スポンサーリンク

民事訴訟法

平成17年旧司法試験 民事訴訟法論文第2問

答案例

第1 小問1
1 本件では前訴と後訴の当事者及び訴訟物(甲の乙に対する所有権に基づく返還請求権としてのA土地明渡請求権)が同一である。そして、甲は前訴で勝訴している。そのため、甲は後訴において原則訴えの利益がない。もっとも、時効更新(民法147条)などの必要があり、他に方法がなければ後訴の訴えの利益が認められる。そこで、訴えの利益が審理判断の対象となる。
2 また、前訴には確定判決の判断内容の後訴における拘束力(既判力)が生じている。そのため、既判力が後訴に作用すれば裁判所は既判力で確定された判断に拘束され、これを前提として審理判断する(積極的作用)。そこで、既判力はどの時点の判断に生じるか。既判力の及ぶ時的基準が問題となる。
(1) 既判力の根拠は手続き保障に基づく自己責任、機能は紛争の蒸し返しの防止にある。そして、事実審口頭弁論終結時(基準時)まで当事者は訴訟資料を提出できるから、基準時まで手続き保障が及んでおり、自己責任を問える。そこで、既判力は事実審口頭弁論終結時の判断について生じると解する。
(2) これを本件についてみると、前訴の基準時の判断に既判力が生じ、後訴に及ぶ。
3 では、既判力はどのような場合に後訴に作用するか。
(1) 既判力は前訴後訴の訴訟物が同一の場合、先決関係にあたる場合、矛盾関係にある場合に作用する
(2) これを本件についてみると、前訴後訴で訴訟物が同一である。
(3) よって、既判力が作用する。
4 また、審理の弾力化・簡易化のため既判力は訴訟物たる権利関係の存否の判断にのみ生じると解する。よって、前訴の基準時における上記訴訟物の存在という判断に規範力が生じるから、後訴においては基準時のかかる判断と基準時後の事由に基づく主張を審理判断しなければならない。したがって、かかる事項が審理判断の対象となる。
第2 小問2
1 後訴の訴訟物は乙の甲に対する所有権に基づく返還請求権としてのA土地の明渡請求権であるから、前訴の訴訟物と同一でなく、先決関係になく、矛盾関係にない。よって、既判力は作用しない。もっとも、前訴理由中の甲のA土地所有の判断は後訴に作用しないか。前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理した事項に関する判断の通用力(争点効)が認められるかが問題となる。
(1) 争点効の実定法上の根拠はなく、争点効を認めると114条1項の趣旨が没却されるので、争点効は認められない。
(2) よって、前訴の理由中の判断が後訴を拘束しない。
2 もっとも、後訴の乙の主張が前訴の蒸し返しであり、紛争が解決されたとする甲の合理的期待に反する場合は乙の主張は信義則(2条)に反し許されない。
3 以上より、上記信義則の適用の有無が審理判断の対象となる。
第3 小問3
1 前訴の既判力は当事者たる甲乙に生じる(115条1項1号)。では、丙は「承継人」(同3号)にあたらないか。既判力の主観的範囲が問題となる。
(1) 同項の趣旨は「承継人」に判決効を及ぼすことで判決による紛争解決の実効性を確保する点にある。そこで、「承継人」とは前主から紛争の主体たる地位を承継した者を指すと解する。
(2) これを本件についてみると、本件訴訟物ではA土地の占有者が被告の地位につくところ、丙は判決確定後に乙からA土地の占有を譲り受けている。
(3) よって、丙は「承継人」である。
2 そうだとしても、後訴の訴訟物は甲の丙に対する所有権に基づく返還請求権としてのA土地の明渡請求権であるから、前訴の訴訟物と同一でなく、先決関係になく、矛盾関係にない。よって、既判力は作用しない。しかし、このように解すると、丙を「承継人」とし、既判力を拡張した意味がなくなる。そこで、前主乙と承継人丙を同一視して前訴後訴の訴訟物を同一と解し、丙には乙と同様の既判力が生じると解する。
3 以上より、基準時の判断と基準時後の事由に基づく主張を審理判断しなければならない。したがって、かかる事項が審理判断の対象となる。

スポンサーリンク

-民事訴訟法

© 2024 予備試験・司法試験合格ノート