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刑事訴訟法

平成21年旧司法試験 刑事訴訟法論文第2問

答案例1

第1 供述調書①
1 供述調書①(以下、「①」という。)は甲の犯人性、すなわち犯罪の存否を画する事実を立証するために使用されるので、厳格な証明(317条)が必要である。よって、①を証拠として採用するには①に証拠能力が認められなければならない。
(1) そこで、①の犯行を自白した箇所は「任意にされたもの」(319条1項)といえるか。不任意自白の証拠能力を否定する自白法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の根拠及び判断基準が問題となる。
ア 不任意自白の証拠能力が否定される趣旨は、適正手続の保障(憲法31条)、司法の廉潔性及び将来の違法捜査の抑制の見地から、自白採取手続きの適正を担保する点にあると解する。そこで、不任意自白か否かは自白採取手続きにおける違法の有無で判断すべきである。
イ これを本件についてみると、Aは取調べの前の黙秘権不告知という違法な取調べを行った(198条2項)。また、Aは甲に虚偽の事実を告げた。犯行現場の防犯カメラに自己の顔が写っているといわれれば、それが自己の裁判で決定的な証拠な証拠になると考えるから、Aのかかる行為は甲が防御のために黙秘権などの人権を行使する意欲を削ぐ行為である。よって、適正手続きに反する。したがって、自白採取手続きに違法がある。
ウ 以上より、①の犯行を自白した箇所は不任意自白であるから、証拠能力が否定される。
(2) また、①の「被害品を友人宅に隠匿している」と言った箇所は伝聞証拠である(320条1項)。また、かかる箇所は「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」(322条1項本文)にあたるが、前述の通り「任意にされたものでない」(同ただし書)。よって、証拠能力が否定される。
2 以上より、①を証拠として採用できない。
第2 友人宅で差し押さえられた被害品
1 ①と同じ理由で、被害品に証拠能力が認められなければならない。そこで、被害品は①の派生証拠として証拠能力が否定されないか。違法採取自白の派生的物的証拠の証拠能力が問題となる。
(1) 派生証拠の証拠能力を認めれば、自白法則が骨抜きになる。他方、派生証拠の証拠能力を一律否定することは真実発見(1条)の見地から妥当でない。そこで、ⅰ先行手続の違法の程度及びⅱ両証拠の関連性を考慮して派生証拠の証拠能力の有無を判断する。
(2) これを本件についてみると、Aは被告人の防御にとって重要である黙秘権を告知していない。また、仮に甲が黙秘権告知なしに黙秘権を認識していても、Aが虚偽の事実を伝える行為は黙秘権行使の意欲を削ぐものである。よって、先行手続は黙秘権の自由な行使を完全に阻止する行為であるので、重大な違法がある(ⅰ)。
また、本件捜索差押許可状は①を疎明資料として発付されている。さらに、①がなければ甲の友人宅を捜索する可能性は極めて低い。よって、両証拠の関連性は強い(ⅱ)。
(3) したがって、派生証拠たる被害品に証拠能力は認められない。
2 以上より被害品を証拠として採用できない。
第3 供述調書②
1 ①と同じ理由で、供述調書②(以下、「②」という。)に証拠能力が認められなければならない。②における取調べ手続は適法である。もっとも、②は①の自白に引き続く取調べによって得られた同一趣旨の自白、すなわち反復自白である。そこで、②は①の派生証拠として証拠能力が否定されないか。反復自白の証拠能力の有無が問題となる。
(1) 自白法則の貫徹と真実発見の調和から、前述の被害品と同様の基準で判断する。
(2) 前述のとおり、先行手続に重大な違法がある(ⅰ)。
また、確かに取調べの主体がAからBに変更され、Bは黙秘権の告知をしているので、先行手続たるAの取調べは、後行手続たるBの取調べに影響を及ぼさず、関連性が弱いとも思える。しかし、甲にとって取調べの主体は重要ではない。また、甲が①の証拠能力がないことを知ったというような違法性を遮断する事実や、一度削がれた人権を行使する意欲が回復されたと判断できる事実はない。よって、両証拠の関連性は強い。
(3) よって、派生証拠たる②に証拠能力は認められない。
2 よって、②を証拠として採用できない。

解説

自白法則の根拠については、虚偽排除説、人権擁護説、任意性説、違法排除説などがあるところ、答案例1は違法排除説の立場で論述している。

供述調書①の論述においてはこれらのいずれの立場をとっても論述のし易さは変わらないだろう。しかし、被害品及び供述調書②の論述においては違法排除説の立場だと論述し易い。

すなわち、違法排除説においては、自白法則=違法収集証拠排除法則と捉えるから、供述証拠①の採取過程が自白法則に反すると認定すれば、供述調書①の派生証拠たる被害品及び供述調書②は「毒樹の果実」の理論で証拠能力を検討することができる。

これに対し、虚偽排除説、人権擁護説、任意性説の立場で供述調書①の採取過程が自白法則に反すると認定した場合、「毒樹の果実」の理論とは別の理論構成で被害品及び供述調書②の証拠能力を検討する必要がある。

