答案例
第1 小問1
1 Xは無留保判決を求めて1000万円の支払請求の後訴を提起すると考えられる。そこで、Xの主張は、確定判決の判断内容の後訴における拘束力(既判力)に抵触し許されないか。既判力の客観的範囲が問題となる。なお、前訴と後訴で訴訟物が同一であるから、訴えの利益がないとも思われる。しかし、後訴は無留保判決を求めているので、訴えの利益は認められる。
(1) 既判力の根拠は手続き保障に基づく自己責任、機能は紛争の蒸し返しにある。そして、審理の弾力化・簡易化のため既判力は訴訟物たる権利関係の存否についての判断のみに生じると解する。
(2) これを本件についてみると、「相続財産の範囲で」の文言は債務を縮減するものではなく、責任を縮減するものである。そして、判決手続きは債務を対象とし、責任を対象とするものではないから、訴訟物の対象も債務を対象とし、責任を対象とするものではないと解する。
(3) よって、かかる文言には既判力生じないので、上記主張は許されるとも思える。
2 そこで、既判力に準じる効力が生じないか。
(1) 限定承認が認められた場合、上記の文言が付される以上、蒸し返しを防止する必要性がある。また、債務と責任が別とはいえ、両者はその性質上密接な関連性がある以上、限定承認の効力は当事者の主張を契機として訴訟物に取り込まれたと考えることができる。
(2) よって、上記文言に既判力に準じる効力が生じる。
3 では、かかる効力が生じる基準はいかに解すべきか。
(1) 当事者は事実審口頭弁論終結時までに訴訟資料を提出できるから、前述の既判力の趣旨に照らし、既判力に準じる効力は事実審口頭弁論終結時(基準時)の判断に生じると解する。また、当事者は前訴の既判力に準じる効力によって確定された判断を争うために基準時前の事由を提出できない(遮断効)。
(2) これを本件についてみると、XはAの債権者であり、YはAの相続人であるから、前訴でAの相続の事実が主張されている。そうであれば前訴でXは限定承認を争ことができた。また、Xは後訴で相続直後の相続財産の隠匿の事実を主張しているが、かかる主張は既判力に準じる効力を有する限定承認の判断を争うための基準時前の事由に関するものであると考えられる。
(3) よって、上記文言につき上記効力が生じる。
4 以上より、Xは確定判決の効力を争うことができない。
第2 小問2
1 Yの主張は既判力が生じる前訴確定判決の判断と実質的に矛盾するものであるから、再審の訴え経てなされるべきではないか。
(1) 既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求は既判力による法的安定を著しく害するので原則許されない。もっとも、既判力が生じた前訴において、損害賠償の相手たる当事者の行為が著しく正義に反し、かかる法的安定の要請を考慮してもなお容認しえないような特別の事情があれば許されると解する。
(2) これを本件についてみると、かかる特別の事情はない。
(3) よって、Yの主張は再審の訴えを経てなされる必要がある。
2 以上よりYの主張は認められない。