる非両立は請求の趣旨レベルで非両立であれば足りると解する。
イ これを本件についてみると、甲の請求は丙から甲への支払、乙の請求は丙から乙への支払であるから、請求の趣旨レベルで非両立関係にある。
2 以上より、権利主張参加は認められる。