答案例
第1 小問1
1 前訴の訴訟物たる甲の乙に対する貸金返還請求権と、後訴の訴訟物たる甲の丙に対する保証債務履行請求権の先決関係にあるから、前訴の判断内容の後訴における拘束力たる既判力が後訴に生じる。また、審理の弾力化・簡易化のため、既判力は訴訟物たる権利関係の存否の判断に生じる。そのため、後訴において前訴の既判力が生じる事項を争うことができず、裁判所はこのような争う主張を排斥しなければならない(消極的作用)。もっとも、既判力の根拠は手続き保障に基づく自己責任、機能は蒸し返しの防止にある。そのため既判力は手続き保障に基づく自己責任を問える当事者のみに生じるのが原則である(115条1項1号)。よって、前訴の当事者でない丙には既判力は生じない。また、丙は同条項2号ないし4号にもあたらない。
2 しかし、丙は乙の保証人であるから、保証債務の付従性により丙は主債務に依存する関係にある。そこで、かかる実体法上の特殊な関係にある者には既判力が生じないか。反射効の肯否が問題となる。
(1) 反射効は既判力の同様の性質を有するものであると解されるところ、既判力は訴訟法上の効果である。そのため確定判決により実体法上の権利関係が確定するわけではない。また、反射効を認める実体法上の根拠はない。そうであれば実体法上の効果をもたらす反射効を認めるべきではない。
(2) よって、丙には反射効は及ばない。
3 そうだとしても、丙に既判力が拡張されないか。明文なき既判力の主観的範囲の拡張の肯否が問題となる。
(1) 明文の根拠のない既判力の拡張は相対効の原則(115条1項1号)に反すると共に、既判力が不利益に拡張される第三者の手続き保障を害する。
(2) よって、明文なき既判力の拡張は認めらないから、丙に既判力は及ばない。
4 以上より甲丙間の訴訟に影響を及ぼさない。
第2 小問2
1 前後訴訴訟物は同一でなく、先決問題の関係になく、矛盾関係にない。よって、後訴に既判力が及ばないとも思える。もっとも、前訴の理由中の判断たる主債務の存在が後訴を拘束しないか。前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理した事項に対する判断の拘束力(争点効)の肯否が問題となる。
(1) 争点効を認める実定法上の根拠はない。また、争点効を認めると114条1項の趣旨を害する。
(2) よって、争点効は認められない。
2 もっとも、後訴における甲の主張が前訴の蒸し返しといえる場合には信義則(2条)により、その主張は認められない。
3 以上より、原則甲乙間の訴訟に影響を及ぼさない。