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刑事訴訟法

平成22年旧司法試験 刑事訴訟法論文第1問

答案例

1 警察官(以下、「P」という。)が甲及び乙に逮捕する旨を伝えた行為は適法か。
(1) 甲及び乙を逮捕するには令状が必要である(憲法33条、刑訴法199条1項)から、上記行為は原則違法である。もっとも、甲及び乙の着衣から覚せい剤が発見されたので、両名は「現に罪を行」っているといえ、現行犯人(212条1項)にあたる。
(2) よって、上記行為は適法である。
2 PがXの事務所に立ち入った行為は適法か。
(1) 逮捕に伴う無令状捜索(220条1項1号)として許容されるか。
ア 「司法警察職員」であるPは「現行犯人」である甲を逮捕するために、X事務所という「人の看守する・・・建造物」に立ち入った。
イ また、上記行為はPが甲に対し、逮捕する旨を伝えた後、すぐに行った行為であるから、「逮捕する場合」の行為である。
ウ さらに、甲はPの制止を振り切ってXの事務所に逃げ込んだので、そのままでは甲を見失う可能性があった。よって、上記行為は「必要があるとき」に行ったといえる。
(2) よって、上記行為は同号に該当し、許容され、適法である。
3 甲を逮捕した行為は適法か。
(1) 前述のとおり、甲は現行犯人であるところ、Xの事務所内の逮捕も現行犯逮捕(213条、212条1項)として許されるか。
(2) 同項の趣旨は現行犯の場合、犯罪の嫌疑が明白であるから誤認逮捕の恐れが少ない点にある。そこで、現行犯逮捕は、①犯罪と犯人の明白性及び②現行性又は時間的場所的近接性が認められる場合にできると解する。
(3) これを本件についてみると、Pは甲の犯罪を現認している(①)。また、甲は、Pが犯罪を現認した後すぐに近くのXの事務所に逃げ込んでいるので時間的場所的近接性がある(②)。
(4) よって、甲の逮捕は現行犯逮捕の要件を充足し、適法である。
4 机の中を捜索した行為は適法か。
(1) 机の中を捜索するには令状が必要である(憲法35条、218条1項)から上記行為は原則違法である。もっとも、逮捕に伴う無令状捜索(220条1項2号)として許されないか。
(2)
ア そもそも逮捕に伴う無令状捜索が認められる趣旨は、逮捕現場には一般的に証拠が存在する蓋然性がある点にある。そこで、かかる捜索は逮捕被疑事実と関連性を有する物の発見のために必要な限度で許容されると解する。
イ これを本件についてみると、覚せい剤は自己使用だけでなく、譲渡目的で所持されることがあり、その手段として携帯電話が使用される可能性が高い。そのため、甲の逮捕被疑事実と携帯電話は関連性を有する。
ウ よって、上記行為は被疑事実と関連性を有する物の発見のために必要な限度内の行為である。 
(3) 上記行為は、甲を事務所内で逮捕して間もなく、その場でなされたものであるから、「逮捕する場合において必要があるとき」に「逮捕の現場」で行われたものといえる。
(4) なお、上記捜索は被疑者でないX事務所における捜索であるから、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(222条1項本文前段、102条2項)が必要である。本件では甲は事務所に逃げ込んだ際に手に持っていた携帯電話を所持しておらず、机の周辺にも携帯電話は見当たらなかった。よって、甲が机の中に携帯電話を隠匿した蓋然性があった。よって、かかる要件を充足する。
(5) 以上より、上記行為は逮捕に伴う無令状捜索として許容され、適法である。
5 乙を逮捕した行為につき、前述の通り現行犯逮捕として適法である。
6 乙を警察署に連行した行為は適法か。
(1) 上記行為は「必要な処分」(222条1項本文前段、111条1項前段)にあたるか。
(2) 「必要な処分」とは捜索のために必要かつ相当な行為をいう。
(3) 乙は逮捕時に大声でわめき暴れるなどをし、その結果周囲に野次馬が集まってきたので、適切な捜索が妨害される恐れがあった。そのため人がいない警察署に連行する必要があった。また、連行先はそこから1キロメートルであり、移動手段は自動車であるから、移動距離及び移動時間がわずかである。よって、乙にとって過度な負担を強いる移動ではなく、相当な行為である。
(4) よって、上記行為は「必要な処分」であり、適法である。
7 乙の身体を捜索した行為は適法か。
(1) 上記行為が「逮捕の現場」での捜索といえるか。
ア 逮捕による無令状捜索の趣旨は前述の通りであるが、証拠が存在する蓋然性は「逮捕の現場」にいるか、その他の場所にいるかでかわらない。そこで、逮捕の現場で直ちに捜索を実施することが適当でない場合には速やかに捜索に適する場所に連行して行うことも「逮捕の現場」による捜索と同視できると解する。
イ これを本件についてみると、「必要な処分」の該当の有無で検討した通り、かかる要件を充足する。
ウ よって、上記行為は「逮捕の現場」での捜索と同視できる。
(2) また、同様に上記行為は「逮捕する場合」の捜索と同視できる。
(3) よって、上記行為は適法である。

解説

本答案例は学習の便宜のために論述されたものであるから、本試験における現実的な答案例ではない。

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