答案例
第1 設問前段
1 強制処分は権限ある司法官憲の発付する令状に基づかなければならない(令状主義、憲法33条、35条)。そこで、本件捜査が「強制の処分」(刑訴法197条1項ただし書)あたるか。「強制の処分」の意義が問題となる。
(1) 科学捜査が発達した今日では被処分者への人権侵害を防止するため、「強制の処分」にあたるかは被処分者の受ける侵害の態様・程度を基準に判断すべきである。もっとも、あらゆる捜査が「強制の処分」にあたるとすれば真実発見(1条)の見地から妥当でない。そこで、「強制の処分」とは相手方の黙示又は明示の意思に反し、重要な権利・利益の制約を伴う処分を指すと解する。
(2) これを本件についてみると、
ア まず、甲の腹部をレントゲン撮影する行為につき、レントゲン撮影は体内の様子を撮影し、撮影内容は通常他人にはみられないものである。よって、黙示の意思に反するといえる。
また、レントゲン撮影は有害な放射性物質をあびる行為であるから、身体の健康という重要な権利の制約を伴う行為である。
イ 次に、下剤を用いて体外に排出させ、押収する行為につき、下剤の使用は腹痛を伴うから捜査のためにすることは拒否されると考えられる。よって、黙示の意思に反する。
また、強制的に対外排出をさせるから、甲の生理的機能を害する行為といえ、身体の健康という重要な権利の制約するものである。
(3) よって、本件捜査における行為はすべて「強制の処分」にあたる。
2 以上より、令状が必要となる。
第2 設問後段
1 本件レントゲン撮影にはいかなる令状が必要か。
(1) 本件レントゲン撮影は、捜査機関が強制的に五感の作用によって人の性状を知覚する処分であるから、検証にあたる。もっとも、レントゲン撮影は医師などの専門技術者に行わせるべきであるから、条件(218条6項)を附すべきである。
(2) よって、上記行為には条件付検証令状が必要となる(218条1項、6項)。
2 本件排出行為及び押収にはいかなる令状が必要か。
(1) 大麻樹脂は甲の身体の一部ではなく物であるから、上記行為は捜索差押えと解する。もっとも、下剤の選択やその量の加減には医師などの専門技術者の関与が必要である。そこで、218条6項を準用して医学的に相当と認められる方法による旨の条件を附すべきである。
(2) なお、上記行為は強度なプライバシー侵害及び高度な身体への危険性があるので、鑑定処分に該当するという考えもある。しかし、このように解すると、鑑定受託者に強制力の行使が認められない(225条4項は172条を不準用)ので、妥当でない。さらに、この場合に検証令状と併用する方法も考えられるが、法理論構成に一貫性がなく妥当でない。
(3) よって、上記行為には条件付捜索差押令状(218条1項、6項)が必要である。