答案例
第1 小問1(1)
1 乙の訴えは反訴提起ができるか。
(1) 「本訴の目的である請求・・・と関連する」(146条1項)とは、両請求の内容又は発生原因において法律上・事実上の共通性があることをいう。
(2) これを本件についてみると、甲及び乙の訴えはいずれも本件売買契約により発生した請求権に基づくものである。
(3) よって、法律上の共通性がある。また、反訴を妨げる他の事情はない。したがって、反訴提起ができる。
2 乙の訴えを別訴で提起できるか。二重起訴(142条)に反しないかが問題となる。
(1) 同条の趣旨は被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触の恐れにある。そこで、二重起訴にあたるかは当事者及び審判対象の同一性により判断する。
(2) これを本件についてみると、当事者は同一であるが、訴訟物が異なるので審判対象の同一性はない。
(3) よって、二重起訴に反しない。
3 では、反訴提起ができるので、別訴提起ができないのか。
(1) 審判対象の特定及びその範囲の限定、並びに訴訟の開始又は終了を当事者の意思に委ねる建前たる処分権主義の下では反訴か別訴提起いずれを選択するかは当事者の自由である。
(2) よって、反訴提起ができても、別訴提起は妨げられない。
4 以上より甲の主張は正当でない。
第2 小問1(2)
1 甲に対する判決につき、申し立てと異なる事項の判決といえ、許されない(246条)のではないか。
(1) 同条は処分権主義の現れである。そして、処分権主義の根拠は当事者の意思の尊重、機能は不意打ち防止にある。そこで、同条に反するかは、原告の合理的に意思に反するか、及び被告に対する不意打ちになるかという視点で判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、甲の無条件の引き渡しの請求に対し、売買代金との引換給付判決なされている。甲は請求原因で本件売買契約締結の事実を主張しているところ、双務契約たる売買契約において引換給付が命じられることを甲は認識しているといえ、甲の合理的意思に反しない。また、乙にとって引換給付判決は有利になるものであるから、不意打ちにならない。
(3) よって、上記判決は同条に反しない。もっとも、引換給付判決は同時履行の抗弁という権利抗弁の主張がなければなしえない。
2 乙に対する判決につき、同様に許されないか。
(1) 前述と同様に引換給付を命ずる部分は246条に反しない。また、乙は本件売買契約の代金を求めている以上、売買代金が請求より少なくても乙の合理的意思に反しない。そして、甲は請求より少ない額の支払を命じられ、有利となるから、不意打ちにならない。
(2) よって、上記判決は同条に反しない。また、前述と同様に権利抗弁の主張が必要である。
第3 小問2
1 本件主張は本件判決の既判力により遮断されないか。
(1) 既判力は主文に包含するものに生じる(114条1項)と規定されているところ、審理の弾力化・簡易化のため既判力は訴訟物に生じると解する。
(2) これを本件についてみると、本件判決の「500万円の支払を受けるのと引換えに」の部分は訴訟物ではなく、強制執行開始要件(民事執行法31条)の文言に過ぎない。
(3) よって、かかる部分は訴訟物でないので、本件主張は遮断されない。
2 では、かかる場合に乙の主張する売買代金請求が許されるか。
(1) ところで、既判力の根拠は当事者の手続き保障に基づく自己責任、機能は紛争の蒸し返しの防止にある。そうであればかかる趣旨に反する請求は信義則(2条)に反し許されないと解する。
(2) これを本件についてみると、乙の主張は本件判決にかかる手続きで審理されているので、既に手続き保障が及んでいる。また、かかる主張は本件判決にかかる紛争を不当に蒸し返すものである。
(3) よって、信義則に反し許されない。
3 以上より、乙は訴えを提起できない。