スポンサーリンク

刑事訴訟法

平成10年旧司法試験 刑事訴訟法論文第1問

答案例

1 起訴状に「裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類…の内容を引用」することは許されない(起訴状一本主義、256条6項)ところ、本件脅迫文言全文の引用がこれに反しないか。
(1) 起訴状一本主義の趣旨は裁判官の予断を排除して「公平な裁判所」(憲法37条1項)を実現すること及び証拠調べの主導権を当事者に委ね(298条1項)、当事者主義の公判を実現する点にある。そうであれば約600字の脅迫文書の全文を起訴状に記載すれば起訴状の大部分を脅迫文書で占められることになり、裁判官に予断を生じさせる恐れがある。よって、本件引用は起訴状一本主義に反するとも思える。
(2) もっとも、本件脅迫文言全文は公訴事実に記載されてあるところ、256条3項は公訴事実につき訴因の特定を要求している。かかる規定の趣旨は当事者主義の下、審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実である訴因であり、その訴因を特定することで審判対象の画定及び被告人の防御の対象・範囲を明確にする点にある。そうであれば本件引用により訴因がより具体的に特定され、かかる趣旨に合致する。
(3) そこで、起訴状一本主義と訴因の特定のいずれを優先すべきかが問題となる。この点、訴因の特定が公訴提起時に不明確であっても後に検察官の釈明(規則208条)により訴因の特定の趣旨の実現を補完することができる。これに対し、起訴状一本主義に反して一度裁判官に予断を抱かせてしまった場合、その払拭は不可能である。よって、起訴状一本主義を優先すべきである。
(4)
ア 以上より、本件においても起訴状一本主義の趣旨実現のため、本件脅迫文言全文の引用は原則控えるべきである。もっとも、文章の引用が、訴因の特定に最低限必要な限度でなされれば例外的に文章の引用が許容されると解する。
イ これを本件についてみると、脅迫罪はその行為者の態度・声量・身体の大きさなどの要素とあいまって発言内容がかかる罪を構成するところ、本件は郵送による脅迫行為であるから、文章の内容だけで脅迫罪の成立を判断することになる。そうであれば本件脅迫文言全文を起訴状に引用しなければ訴因を特定できない場合がありうる。
ウ よって、かかる場合には例外的に本件引用が許容される。これに対し、本件脅迫文言全文を引用せず、一部引用や要約により訴因を特定できる場合に全文を引用することは違法であると解する。
2 それでは、本件引用が起訴状一本主義に反する場合、公訴提起にいかなる影響を及ぼすか。
(1) 起訴状一本主義に反し、裁判官が予断を抱いた場合、裁判官の予断を払拭することは不可能である。そして、かかる場合は「公訴提起の手続きがその規定に違反」(338条4号)した場合といえる
(2) よって、かかる場合には公訴棄却判決が下されるべきである。

スポンサーリンク

-刑事訴訟法

© 2024 予備試験・司法試験合格ノート