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刑事訴訟法

平成22年旧司法試験 刑事訴訟法論文第2問

答案例

1 本件メモにより刑罰権の存否及びその範囲を画する事実(主要事実)及びこれを推認させる事実(間接事実)を立証する場合、本件メモに証拠能力が必要である(厳格な証明、317条)。そこで、本件メモで立証する事実はいかなる事実か。
(1) 本件捜査により判明した事実と本件メモの事実が共通している。よって、本件メモにより、甲が本件捜査により判明した事実に濃厚な関係性を有するという事実(①)を立証できる。そして、かかる事実は、甲の犯人性という主要事実を推認させる事実であるから、間接事実である。よって、①の事実を立証する場合、本件メモに証拠能力が必要である。
(2) また、本件メモにより、本件メモ作成時に甲が本件メモ記載内容と同一の意図・計画を有していた事実(②)を立証できる。そして、かかる事実は、甲の殺人罪及び死体遺棄罪の故意という主要事実を推認させる事実であるから、間接事実である。よって、②の事実を立証する場合、本件メモに証拠能力が必要である。
2 そこで、本件メモは公判期日外の供述を内容とする書面であるところ、伝聞証拠にあたるか。伝聞証拠の意義が問題となる。
(1) 伝聞証拠の証拠能力を原則否定する趣旨は伝聞証拠には反対尋問による吟味や裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察がなしえない点にある。すなわち、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるところ、各過程に誤りが介在する恐れがある。そこで、偽証罪及びこれに伴う罰則の告知がなされる公判期日で反対尋問による吟味や裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察によって真実性を検討する必要がある。しかるに、伝聞証拠はかかる検討がなされないので、証拠能力が否定される。そこで、伝聞証拠か否かは、供述内容の真実性につきかかる検討が要請されるか否か、すなわち要証事実との関係で相対的に決せられると解する。よって、伝聞証拠とは公判期日外の供述を内容とする証拠で、その内容の真実を立証するために提出・使用される証拠をいうと解する。
(2) これを本件についてみると、①の事実を立証する場合、本件メモの内容と捜査により判明した事実がどの程度共通しているかが重要であるから、本件メモの内容の真実性は問題とならない。
よって、本件メモは、その内容の真実性を立証するために提出・使用されないので、伝聞証拠にあたらない。
(3) ②の事実を立証する場合、本件メモは甲の精神状態供述として証拠提出される。そして、この場合には甲がいかなる主観を有していたかが問題となるから、本件メモ内容の真実性が問題となる。よって、本件メモは伝聞証拠にあたるとも思える。しかし、供述者の精神状態供述は知覚・記憶の過程を経ないので、誤りが介在する危険性が低い。よって、反対尋問等による吟味の必要性が低い。
また、精神状態の立証においては、公判期日の供述よりも、精神状態供述時の供述の方が、証明力が高い。よって、精神状態供述である本件メモは伝聞証拠を禁止する趣旨が妥当しない。
したがって、本件メモは伝聞証拠にあたらない。
3 以上より、①及び②の事実の立証において本件メモを証拠として用いることができる。

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