答案例
第1 設問1
1 「株主等」であるAは本件総会には831条1項1号の取消事由があることを理由に、本件総会決議の日から3か月以内にXを被告として、本件総会の取消しの訴えを提起する(834条17号)。
2 そこで、本件総会に取消事由があるか。
(1) Aは株主の地位に基づき、自らが解任される議案につき解任理由の説明を取締役Bに求めている。しかし、Bは理由を説明していない。また、本件では314条ただし書に該当する事情はない。
(2) よって、総会の決議の方法が法令違反(831条1項1号)であるので、取消事由がある。
3 そして、314条の説明義務は公正な総会決議のために重要な手続きであるから、「違反する事実が重大」であるから、831条2項による裁量棄却事由に該当しない。
4 以上より、Aは本件総会の効力を争うことができる。
第2 設問2
1 Aの433条に基づく閲覧請求は認められるか。
(1) AはYの株式の15%を有しており、「発行済株式の百分の三」の要件を満たす。
(2) Aは交換比率の妥当性の検討という理由を明らかにしている。そして、株主は会社内部の記帳状況を通常知り得ないから、閲覧対象を特定する必要はない。よって、Aの本件請求は適法とも思える。
(3) しかし、Yは日本国内で新築マンションの企画販売を行い、Zは関東地方を中心に中古不動産の販売等を行っているので、両者は競争関係にある。なお、競争関係にあるか否かの判断につき、433条2項3号の文言上、請求者の主観的意図は不要である。そして、AはZの67%の株式を有し、かつその他の株主もAの親族のみである。よって、Aの請求は433条2項3号に該当するから、Yはかかる請求を拒める。
2 以上より、Aの請求は認められないから、Yは拒むことができる。
第3 設問3①
1 Aは784条の2第1号に基づき、本件株式交換契約をやめることを請求する。
(1) そこで、本件株式交換契約に法令違反が存在する必要があるところ、本件総会に831条1項3号の取消事由が認められないか。
ア 「特別の利害関係を有する者」とは、議案の決議によって他の株主と共通しない特別な利益を獲得し、又は義務を免れる株主を指すところ、Xは本件株式交換契約の当事者であるから、これにあたる。そして、Yの本件交換比率は不当であるから、「著しく不当な決議」がなされたといえる。
イ よって、取消事由がある。そのため、本件株式交換契約の承認は取消事由の存する総会決議によってなされているので、法令違反がある。
(2) また、合併比率の不公正により株主Aは不利益を受ける恐れがある。
(3) 以上より、上記請求ができる。
2 また、Aは本件総会で反対しているので、本件総会先立って本件株式交換契約に反対する旨を通知していれば株式買取請求ができる(785条)。
第4 設問3②
1 Aは株主総会決議取消しの訴えを提起することが考えられるが、画一的処理の要請から、株式交換の効力発生後は取消しの訴えは株式交換無効の訴え(828条1項11号)に吸収され、取消しの訴えは提起できないと解する。
2 そのため、AはXYを被告として(834条11号)、本件株式交換の効力発生日から6か月以内に無効の訴えを提起する。そこで、無効事由が認められるか。
(1) 取引の安全及び組織再編の無効に伴う影響を考慮して、無効事由は重大な瑕疵に限られると解する。
(2) これを本件についてみると、交換比率の不当につき、交換比率は当事者同士の交渉に期待すべきもので、裁判所が事後的に審査するとかえって取引の安全を害する。また、損害を受けた株主の保護は株式買取請求や、役員等の責任追及で補填できる。よって、交換比率の不当は重大な瑕疵とは言えない。
(3) しかし、本件では取消事由のある総会決議で承認がなされている。承認決議は株主の利益を保護のため重要な手続きであるから、重大な瑕疵があるといえる。
(4) よって、無効の訴えを提起できる。もっとも、総会決議の効力の早期確定という取消しの訴えの趣旨貫徹のため、総会決議の3か月以内に上記訴えを提起しなければならない。
3 Aは429条1項に基づいてBに対し損害賠償請求する。
(1) 同項の趣旨は役員等に特別の法廷責任を負わせ、第三者を保護する点にある。
(2) よって、Yの代表取締役が本件総会の取消事由の存在という任務懈怠につき悪意又は重過失があれば、第三者Yは直接損害たる合併比率の不公正による損害を請求できる。