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商法

平成18年旧司法試験 商法論文第2問

答案例

1 XがYに本件請求をするには受取人から最終被裏書人まで各裏書の記載が手形面上で間断なく続いている必要がある(裏書の連続、77条1項1号、16条1項)。本件では受取人欄が「Z社大阪支店」、裏書人欄が「Z社大阪支店長甲山一郎」であるところ、裏書の連続が認められるか。その判断基準が問題となる。
(1) 裏書の連続の定義より、裏書の連続の有無は手形の記載から形式的・外形的に判断すべきである。もっとも、裏書人とその直前の受取人の記載は完全一致する必要はなく、社会通念上同一人を指すと認められれば裏書の連続は認められる。そして、多義的記載がある場合には、受取人欄と裏書人欄の記載を比較・対照して、多義的内容のいずれかが一義的内容の記載に一致するかを判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、両者の文言を比較すると「Z社大阪支店」という一義的内容の記載に一致する。
(3) よって、本件では裏書の連続が認められる。
2 そうだとしても、本件手形は振出し時に受取人欄、満期欄及び振出日欄を空白しているところ、満期日欄と振出日欄の空白は手形要件の記載の欠缺とはならない(76条2項、4項)が、受取人欄空白という手形要件を欠いており、原則無効となる(76条1項)。他方、77条2項、10条は白地手形の存在を前提とした規定である。また、白地手形は商慣習上認められている。そこで、無効な手形と白地手形をいかに区別すべきか。その判断基準が問題となる。
(1) 無効な手形と白地手形は白地補充権の有無により区別されるところ、両者の区別は当事者の主観的意思により決めざるを得ない。そこで、当事者間における補充権付与の合意の有無で両者を区別すると解する。
(2) これを本件についてみると、AはBが仲介者として行動しやすいように本件手形をいわゆる見せ手形として振出したに過ぎないから、ABに補充権付与の合意はない。
(3) よって、本件手形は無効とも思える。
3 もっとも、取引安全の保護のため、虚偽の外観、外観作出者の帰責性、第三者の信頼があれば手形債務者は手形の無効を第三者たる所持人に対抗できないと解する(権利外観法理)。なお、第三者の信頼につき、10条を類推適用して善意無重過失で足りると解する。
(1) これを本件についてみると、Aは白地手形のような外観を有する本件手形を、見せ手形として振り出しているから、虚偽の外観及び帰責性がある。
(2) よって、Xが善意無重過失であれば、XはYに本件請求ができるとも思える。
4 そうだとしても、本件手形は見せ手形であるから、AB間ではYが手形債務を負担する合意なかった。そこで、民法94条1項により本件手形行為は無効とならないか。手形行為への民法の意思表示の一般原則の適用の有無が問題となる。
(1) 手形法では法律行為自由の原則を修正し、手形行為は厳格な要式行為とされ、その意思表示は極度に定型化されている。そのため、民法の意思表示の一般原則は適用されず、手形であることを認識して署名すれば手形行為は有効に成立すると解する。そして、意思表示の瑕疵は人的抗弁にとどまる。
(2) Aは手形と認識して署名しているから、本件手形は有効である。
5 そこで、Xの請求が77条1項1号、17条ただし書にあたるとして、請求を拒めないか。「債務者を害することを知りて」の意義が問題となる。
(1) 17条本文は取引の安全のため、債権譲渡における抗弁承継の一般原則(民法468条1項)を遮断する政策的保護を図るものである。そして、同条ただし書は政策的保護に値しない主観的事情を有する者の保護を排除するものである。そこで、「債務者を害することを知りて」とは、手形所持人が手形取得時に、満期に手形債務者が所持人の直前の前者に対して、抗弁を主張して手形の支払いを拒むことは確実だと認識していた場合と解する。
(2) これを本件についてみると、Xにかかる認識はない。
(3) よって、上記場合にあたらない。
6 以上より、XのYに対する請求は認められる。

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