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民事訴訟法

平成21年旧司法試験 民事訴訟法論文第1問

答案例

1 本件訴えは不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)であるから、裁判所は被害者の過失を考慮して損害賠償額を定めることができる(過失相殺、民法722条2項)。もっとも、本件では加害者Yは過失相殺の主張をしていない。そこで、かかる場合に裁判所が過失相殺を認定することができるか。弁論主義との関係で問題となる。
(1) 過失相殺の趣旨は損害の公平な負担にあるところ、加害者が過失相殺を主張しなければそれを認定できないと解するとかかる趣旨が骨抜きになる。そこで、裁判所は加害者の主張なくして過失相殺を認めることができると解する。
(2) これを本件についてみると、Yは過失相殺の主張をしていないが、裁判所が過失相殺を認定することはできる。
2 そうだとしても、裁判の起訴となる資料の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする弁論主義の下において、Yが「過失」の主張をしていない本件で、裁判所が「過失」を認定することは弁論主義に反しないか。弁論主義の適用範囲が問題となる。
(1) 自由心証主義(247条)の下では弁論主義を間接事実及び補助事実にまで及ぼすことは妥当でない。また、弁論主義は不意打ちの防止機能を有しているところ、勝敗に直結する主要事実のみに弁論主義を適用すればかかる機能は達成される。よって、弁論主義は主要事実にのみ適用されると解する。もっとも、「過失」のような不特定概念による抽象的要件事実の場合、それを構成する具体的事実に審理が集中するので、かかる具体的事実に弁論主義を適用しなければ当事者に不意打ちをもたらす。そこで、かかる具体的事実が主要事実と解され、加害者は「過失」ではなく、それを構成する具体的事実につき主張責任を負うと解する。
(2) これを本件についてみると、Yは「事故の原因は急いでいたために赤信号を無視したXにある」と主張しているので、過失を構成する具体的事実を主張している。
(3) よって、裁判所は「過失」を認定できるとも思える。
3 もっとも、裁判所の認定した過失を構成する具体的事実と、Yの主張するそれが完全には一致しないので、裁判所の認定は弁論主義に反しないか。
(1) 裁判所の認定と当事者の主張に完全な一致を求めることは当事者に過度な負担を課すので妥当でない。そこで、それらに社会観念上の同一性があれば弁論主義に反しないと解する。
(2) これを本件についてみると、YはXの信号無視を主張し、裁判所はXの整備不良を認定しているので、両者は異なる。しかし、赤信号の道路を通過したという事実は共通する。そして、本件のXの過失の認定では赤信号の道路を通過した事実が重要であり、その原因の重要度は低い。さらに、Xは赤信号の道路を通過したというYの主張につき争う機会があったので、裁判所の認定はXにとって不意打ちとはならない。
(3) よって、両者には社会観念上の同一性があるので、裁判所の認定は弁論主義に反しない。
4 そこで、裁判所はいかなる判決をすべきか。一部請求の場合の過失相殺の対象が問題となる。
(1) 当事者に訴訟物の特定及びその範囲の限定を委ねる処分権主義(246条参照)の下では、一部請求は認められる。そして、明示的一部請求の場合、被告への不意打ち防止のため訴訟物はかかる一部であると解する。そうであれば過失相殺の対象はかかる一部になるとも思える。しかし、明示的一部請求において、原告の意思は過失相殺を考慮し、過失相殺分を控除して請求したと考えるのが自然である。よって、かかる原告の意思に鑑み、過失相殺の対象は損害額全体に基準にすべきであると解する。
(2) これを本件についてみると、裁判所は損害額を2500万円と認定しているから、かかる額から、5割の過失分である過失相殺額1250万円を控除した額の支払いを命ずるべきである。そして、かかる判決はXの申し立ての範囲内であるから、処分権主義に反しない。
5 以上より、裁判所はYに1250万円の支払いを命ずる一部認容判決をすべきである。

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