答案例
第1 設問1
1 XはWに対し別訴を提起の上、弁論併合(152条1項)を申し立てる。しかし、弁論併合をするか否かの判断は裁判所の裁量であるから、必ずしも認められるとは限らない。そこで、Xは同時審判の申出(41条1項)ができないか。
(1) 本件訴訟の訴訟物はXのYに対する所有権に基づく返還請求権としての乙建物収去甲土地明渡請求権であり、XW訴訟の訴訟物はXのZに対する乙建物退去甲土地明渡請求権であるところ、これらは法律上併存しうる関係にある。
(2) よって、上記申出は認められない。
2 そこで、本件訴訟にWを当事者として追加できないか。明文なき主観的追加的変更の可否が問題となる。
(1) かかる変更を認めると訴訟の複雑化を招き、軽率な訴訟や訴訟の濫用がなされる危険がある。また、かかる方法を認めなくとも弁論併合という別の方法が採れる。
(2) よって、かかる方法は認められないと解する。
3 また、本件訴訟では訴訟係属中にWがYの紛争主体たる地位を取得していないので、訴訟承継(50条1項)は利用できない。
4 以上より、XはWに別訴を提起して、弁論併合を申し立てる方法を採り得る。
第2 設問1①
1 Yの陳述は裁判上の自白(179条)にあたるか。
(1) 裁判上の自白とは相手方の主張と一致する自己の不利益な事実の陳述をいう。そして、裁判所は当事者が争わない事実はそのまま判決の基礎をとしなければならない(弁論主義第2テーゼ)ところ、弁論主義の根拠は当事者の意思の尊重、機能は不意打ち防止にある。そうであれば、裁判上の自白は訴訟の勝負を決する主要事実にのみに及ぼせば十分であるから、裁判上の自白は主要事実にのみ生じる。また、基準の明確性の要請のため、不利益な事実とは相手方が証明責任を負う事実を指すと解する。さらに、基準の明確性及び当事者の公平性の要請のため、証明責任は実体法を基準として定めるべきである。よって、ある法律効果を主張するものがかかる法律要件の証明責任を負うと解する。
(2) これを本件についてみると、Xは甲土地の所有者であることの証明責任を負うところ、かかる事実は主要事実である。
(3) よって、Yの陳述は裁判上の自白にあたる。
2 そこで、かかる自白の効果がWに及ぶか。
(1) 訴訟承継の場合、承継人には被承継人の訴訟行為によって代替的手続保証が及んでいる。そのため、承継人は従前の訴訟状態に拘束され、被承継人がなし得ない訴訟行為を原則することはできない(訴訟状態帰属効)。もっとも、かかる代替的手続保証が及んでいない場合、すなわち、被承継人の訴訟行為が馴合的・詐害的で信義則(2条)に反する場合には例外的に訴訟状態帰属効が生じないと解する。
(2) これを本件についてみると、WはYから土地明渡義務を承継したことを理由に本件訴訟に義務承継人として参加承継(51条前段、49条)している。そして、AX間売買の前の賃借権設定の事実を主張し、Xに対抗要件具備の抗弁を主張している。そのため、Yの陳述はかかる主張と整合的であり、馴合的・詐害的とはいえない。
(3) よって、Wに上記自白の効力が及ぶ。そして、自白は原則撤回できないため、上記自白と矛盾する主張、すなわちAX間の契約締結事実が無いという主張をすることができない。
3 以上より、WがYの陳述を争えないという意義を有する。
第3 設問2②
1 参加承継の場合、一人の訴訟行為は全員の利益においてのみその効力を生じる(51条前段、47条4項、40条1項)。
(1) これを本件についてみると、WはYから乙建物を賃借しているから、Yの乙建物の占有権原を妨げる事情はWにとって不利益である。そして、Yの陳述はかかる事情を認めるものである。
(2) よって、Yの陳述はWに効力を生じない。
2 以上より、Yの陳述はWとの関係で意義を有しない。
第4 設問2③
1 引受承継の場合、弁論の分離が禁止される(50条3項、41条1項、3項)ものの、通常共同訴訟の形態をとるに過ぎない。そのため、共同訴訟人独立の原則(39条)が適用される。
(1) これを本件についてみると、Xの申し立てによりWに引受承継(50条1項)があった。そのため、本件訴訟は通常共同訴訟となった。
(2) よって、Yの陳述という訴訟行為は他の共同訴訟人たるWに影響を及ぼさない。
2 以上より、Yの陳述はWとの関係で意義を有しない。