答案例
第1 小問1
1 XがYに本件剰余金の支払を求めるには本件基準日時点でXがYの株主であったことが必要である。本件譲渡は平成22年3月10日に行われているところ、本件株式は譲渡制限株式であるから、X及びAは基準日までに本件譲渡の承認を受けなければ本件譲渡をYに主張できない。もっとも、かかる承認がなくてもXA間では本件譲渡は有効とならないか。
(1) 株主の投下資本回収のため、株式の譲渡は原則自由である(127条)ところ、法が定款による株式の譲渡制限の規定を認めた趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主になることを防止する点にある。そうであれば譲渡制限規定違反の株式の譲渡の効力は会社との関係で無効とすれば足りる。よって、当事者間では有効になると解する。
(2) これを本件についてみると、本件譲渡があったが、X及びAは取得の承認請求をしていない。
(3) よって、本件譲渡はYとの関係では無効であるが、XA間では有効である。
2 そうであれば、Yが本件譲渡を認めたうえで、Aを株主として扱うことが許されないか。
(1) 譲渡制限規定に違反の場合に、会社が譲渡人を株主として扱わなければかかる譲渡された株式に係る株主の権利を行使できる者がいないという権利の空白が生じ、妥当でない。よって、会社は譲渡人を株主として扱う義務があると解する。
(2) これを本件についてみると、譲渡人はXである。
(3) よって、YはXを株主として扱わなければならない。
3 以上より、本件基準日時点でXは株主であり、Aは株主ではないので、本件剰余金はXに帰属する。したがって、XはYに本件剰余金を支払いを求めることができる。
第2 小問2
1 本件譲渡によりAは本件株式を取得しているが、名義書換がなされていない。そこで、YはXを株主として扱わなければならないか。
(1) 130条1項は「対抗することができない」としているから、譲渡は有効である。また、同項の趣旨は多数の変動する株主の集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜を図る点にある。そうであれば会社が自己の危険において名義書換未了の譲受人を株主として扱うことは許されると解する。
(2) これを本件についてみると、本件譲渡の名義書換はなされていない。
(3) よって、Aを株主として扱うことは許される。
2 そうだとしても、本件譲渡は基準日より後になされているので、Aは本件剰余金を受け取る資格は原則ない(124条1項)。もっとも、YがAを株主として扱うことはできないか。
(1) 124条4項は基準日後の株主の議決権行使を認めているところ、同項を類推適用して基準日後の株主の剰余金配当請求も認められる余地はある。しかし、かかる権利を認めると、譲渡人の剰余金配当の権利を奪うことになるので、同条4項ただし書に抵触する。
(2) よって、YはAを株主として扱うことはできず、Aは本件剰余金を受け取る資格はない。
3 以上より、XはYに本件剰余金を支払いを求めることができる。
第3 小問3
1 本件譲渡が取り消されれば本件譲渡は初めから無効となる(民法121条)から、Aには本件剰余金を受け取る資格がない。もっとも、YのAに対する支払いは有効とならないか。
(1) 株券の占有者はその株式の権利を適法に行使すると推定される(131条1項)から、株券の提示を受けた上でなされた名義書換により株主名簿に権利推定の効力が生じ、その結果、株主名簿記載の者を株主として扱えば足りる(免責的効力)。そして、株券の提示と同等に慎重な手続きを経てなされた名義書換にも同様に権利推定の効力が生じ、免責的効力が生じすると解する。また、免責的効力が認められれば、無権理者に対する剰余金の支払いであっても会社が悪意重過失がない限りかかる者への弁済は有効となると解する(手形法40条3項類推)。
(2) これを本件についてみると、X及びAは共同して名義書き換えをしているので、慎重な手続きが履践されたといえる。また、Yが本件取消事由につき悪意重過失である事情はない。
(3) よって、Aへの本件剰余金の支払いは有効である。
2 以上より、XはYに本件剰余金を支払いを求めることができない。