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その他

法律系資格の択一試験勉強の指針

試験勉強とは

法律系の資格試験では、基本的に条文とその解釈が問われる。よって、法律系の資格試験の勉強とは、条文とその解釈を「試験合格に必要な範囲で」学習することである。

条文

条文とは法律で第何条というように規定されてあるものを指す。そして、「条文を学習する」ことは、条文を読むことから始まる。もっとも、条文を読んだだけで条文を理解することはできない。そこで、条文の意味を理解するために、予備校の講座を受講したり、書籍を読んだりすることが必要である。これに関しては、条文を読む前に予備校の講座を受講すると学習効率がよい。このような講座は、巷では基礎講座、入門講座、初級講座と呼ばれる。また、予備校の講座ではなく、書籍を読むことでも条文を理解することはできる。このような書籍は巷では入門書、基本書と呼ばれる。しかし、初学者が書籍を読んでその内容を理解することは相当な労力がいる。これを例えて説明すると、予備校を利用せずに書籍だけで学習することは、登山ルートが分からない状態で山頂を目指すようなものである。登山の際には登山ガイドを雇い、効率よく山頂を目指すように、試験勉強においても予備校というガイドを利用して効率よく試験合格を目指すべきである。ただし、試験勉強そのものを楽しむならば、予備校を利用する必要はない。

解釈

解釈とは法の意味内容を理解することである。解釈についての詳細な説明はここでは割愛するが、法律系の試験勉強では、基本的に最高裁判所の解釈を学習する。そして、最高裁判所の解釈は判例と呼ばれる。なぜ判例を試験で問うかというと、実務が判例を中心として運用されているからである。もっとも、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)は実務上必ずしもこの判例に拘束されるわけではない。したがって、司法試験や司法試験予備試験の論文試験では「判例の解釈に沿って解答せよ」という条件が付されることは稀である。これに対し、法曹三者以外の職業では判例を前提に実務が運用される。よって、司法試験や司法試験予備試験の論文試験以外の資格試験では、解釈については基本的に判例が問われる。

ところで、解釈は人それぞれ異なってよいものである。仮に法学の研究者になるのであれば最高裁判所の解釈を採る必要はない。つまり、自分で好きなように解釈をして、論理的にまとめる行為は、大学教授や法学部・法科大学院の学生がすることである。

なお、司法試験や司法試験予備試験の択一試験では、ある学説をとることを前提として、その学説に沿った記述を選択するという問題が出題されることがある。このような出題がされるのは、これらの試験では条文・判例の知識・理解だけでなく、法的な思考力をも試されるからである。

条文と解釈の関係

実務において、あるトラブルに直面した場合、まずは条文を確認してトラブルの解決を図る。そして、条文だけで問題が解決しないときに解釈をすることになる。

例えば、アパートを借りた者が、そのアパートから退去する場合、家賃の未納があれば、敷金から未納分が差し引かれた上で、残りの敷金が返却される。この処理は民法の条文(民法622条の2)上明らかであるので、解釈は必要ない。※正確にいえば、条文を文言通り読み取るという、文理解釈(文言解釈)がなされる。これも解釈の一種である。

解釈が必要な場面とは、例えば、民法177条の「第三者」がどのような者を指すかという問題が発生した場合である。同条には「第三者」としか規定されていないので、解釈をすることで条文を補い、具体的なトラブルを解決することになる。

このように、「解釈は条文だけで問題が解決しない場合に登場するものである」ということを常に意識して学習する必要がある。もっとも、試験によってはこのような条文と解釈の関係を意識しなくても合格できるものはある(宅建士試験、公務員試験、行政書士試験など)。ちなみに、司法試験や司法試験予備試験において、論証を展開する場面が解釈を論述する場面である。