もっとも、虚偽排除説、人権擁護説、任意性説の立場でも、自白法則とは別個に、供述調書①の採取過程につき違法収集証拠排除法則を適用して、派生証拠たる被害品及び供述調書②につき「毒樹の果実」の理論で証拠能力を検討することができる。しかし、かかる論述は答案上の分量が膨大になるので、現実的な解法とはいえないだろう。

答案例2

第1 供述調書①
1 供述調書①(以下、「①」という。)は甲の犯人性、すなわち犯罪の存否を画する事実を立証するために使用されるので、厳格な証明(317条)が必要である。よって、①を証拠として採用するには①に証拠能力が認められなければならない。
(1) そこで、①の犯行を自白した箇所は「任意にされたもの」(319条1項)といえるか。不任意自白の証拠能力を否定する自白法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の根拠及び判断基準が問題となる。
ア 不任意自白の証拠能力が否定される趣旨は、かかる自白は虚偽である可能性が高く誤判を招くおそれがある点及びかかる自白の証拠能力を否定して黙秘権を中心とする被告人の人権侵害を防止して、人権保障の実効性を担保する点にある。そこで、不任意自白であるか否かはa虚偽自白が誘発される状況の有無、b黙秘権を中心とする人権への不当な圧迫の状況の有無によって判断すべきである。
イ これを本件についてみると、Aは取調べの前の黙秘権不告知という違法な取調べを行い(198条2項)、その上で甲に虚偽の事実を告げた。犯行現場の防犯カメラに自己の顔が写っているといわれれば、それが自己の裁判で決定的な証拠な証拠になると考えるから、Aの虚偽の事実を告げる行為は甲が防御のために黙秘権などの人権を行使する意欲を削ぐ行為である。よって、黙秘権への不当な圧迫がある(b)。また、虚偽の事実を告げる行為は甲が防御を諦めて虚偽の自白をすることを誘発する行為である(a)。
ウ 以上より、①の犯行を自白した箇所は不任意自白であるから、証拠能力が否定される。
(2) また、①の「被害品を友人宅に隠匿している」と言った箇所は伝聞証拠である(320条1項)。また、かかる箇所は「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」(322条1項本文)にあたるが、前述の通り「任意にされたものでない」(同ただし書)。よって、証拠能力が否定される。
2 以上より、①を証拠として採用できない。
第2 友人宅で差し押さえられた被害品
1 ①と同じ理由で、被害品に証拠能力が認められなければならない。そこで、被害品は①の派生証拠として証拠能力が否定されないか。不任意自白の派生的物的証拠の証拠能力が問題となる。
(1) 物的証拠は自白と異なり、虚偽であるおそれや黙秘権侵害のおそれはないので、派生的物的証拠に証拠能力を認めるべきとも思える。しかし、常にこれに証拠能力を認めれば、派生的物的証拠獲得のために取調べにおいて不任意自白を採取することが考えられ、自白法則が骨抜きになりかねない。そこで、不任意自白と派生的物的証拠の因果性の程度や派生的物的証拠の重要性などを総合衡量して、派生的物的証拠の証拠能力の有無を判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、確かに被害品は甲の犯人性の立証において重要な証拠である。しかし、本件捜索差押許可状は①を疎明資料として発付されている。さらに、①がなければ甲の友人宅を捜索する可能性は極めて低い。よって、①と被害品には強度な因果性がある。
(3) したがって、派生証拠たる被害品に証拠能力は認められない。
2 以上より被害品を証拠として採用できない。
第3 供述調書②
1 ①と同じ理由で、供述調書②(以下、「②」という。)に証拠能力が認められなければならない。そして、②における取調べ手続は適法である。もっとも、②は①の自白に引き続く取調べによって得られた同一趣旨の自白、すなわち反復自白である。そこで、②は①の派生証拠として証拠能力が否定されないか。反復自白の証拠能力の有無が問題となる。
(1) 反復自白の証拠能力の有無は第二自白の任意性の有無で判断すべきであるところ、かかる任意性は、第一自白の不任意性との関係を考慮する必要がある。すなわち、第二自白時に第一自白の不任意性がもたらした心理的誘因・圧迫が解消されたかを諸般の事情を考慮して、第二自白の任意性を判断すべきである。
(2) これを本件についてみると、確かに取調べの主体がAからBに変更され、Bは黙秘権の告知をしている。しかし、甲にとって取調べの主体は重要ではない。また、甲が①の証拠能力がないことを知ったというような違法性を遮断する事実はない。よって、第一自白の心理的誘因・圧迫が解消されたとはいえず、②に任意性はない。
(3) したがって、派生証拠たる②に証拠能力は認められない。
2 以上より、②を証拠として採用できない。

解説

供述調書①につき、自白法則における任意性説の立場で論述している。

そして、被害品は供述調書①の派生的「物的」証拠として、供述調書②は供述調書①の反復自白として証拠能力の有無を論述している。

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