答案例
第1 小問1
1 Dは甲に対し、甲が423条1項に基づく損害賠償請求を求める訴え提起することを請求する(847条1項)。また、取締役間の馴れ合いから、訴え提起の懈怠が起こる可能性を考慮し、847条3項、5項で株主代表訴訟が認められている。そこで、同項の要件を満たせば株主Dは甲のために上記訴えを提起できる。
(1) 任務懈怠があるか。
ア 本件不動産の購入におけるFに交付する金額は金3000万円と高額であるから、「重要な財産の処分」(362条4項1号)にあたる。そのためAは取締役会の決議を経なければならなかったが、独断で行っており経ていない。よって、Aには法令違反という任務懈怠がある。
イ 取締役会は取締役の職務の監督義務を負う(362条2項2号)から、その構成員たる各取締役も他の取締役の職務の監視義務を負うと解される。よって、BCはAの職務の監視義務を負うところ、Aの上記法令違反を見逃している。もっとも、Aは上記行為を独断で行っており、取締役会に上程されていないから、BCに監視義務違反はないとも思える。しかし、取締役の業務執行の実効性確保の観点及び各取締役に取締役会の招集権限があることから、取締役の監視義務は非上程事項にも及ぶと解する。そうであればAの行為につきBCに監視義務違反があり、任務懈怠がある。
ウ Eには職務監査義務がある(381条1項)ところ、Aの法令違反を見逃しているから、任務懈怠がある。
(2) 423条1項の責任を追及するには故意・過失が認められる必要がある(428条1項参照)。そこで、故意・過失があるか。
ア Aは重要な財産の処分にあたると認識していたと考えられるから、故意がある。
イ 代表取締役が3000万円という多額の財産が流出する取引をする場合、取締役は通常それに気づくはずであるから、BCに過失がある。
ウ Eも本件財産流出に気づくはずであるから、過失がある。
(3) そして、ABCEの任務懈怠と本件3000万円の損害には因果関係がある。
(4) 以上より、上記請求は認められる。
2 Dは429条1項に基づく損害賠償請求をする。
(1) 同項の趣旨は会社が経済社会において重要な地位を占め、会社の活動が役員等に依存しているころに鑑み、役員等の責任を加重して第三者を保護する点にある。そこで、「悪意又は重大な過失」は任務懈怠について存すれば足り、「損害」は直接損害のみならず間接損害を含み、「第三者」は広く株主も含むと解する。
(2) これを本件についてみると、株主Dは甲の3000万円の損害により間接損害を被っている。
(3) 前述のとおりABCEに任務懈怠がある。
(4) 悪意又は重大な過失があるか。
ア 本件取引は「重要な財産の処分」にあたることは明らかであるから、取締役会の承認を経ていないという法令違反の任務懈怠につきAは悪意である。
イ BCは3000万円という多額の財産が流出に気づいていないので、監視義務違反という任務懈怠につき重大な過失がある。
ウ Eも多額の財産流出に気づいていないので、職務監査義務違反という任務懈怠につき重大な過失がある。
(5) 以上より上記請求は認められる。
第2 小問2
1 Eは385条に基づいてAの交付の差止請求する。
(1) Aの行為は法令違反行為であり、甲に著しい損害が生ずる恐れがある。
(2) よって、上記請求ができる。
2 Dは360条に基づいてAの交付の差止請求できるとも思える。しかし、甲の損害は金銭賠償で補填可能な損害であるから、回復することができない損害とはいえない。よって、上記請求はできない。
3 Dは株主総会において、Aを解任する(339条)。