「試験の合格に必要な範囲で」

資格試験の学習とは、「試験の合格に必要な範囲で」条文と解釈を学習することである。これは、「試験合格レベルに達するまで学習する」ことだけを意味するのではなく、「試験合格レベルを超える学習をする必要はない」ということも意味する。試験合格レベルを超える学習は予備校を利用すれば起こりにくいことであるが、大学の法学部や法科大学院などで学習をすると、起こり得るものである。つまり、試験範囲を超える法律の研究をすることは学問研究としては意義があるが、試験勉強という観点からいえば、余計なものを覚えているので無益であるだけでなく、むしろ有害となる。

そして、「試験の合格に必要な範囲で」勉強することは、「メリハリ」や「優先順位」という言葉でも表現される。例えば、民法は条文が約1000条ある。しかし、資格試験勉強ではすべての条文を学習する必要はない。さらに、学習対象の条文の中でも、優先度が異なる。よって、試験にほとんど出ない条文を深く掘り下げて学習することは資格試験対策上効率が悪い。

また、解釈も同様に、優先度の高いものを学習することになる。すなわち、優先度の高い条文に関する判例を学習する必要がある。

独学で学習をする場合、学習を始める前にこの優先度を把握する必要がある。しかし、この作業は多くの時間と経験が必要である。そこで、このような作業を省くために予備校を利用する。予備校は各々の資格試験の過去問を分析し、条文と解釈に優先順位をつけて、講座を構成している。

過去問の意味

過去問を解くことが重要であることは試験業界では常識である。ではなぜ過去問学習が必要なのか、具体的に説明する。

条文を理解する

過去問は条文を理解するために解く必要がある。ここでは民法の条文を例に説明する。

(質権の設定)
第三百四十四条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

(質権設定者による代理占有の禁止)
第三百四十五条 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。

(占有改定)
第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

これらの3つの条文を一文で表現すると次のようになる。

「質権は占有改定による引き渡しで成立しない。」

試験問題ではこのような一文が正しいか誤りかが問われる。

初学者がこの3つの条文を読んだだけで、この一文の結論を導き出すことは難しい。そこで、過去問学習を通じて、このような一文に触れて条文を理解する。この際注意しておくべきことは、この一文をそのまま暗記することには意味がないということである。この一文は条文を理解するためのツールに過ぎない。仮にこの一文をそのまま暗記しただけで、条文の意味を理解していなければ、言い回しを変えた問題に対応できない。

解釈を理解する

過去問は解釈を理解するために解く必要がある。ここでも民法の条文を例に説明する。

(先取特権と第三取得者)
第三百三十三条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

(占有改定)
第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

ここで、民法333条の「引き渡し」に、「占有改定による引き渡しが含まれるか」という問題が生じる。前述の質権の場合と異なり、条文だけはこの結論は出ない。そこで、解釈をすることになる。

そして、最高裁判所の解釈、すなわち判例(大判大6.7.26)は、民法333条の「引き渡し」に占有改定による引き渡しが含まれるとしている。

そこで、この判例とこの2つの条文を一文で表現すると次のようになる。

「先取特権者は、債務者が第三者に先取特権の目的物である動産を占有改定による方法で引き渡した以後は先取特権を行使できない。」

ここでも、この文をそのまま暗記することに意味はない。仮にこの文が過去問の肢として出てきた場合、まず、条文を確認する。そして、条文の文言だけでは解決しないことが分かるので、さらに判例を確認する。過去問を通じてこのような思考過程を経ることが重要である。

ここで、民法333条の「引き渡し」に占有改定が含まれないという、判例とは異なる解釈を採ることはだめなのかという疑問が湧く。答えは、択一試験勉強においてはだめである。なぜなら、択一試験では判例の立場で解答することが求められるからである。しかし、学問研究としてそのような解釈を採ることは問題ない。また、法曹三者がそのような解釈を裁判等で主張することも問題ない。

