答案例
第1 設問1
1 Cは、本件借入れは、その前提として必要な役会決議を経ていないことを理由に無効であると主張する。
2 そこで、本件ではいかなる理由に基づく役会決議が必要であるか。
(1) 本件借入れにつき、Bは貸主ではなく、またYを代表していない。また、「ために」(356条1項2号)とは「自己又は会社の名義において」を意味すると解する。そのため、形式的にみれば取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引したとはいえない。また、YのXに対する貸付の金利は、Bが金融機関から借り入れた際の金利に若干上乗せされたものであるから、YとBを同視することはできない。しかし、BはYの創業者であり、Yの発行済株式の90%以上を有しているから、Yの利益はBの利益と同視できる。そのため、実質的にみれば本件借入れはXとBとの取引といえる。
(2) よって、本件借入れは直接取引(356条1項2号)にあたり、役会決議が必要である。
3 本件では事実関係5において役会決議を経ているところ、かかる決議は有効か。
(1) Bは忠実義務違反のおそれのある、会社の利益と衝突をする個人的利害関係を有するから、「特別の利害関係を有する取締役」である。そのため、Bは本件役会において議決権を行使できない(369条2項)にも関わらず、決議に参加している。そこで、かかる決議の方法の瑕疵により決議が無効とならないか。
ア 決議方法に瑕疵がある役会は一般原則に従い原則無効であるが、瑕疵が決議の効力に影響を及ぼさない場合には例外的に有効であると解する。
イ これを本件についてみると、本件決議には議決権を有するBを除く取締役4名の過半数が出席し、その過半数たる3名の賛成があったので、Bを除いても有効に決議がなされたといえる。
ウ よって、上記瑕疵は決議に影響を及ぼさない。
(2) また、直接取引を行う場合には取締役は重要な事実を取締役会に開示しなければならない(356条1項柱書、365条1項)ところ、Bはこれを行っておらず、瑕疵があり、無効とならないか。
ア 借入れにおいて金利は最も重要な条件である。また、貸付金の出所は会社のコンプライアンス上重要な情報である。そうであれば事実関係6の事情は「重要な事実」にあたる。しかし、Bはこれを開示していない。そして、かかる手続きの瑕疵は決議の効力に影響を及ぼすものである。
イ よって、本件決議は無効である。
(3) そして、取締役会の承認を欠く直接取引は、取引の直接の相手方に対しては常に無効主張できると解する。
4 以上より、CはYに対し本件借入れが無効であると主張できる。
第2 設問2
1 Xの取締役であるBは「株主等」(828条2項1号)であるから、本件発行に無効事由があればXを被告(834条2号)として、発行の効力発生日から6か月以内に募集株式発行の無効の訴え(828条1項2号)を提起することができる。
2 そこで、本件発行に無効事由があるか。その意義が問題となる。
(1) 取引安全及び資金調達が無効とされた場合に生じる混乱への懸念から、無効事由は重大な法令・定款違反に限られると解する。
(2) これを本件についてみると、本件発行の払込金額は既存の株価の半分以下である。これは会社が資金調達の目的を達せられる限度で、株主に最も有利な価額である公正価額より低い金額、すなわち「特に有利な金額」(199条3項)といえ、募集株式の発行には株主総会決議が必要である(199条3項、201条1項)。しかし、本件では株主総会の決議を経ていない。もっとも、授権資本制度の下、募集株式の発行は業務執行に準ずるものといえ、また、株主の保護は212条等の責任等で図ることが可能であるから、本件で株主総会決議を経ていないことは重大な法令違反には当たらないと解する。
(3) よって、無効事由はない。
3 以上より、Bは無効主張できない。