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商法

平成19年旧司法試験 商法論文第1問

答案例

第1 Cに対する請求
1 甲は423条1項に基づく損害賠償を請求する。
2 Cに任務懈怠があるか。
(1) Cは乙のために甲と本件売買契約という取引をしているから、本件売買契約の前に甲の取締役会の承認を受けなければならない。そして、Cは本件取締役会において、忠実義務違反をもたらすおそれのある、会社と利益衝突する個人的な利害関係を有するから「特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)といえ、議決に加わることができない。本件取締役会では議決権を行使できるABDEの内、その過半数たるBDEが出席し、出席したBDEの過半数たるBDの賛成があったので、決議が有効になされたとも思える。
(2) しかし、BはCの配偶者であるから、Cの受益はBの受益と同視できる。また、Bは乙の取締役である。そうであればBは「特別の利害関係を有する取締役」である。そこで、Bが議決権を行使した取締役会の決議の効力が問題となるが、これにつき一般原則に従い無効であると解する。よって、本件では取締役会の承認なく本件売買契約がなされているから、任務懈怠がある。なお、Cは甲と直接取引した取締役であるから、甲に損害が生じた場合には任務懈怠が推定される(423条3項1号)。
3 甲に損害が発生しているか。
(1) 前述のとおり、本件売買契約は取締役会の承認なくなされているところ、かかる承認がない場合の取引の効力が問題となる。
(2) 会社利益保護と取引の安全確保の調和の観点から、会社は直接取引の相手方には常に無効主張できるが、転得者や間接取引の相手方には承認の不存在につき相手方が悪意である場合に限り無効主張できると解する。
(3) よって、甲は乙に本件売買契約の無効を主張でき、原状回復義務(民法121条の2第1項)により代金5億円の返還を請求できる。そのため、かかる返還がなされなかった部分が会社の損害といえる。
4 Cに過失があるか。
(1) 428条の文言上、任務懈怠責任を追及するには過失が必要であると解する。
(2) Cは法令違反の本件売買契約をしているから、過失がある。
5 以上より、Cに上記請求ができる。
第2 Bに対する請求
1 甲は423条1項に基づく損害賠償を請求する。
2 Bは取締役会の承認なく本件売買契約を締結しており、損害もある。また、Bはバブル時代の価格を基準しており、価格の相当性を吟味していないので過失もある。なお、423条3項2号により任務懈怠が推定されうる。
3 よって、上記請求は認められる。
第3 ADEに対する請求
1 甲は423条1項に基づく損害賠償を請求する。
2 Aは各取締役の行為につき監督義務を負う(362条2項2号)から、本件売買契約締結を阻止する義務があったが、本件取締役会時に入院中であったので、過失が認められない。よって、Aに対する上記請求は認められない。
3 DEも監督義務を負うところ、本件売買契約における価格の相当性を吟味することなく、また、取締役会の承認なき本件売買契約締結を看過している。よって、任務懈怠及び過失がある。なお、Dは本件取締役会に賛成している。Eは棄権したが、異議をとどめていないので、決議に賛成したと推定される(369条5項)。そのため、任務懈怠が推定されうる(423条3項3号)。よって、DEに対する上記請求は認められる。

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