試験範囲の優先順位を把握する

過去問は試験範囲の優先順位を把握するために解く必要がある。

前述のとおり、民法では条文が約1000条ある。そこで、民法を学習する際は、過去問で多く問われた条文・判例を中心に学習する。つまり、より優先度の高い条文から学習していき、徐々に学習範囲を広げていく。

そこで、過去問題集は年代別ではなく、体系別のものを利用する方が出題傾向を把握する上で便利である。

判例の優先順位を確認する

条文の優先順位が分かれば、判例も優先順位の高い条文に関連するものから学習することになる。

勉強方法

必要なことだけする

択一試験はマークシートに解答する。よって、本試験中は基本的に問題文に〇か✕のメモをして、そのメモを基に解答をすべき肢を選択し、マークシートに記入する。もっとも、民法などにおいては試験問題の余白に図を書いて問題を解くこともある。

そして、試験勉強においても同じことすべきである。ただし、問題集に直接〇✕を書き込むのは次回解く際に邪魔になるので、白紙を用意し、そこに記入する。また、〇✕と記載するのは根拠をもって判断した場合に限る。過去問を解いて、肢の内容が全く分からない場合は、「?」を、なんとなく感覚で答えた場合は「(〇)」、「(✕)」のようにメモすると復習の際に効率的である。

また、解答を確認する際は間違った肢だけでなく、正解した肢も確認する。正解した肢の確認とは、自分の判断の根拠があっているか確認である。手も足もでなかった肢は条文やテキストに立ち返る。

サブノート

予備校を利用した試験勉強ではサブノートを作る必要はない。サブノートを作る時間があれば過去問を解いた方がよい。

また、メモしておきたいことがあれば自分が使っているテキストに書き込むのがよい。その際は「平成〇年2問肢ア」のように過去問を特定できる事項を併せて記入する。

書かないと覚えられないという方は、書きたいと思う事を、頭の中で反すうするとよいです。つまり、頭の中でノートを書くという作業をする。

過去問を何回まわすかは重要ではない

過去問は条文・判例を理解するための手段である。そして、試験合格のために「過去問を何回まわすか」という議論は不毛である。もっとも、1回まわしただけで十分ということは考えにくい。なぜなら、法律学習は過去問を2回以上解くことで、ようやくその内容を理解できるからである。例えば、民法の学習では総論から過去問を解くことが多いといえるが、初めの方に学習する総論を理解しようと思えば、あとで学習する各論の理解が必要である。逆に各論を理解するには総論の理解が必要である。さらに言えば、民法のある分野を理解するためには民事訴訟法の理解が必要である。よって、過去問は2回以上解く必要がある。

以上より、過去問を何回まわすかではなく、条文・判例の理解をするまで過去問を回すという思考で学習するとよい。

解説に惑わされない

過去問題集の解説を読むことは復習の目的ではなく、手段である。解答後の確認作業は、問題集の解説だけで終わるのではなく、条文と判例を確認する。条文であれば六法を、判例であれば入門講座のテキストを確認する。ただし、解説に判例がそのまま引用されていれば解説だけを復習に使用することもよい。

また、問題の解答に至る思考過程は必ずしも1つではない。よって、自己の思考過程と解説の思考過程が異なる場合は、自己の思考過程が正しいかを確認するための手段として解説を読むという意識をもつ。

テキストにマーキングしない

テキストには基本的にマーキングしないほうがよい。そもそも多くのテキストにおいて、重要箇所は初めから太字なっていたり、色が変えてあったりする。その場合にマーキングすることには意味がない。

また、初期の学習段階で重要である箇所が、ある程度学習が進めばそれほど重要でなくなることがある。この場合はマーキングがかえって邪魔になる。どうしてもマーキングする場合は、消える蛍光ペンか、鉛筆でアンダーラインするとよい。

マーキングの一番の問題点は、マーキングをすると、勉強をした気になってしまうことである。テキストを読み込むことが重要であるのに、マーキングで満足してしまうと本末転倒である。

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