※平成29年改正に対応済み
答案例
第1 Dの所有権
1 ABの本件売買契約は仮装されたものであるから、ABの意思表示は無効である(94条1項)。Dは甲土地を無権利者Bから買ったので、甲土地の所有権を取得できない。もっとも、Dは94条2項の「第三者」にあたらないか。
2 第三者(94条2項)とは、当事者及び包括承継人以外の者で、虚偽の外観を基礎として新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者と解する。
3 DはAB間の本件売買契約の後に、仮装であることを知らずにかつ、知らないことに過失なくBから甲土地を買った。
4 よって、Dは「第三者」(94条2項)にあたり、甲土地の所有権をAに対抗できる。なお、94条2項により仮装譲受人が真正権利者のように扱われるのは一種の法的擬制であるから、第三者は現所有者から直接に承継取得したものと解する。
第2 Cの権原
1 土地の権原
(1) Cは無権利者Bから土地を賃借したので、土地を占有する権原がない。もっとも、他人物賃貸借は有効である(559条、561条参照)。よって、BはCに対し、Cが適法に土地の賃借権を取得するために、土地を賃貸するための土地の権原を取得する義務がある(559条、561条)。
(2) 本件では、Bが甲土地の所有者であるAを相続し、一切の権利義務を承継した。よって、Cは、BがAを相続した時点から甲土地を賃借権を取得するとも思える。しかし、BはAが116条類推適用により有していた本件賃貸借契約の追認権も相続している。そこで、Bが本件賃貸借契約を追認拒絶できるかが問題となる。
(3) この点につき、Bが追認拒絶をすることは禁反言の原則に反し、信義則上許されないと解する。よって、Bは追認をしたことになる。そうであれば、116条類推適用により、追認は賃貸借契約時に遡って効力を有する。但し、第三者の権利を害することはできない(116条但書)。
2 建物の権原
(1) Cは乙建物の所有者であるBから乙建物を買ったので、その所有権を取得する。しかし、乙建物を所有することで、甲土地を占有することになる。そこで、乙土地の占有権原がなければ、乙建物を収去し、乙土地を明け渡す必要がある。
(2) 前述の通り、CはBの相続時から乙土地の賃借権を取得したので、相続時以降は甲建物につき適法な占有権原があると認められる。
第3 CDの優劣
1
(1) 前述のようにDはAから甲土地を承継取得したと解される。他方でCはAの相続人Bから適法に甲土地の賃借した。よって、CDはA及びBを起点として、権利を取得し、又は権利の設定を受けている。
2 ところで、不動産の物権の得喪は登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)。そして、この「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の不存在を主張する正当な利益を有する者と解される。よって、CDは互いに登記がなければ対抗できない。また、Cが甲土地について建物所有を目的として契約した賃貸借契約における、賃借権は借地権である(借地借家法2条1号)。そして、借地権は土地上に登記された建物を所有すれば第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)。
3 Cは乙建物の登記があり、Dは甲土地の所有権の登記がある。よって、CDの優劣は原則これらの先後で決せられる。もっとも、116条類推適用により、Cが借地権を適法に取得したのは、賃貸借契約時に遡る。これにより、Cが借地権の対抗要件を取得したのは本件賃貸借契約時であると思える。しかし、116条類推適用による遡及効は一種の法的な擬制に過ぎない。よって、Cが対抗要件を現実的に具備したのは、Bの相続時である。また、契約当事者間の賃借権の取得時期と、第三者対抗要件具備時は必ずしも一致させる必要はない。したがって、CDの優劣はDの登記とBの相続の先後で決すべきである。
4 以上より、DはCに甲土地の所有権を対抗することができる。したがって、所有権に基づいて甲土地の明け渡しを求めることができる。
解説
余剰記載
本問では次の記載は本問の解決において不要な議論である。よって、次の記載をしても加点されないと考えられ、場合によっては減点もありうる。
- 94条2項の第三者に無過失まで要求されるか。
- 94条2項の第三者が保護されるには登記が必要か。
1につき、本問で94条2項の第三者であるDは問題文中で善意無過失である旨が記載されている。よって、無過失まで要求されるか否かを展開することに意味がない。
2につき、本問で94条2項の第三者であるDは問題文中で登記を備えたことが記載されている。よって、登記が要求されるか否かを展開することに意味がない。
1及び2からわかるように、本問でDが94条2項の第三者にあたることは明らかで、争点にはならない。
追認の遡及効
本問のポイントは、➀Cが賃借権を取得したか否か、仮に取得したとして、②対抗要件具備の時期はいつかである。
➀につき、94条2項の第三者Dが現所有者Aから権利を承継取得したと解すれば、BがAが相続したときにはすでにAは甲土地の所有権を喪失したと考えられる。そうすると、CD間は対抗関係にならない。もっとも、BがAの本件賃貸借契約の追認権を相続により承継し、追認をすれば116条類推適用により追認は賃貸借契約時に遡って有効となる。そうなると、Cは賃貸借契約時に借地権の対抗要件を具備したことになり、CD間は対抗関係に立つ。
②につき、CD間が対抗関係に立つとして、Cの対抗要件具備の時期が問題となる。116条類推適用による遡及効を重視すればCは本件賃貸借契約時に対抗要件を具備したことになる。しかし、116条但書は「第三者の権利を害することはできない」と規定しているので、第三者の保護も図る必要がある。また、Cが現実的に借地権を取得したのは、BがAを相続したときである。そこで、116条類推適用による遡及効により対抗要件具備時も契約時に遡ると解することが妥当かという問題が生じる。
実務で本問と同様の事案が発生した場合、まず初めにCDどちらを勝たせるべきかという結論の妥当性が重要なものになる。そして、その判断においては、Cの賃料やDの売買代金が重要な判断材料となるだろう。すなわち、Cの賃料が相場より不当等に安価であれば、本件賃貸借契約は使用貸借契約に近い契約だと判断され、Cの保護の必要性が低い。また、Dの売買代金が、Cの借地権を前提とした価格であれば、Dの保護の必要性が低い。
本問では、CDいずれを勝たせるべきかという結論の妥当性は重要ではないと思う(私見)。前述のとおり、本問ではDは94条2項の第三者であることに争いはないので、この部分で長々論証を張るのではなく、Cの借地権の取得時期及びCD対抗関係について細かく分析し、論じていくと多少論理性が欠けていても点数は伸びたであろう。