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刑事訴訟法

平成11年旧司法試験 刑事訴訟法論文第2問

答案例

1 裁判所の認定は択一的な認定であるところ、かかる認定は許されるか。
(1) 裁判所の択一認定には3つのパターンが存在する。
ア まず、A事実とB事実が異なる構成要件にまたがるが、B事実がA事実に包摂される関係にある場合である。かかる場合にB事実が犯罪事実として具体的に特定されていればB事実を認定できる(予備的認定)。予備的認定では少なくともB事実の認定につき合理的な疑いを入れない程度の証明がされているので、「疑わしきは被告人の利益に」の原則(憲法31条、刑訴法336条後段)に反しない。
イ 次に、A事実とB事実が同一の構成要件内の事実である場合である。かかる場合に、両事実が構成要件内の細部の違いに過ぎず、「罪となるべき事実」(335条1項)の特定において重要でなければ、択一的に認定しても合理的な疑いを入れない程度の証明がなされたといえ、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反しない。また、かかる場合には量刑上の違いは生じない。
ウ 最後に、A事実とB事実が異なる構成要件にまたがり、両者が包摂される関係になく、両者のいずれが存在したかが不明な場合である(狭義の択一認定)。そして、狭義の択一認定には、両者のいずれかを認定するもの(明示的択一認定)と、軽い方の事実を認定するもの(黙示的択一認定)がある。明示的択一認定はA事実又はB事実という合成的構成要件の作出を認めることになるので、認められない。これに対し、黙示的択一認定も同様に原則認められない。もっとも、A事実及びB事実のいずれかは存在したという、両者が論理的択一関係にある場合には黙示的択一認定も許されると解する。なぜなら、重い方をないとして、軽い方の事実を認めることは「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反しないからである。
(2) これを本件についてみると、確かに強盗罪の単独犯と共同正犯は異なる構成要件にまたがるとも思える。しかし、共同正犯だとしても甲が実行犯であるから、甲の単独犯の場合と同様に甲が強盗行為を行ったことにかわりない。また、法定刑及び処断刑に差異はない。
よって、本件認定は同一構成要件内の事実における択一認定に準じるものといえる。そして、単独犯と共同正犯は構成要件内の細部の違いであるから、罪となるべき事実の特定はなされる。
(3) したがって、本件択一認定は許される。
2 そうだとしても、訴因は甲の単独犯であるから、訴因と認定すべき「罪となるべき事実」にずれが生じているので、訴因変更が必要ではないか。訴因変更の要否及び判断基準が問題となる。
(1) 当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下、審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であると解する。そして、訴因の特定の趣旨は裁判所の審判対象を画定(識別機能)し、被告人に防御の範囲を示す(告知機能)点にある。識別機能は、訴因がいかなる構成要件に該当するか特定できる程度に具体的であり、かつ他の犯罪事実と区別されていれば、作用しているといえる。そうであれば識別機能が作用すれば被告人がいかなる防御活動をすべきか明確になるので、識別機能が訴因の第一次的機能であるといえる。そこで、事実に変更があれば訴因変更が必要となると解する。もっとも軽微な事実の変更の場合にまで訴因変更を要求することは訴訟経済の観点から妥当でない。よって、審判対象の画定に不可欠な事項に変更があれば訴因変更が必要である。また、それ以外でも、被告人の防御にとって重要な事項で訴因に明示された事実に変更があれば訴因変更が必要である。もっとも、かかる場合でも、被告人の防御活動等の審理の経過に照らし事実の変更が被告人にとって不意打ちにあたらず、認定する事実が訴因よりも被告人にとって不利益とはいえない場合は例外的に訴因変更が不要であると解する。
(2) これを本件についてみると、前述のとおり単独犯と共同正犯は構成要件内の細部の違いであり、罪となるべき事実の特定はなされているから、審判対象の画定に不可欠な事項の変更とはいえない。
しかし、共同正犯は単独犯に比べて犯情が軽く、被告人にとって有利である。よって、単独犯か共同正犯か違いは甲の防御にとって重要である。
もっとも、本件の審理経過に照らすと、本件認定は甲に不意打ちを与えるものではない。さらに本件認定は訴因と比べて甲に不利益とはいえない。
(3) よって、訴因変更は不要である。
3 以上より、本件認定をし、有罪判決を言い渡すことができる。

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