答案例
1 刑罰権の存否及びその範囲を画する事実(主要事実)及びそれを推認する事実(間接事実)の立証は証拠能力がある証拠でなされなければならない(厳格な証明、317条)。本件テープで立証する事実は、「甲が、放火があったときに現場にいた事実」であるところ、かかる事実は甲の犯人性という主要事実を推認させる事実、すなわち間接事実である。そこで、本件テープに証拠能力が認められるか。証拠能力が認められるには、証拠が要証事実に対して必要最小限度の証明力を有し(自然的関連性)、その証明力の評価を誤らせる事情がなく(法律的関連性)、その証拠利用が禁止されないことが必要である。
(1) 本件テープはテレビ局のマスターテープのコピーといえるところ、コピーは自然的関連性を有しないのではないか。
ア 証拠調べの対象は原則原本である(310条参照)。もっとも、常に原本を要求することは真実発見(1条)の見地から妥当でない。そこで、原本が存在し、コピーの内容が原本のそれと一致し、原本の提出が困難であればコピーを証拠調べできると解する。
イ これを本件についてみると、テレビ局には原本たるマスターテープが存在する。また、本件テープはテレビ放映の録画であるから、原本の内容と一致する。さらに、テレビ局にマスターテープの提出を求めることは取材の自由という憲法上保護に値する権利を侵害する恐れがあるので、原本提出が困難である。
ウ よって、本件テープを取り調べることができ、自然的関連性がある。
(2) 公判期日外の供述を内容とする本件テープは伝聞証拠にあたり、法律的関連性を有しないのではないか。伝聞証拠の意義が問題となる。
ア 伝聞法則(320条1項)の趣旨は伝聞証拠には反対尋問による吟味及び裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察がなしえない点にある。すなわち、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるところ、その過程のいずれにも誤りが介入する恐れがある。そこで、宣誓及びこれに伴う偽証罪の告知のなされる公判期日で反対尋問等によって供述内容の真実性を吟味する必要がある。しかるに伝聞証拠にはかかる吟味がなされないので、証拠能力が否定される。そこで、伝聞証拠とは公判期日外の供述を内容とする証拠で、その内容の真実性を立証するために提出・利用されるものを指すと解する。
イ これを本件についてみると、
(ア) 本件テープの原本たるマスターテープの作成過程は、音声及び映像を機械で記録することであるから、その過程で誤りが介在する恐れはない。よって、かかるマスターテープは供述証拠にあたらないので、そのコピーたる本件テープも供述証拠にあたらない。
(イ) もっとも、本件テープの甲の供述部分は、前述の立証事実との関係で、その内容の真実性を立証するために提出される。
ウ よって、本件テープの甲の供述部分は伝聞証拠にあたり被告人の同意(326条1項)のない限り原則証拠能力が否定される。
(3) もっとも、伝聞例外(322条1項)にあたり、証拠能力が認められないか。
ア 本件テープは甲の供述を録画したものであるから、甲の供述書と同視できる。また、録画により甲の供述内容の録取の正確性を担保されている。よって、同項の要件たる「被告人」甲の署名押印は不要であると解する。
また、前述の通り本件テープで立証する事実は間接事実であるから、本件テープの内容は「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」である。
さらに、本件テープは甲がテレビ局のインタビューに応じたものであるから、任意性がある。
イ よって、同項の要件を充足し、証拠能力が認められるから、本件テープには法律的関連性がある。
(4) 本件テープはテレビ局の放送を基に作成されたものであるところ、本件テープを証拠として利用することはテレビ局の取材の自由を侵害し、許されないのではないか。
ア 本件テープはテレビ放映されたものを録画しただけである。また、テレビ局に対し直接テープの提出を要求していない。
イ よって、本件テープの利用によって、テレビ局の取材の自由を侵害する程度は低いので、本件テープの証拠利用は禁止されない。
2 以上より本件テープには証拠能力があるので、証拠として採用できる。