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刑事訴訟法

平成20年旧司法試験 刑事訴訟法論文第1問

答案例

1 警察官(以下、「P」という。)が来意を告げることなくマスターキーで開錠し、客室内に立ち入った行為は適法か。
(1) 上記行為が「必要な処分」として許容されるか。「必要な処分」(222条1項、111条1項)の意義が問題となる。なお、マスターキーで開錠することは「錠をはず」(222条1項、111条1項)す行為であるから適法である。
ア この点について、捜査比例の原則(197条1項)より、「必要な処分」とは①執行のために必要であり、②社会的に相当と認められる処分をいうと解する。
イ これを本件についてみると、被疑事実は覚せい剤所持であるところ、覚せい剤は水に流すなどして容易に証拠隠滅が可能なものである。そうであれば被処分者に証拠隠滅の時間を与えないようにするために来意を告げずに客室に立ち入る必要がある(①)。
また、かかる手段は無許可でドアの鍵を破壊する行為よりも穏当な方法であるから、社会的に相当といえる(②)。
ウ よって、上記行為は「必要な処分」として許容される。
(2) そうだとしても、上記行為は甲に捜索差押許可状(以下、「本件許可状」という。)を呈示する前に行われた「必要な処分」である。そこで、かかる行為は令状呈示を要求する規定(222条1項、110条)に反しないか。
ア そもそも同条の趣旨は捜査機関の公正担保及び被処分者の人権への配慮にある。そこで、明文規定はないが、令状は執行前に呈示することが原則であると解する。もっとも、常に事前呈示が必要であるとすれば、証拠隠滅がされうる場合に捜索差押えの実効性が害される。そこで、①捜索差押えの実効性確保のために必要であり、かつ②短時分の先行にとどまるなどの相当性が認められれば令状呈示前に「必要な処分」ができると解する。
イ これを本件についてみると、前述のとおり覚せい剤は容易に証拠隠滅が可能であるから、本件許可状を呈示しているとその間に証拠隠滅がされる可能性が高い。よって、捜索差押えの実効性確保のために必要である(①)。
また、Pは客室に立ち入り覚せい剤を取り上げた後に本件許可状を甲に呈示しているので、短時分の先行にとどまっているといえ、相当性がある(②)。
ウ よって、上記行為は令状呈示を要求する規定に反しない。
(3) 以上より、上記行為は適法である。
2 Pが甲を制止して覚せい剤を取り上げた行為は適法か。捜索差押えにおける有形力行使の可否・限界が問題となる。
(1) この点につき捜索差押えにあたって被処分者の抵抗は通常予想されるから、有形力行使は令状の効力として可能であると解する。もっとも、無制約に認められるものではなく、「必要な処分」として許容される。そこで上記行為は「必要な処分」にあたるか。
ア 本件について前述の基準で判断すると、甲が覚せい剤を持ってトイレに駆け込もうとしていた。覚せい剤をトイレに流せば証拠隠滅される可能性が高かったので、甲を制止して取り上げる必要があった(①)。
また、かかる手段は甲の身体を取り押さえるなど、甲に精神的・肉体的苦痛を与え
る方法とはいえず、穏当な手段である(②)。
イ よって、上記行為は「必要な処分」として許容される。
(2) そうだとしても、上記行為は甲に本件許可状を呈示する前に行われた「必要な処分」である。そこで、前述の場合と同様、刑訴法の規定(222条1項、110条)に反しないか。
ア 本件について前述の基準で判断すると、本件許可状を呈示しているとその間にトイレに駆け込まれて、証拠隠滅される可能性が高かったので、捜索差押えの実効性確保のための必要性である(①)。
また、前述の通り短時分の先行にとどまっているので、相当性がある(②)。
イ よって、上記行為は令状呈示を要求する規定に反しない。
(3) 以上より上記行為は適法である。
3 Pが甲の所持していた覚せい剤を差し押さえた行為は、本件許可状の差押対象物を差し押さえるものであるから、適法である。また、Pが客室内を捜索した行為は本件許可状の捜索場所を対象とするものであるから、適法である。
4 Pが乙の抵抗を排除して、バッグを取り上げて捜索した行為は適法か。
(1) 場所に対する捜索許可状によって、その場に偶然居合わせた者の携帯物を捜索できるかが問題となる。
ア その場に偶然居合わせた者の携帯物はその場所の備品とはいえないので、令状によって裁判官の審査を受けたといえない。また、通常その者の携帯物には証拠が存在する可能性は低く、捜索する必要性が低い。よって、その者の携帯物の捜索は原則できないと解する。もっとも、その者が捜索対象の場所の物を隠匿していると疑うに足りる相当な理由があるときは例外的に令状に基づく原状回復義務の一環としてその者の携帯物への捜索ができると解する。
イ これを本件についてみると、Pが乙にバッグの任意提出を求めたところ、乙はこれを拒否して、バッグを抱え込むような態度をとった。よって、覚せい剤を隠匿している相当な理由がある。
ウ 以上より、Pは乙のバッグを捜索することができる。
(2) また、乙の抵抗を排除した行為はバッグを捜索する上で必要である。また、抵抗を排除する前にバッグの任意提出を求めたので相当な行為といえる。よって、乙の抵抗を排除した行為は「必要な処分」として許容される。
(3) よって、上記行為は適法である。
5 Pが乙のバッグの中の覚せい剤を差し押さえた行為は、本件許可状の差押対象物を差し押さえるものであるから、適法である。

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