答案例
第1 設問1
1 Xは、本件勧告は法令違反を理由とする行政上の処分であるから、Xの信頼を失墜させ、Xが今後業務を行うことに支障をきたすから、「処分」(行訴法3条2項)にあたると主張する。
2 これに対し、Yは本件勧告は行政指導であるから、Xは本件勧告に従う義務はなく、Xに法的効果をもたらすものではないと反論する。
3 「処分」とは公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められたものをいう。
(1) これを本件についてみると、本件勧告はYが一方的になしたものであるから公権力性がある。
(2) 本件勧告をしようとする場合には知事は条例49条の意見陳述の機会の付与をしなければならないところ、かかる既定の存在は本件勧告が被処分者に重大な不利益をもたらすことを前提としていることを意味する。また、条例50条の文言上、本件勧告に従わない場合には本件公表が相当程度の確実さをもってなされるといえる。そして、本件公表により被処分者の信頼は失墜し、経営に深刻な影響が及ぶという損害が発生する。また、一旦公表がなされると後に公表が取り消されても、失墜した信頼の回復は困難である。そのため、本件勧告時点で取り消す必要がある。よって、本件勧告はXの権利義務を直接形成するものといえる。
(3) 以上より、Xは本件勧告は「処分」にあたると主張する。
4 Xは前述と同様に本件公表がXに重大な影響をもたらすことを理由に、本件公表が「処分」にあたると主張する。これに対し、Yは本件公表は一般消費者に対する情報提供であり、その後に何らの制裁もなされないから、Xに対する効果は事実上のものに過ぎないと反論する。
(1) 本件公表が「処分」にあたるか、前述の基準で検討する。
(2) 本件公表はYが一方的になしたものであるから、公権力性がある。また、本件公表によりXの信頼は失墜し、それにより融資先からの融資が受けられなくなり、経営に深刻な影響が及ぶという損害が発生する。そうであれば、本件公表はXの権利義務を形成するといえる。また、前述のとおり一旦公表がなされると被害回復が困難であるから、取消訴訟を提起し、執行停止の申立てをすることでは不十分である。
(3) 以上より、Xは本件勧告は「処分」にあたると主張する。
第2 設問2
1 Xは条例25条4号に違反していないと主張する。
(1) これに対し、Yは同号該当の判断には行政に裁量があり、本件でも同号に該当すると反論する。
(2) 条例48条は「おそれがあると認めるとき」という抽象的な文言であり、消費者の影響を考慮する条例の要件該当の判断には専門技術的判断が必要である。そのため、Yに要件裁量がある。そこで、行政庁の判断結果及び過程につき重要な事実の基礎を欠くか、社会観念上著しく妥当性を欠く場合には、逸脱濫用があり処分は違法となる(行訴訟30条)。
(3) 条例48条の要件該当の有無にあたっては、違反行為を今後も行う可能性があるかということを重視すべきであるところ、本件ではXが従業員に指導しているので、かかる可能性が低い。そうであればYは考慮すべき事項を考慮していないといえ、裁量の逸脱濫用がある
(4) よって、Xは条例48条に該当するというYの判断が違法である主張する。
2 XはYが本件勧告という処分を選択したことが違法であると主張する。
(1) これに対し、Yは同条は「指導し、又は勧告」を「できる」と規定し、いかなる処分をするかは要件裁量と同様に専門技術的判断が必要なるから、効果裁量があり、本件勧告は適法であると反論する。
(2) 効果裁量の逸脱濫用の有無を前述の基準で検討する。
(3) 本件勧告の原因のなった行為はXの従業員の一部がなしたことであり、Xが組織的におこなったものとはいえない。また、Xは従業員に指導教育したと意見陳述しており、Xの背信性は低い。かかる事情に鑑みれば本件勧告は比例原則に反し、裁量の逸脱濫用がある。
(4) よって、Xは上記主張をする。