答案例
第1 設問1
1 本件捜索差押許可状(以下、「本件許可状」)の罪名の記載は刑訴法219条1項に反しないか。特別法違反における「罪名」の意義が問題となる。
(1) 判例は、憲法35条が文言上「正当な理由」を明示することを要求していないので、捜索差押許可状の罪名の記載は特別法令名のみで足りるとしている。しかし、刑訴法219条1項で「罪名」が規定される趣旨は、事件を特定することで令状の流用を防ぐ点及び「場所」や「物」の明示と相まって対象物の特定に資する点にある。また、同一特別法令中に複数の罰条がある場合に罰条による個別化ができない。そこで、捜索差押許可状には特別法令名だけでなく、罰条の記載が必要であると解する。よって、特別法違反における「罪名」とは特別法令名及び罰条であると解する。
(2) これを本件についてみると、罪名として「覚せい剤取締法違反」としか記載されていない。
(3) よって、本件許可状の罪名の記載は適法でない。
2 本件許可状の差し押さえるべき物の記載は219条1項に反しないか。同項が要求する「物」の特定の程度が問題となる。
(1) そもそも、「差し押さえるべき物」(219条1項)の特定が要求される趣旨は、捜査機関の権限を明確にして一般令状を禁止する点及び令状の執行を受ける者の受忍限度を明確にする点にある。そうであれば「物」の特定は個別具体的にされるべきである。もっとも、令状発付段階では「物」の具体的内容が特定できない場合がある。それにもかかわらず、個別具体的な特定を要求すると、捜査機関の令状に基づく捜索が著しく困難となる。そこで、本件許可状の「その他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」という概括的な記載でも、①それが具体的例示に付加されたものであり、かつ②「本件」の内容が明らかであれば適法であると解する。
(2) これを本件についてみると、本件許可状の概括的記載は具体的例示に付加されている(①)。しかし、「本件」の内容は罪名から判断すべきと考えられるが、罪名だけでは覚せい剤の所持、譲渡、譲り渡しのいずれの行為に関するものかが不明である。よって、「本件」の内容が明らかでない(②不充足)。
(3) よって、本件許可状の差し押さえるべき物の記載は適法でない。
第2 設問2
1 本件メモを差し押さえるためには、①本件メモが、類型的に令状記載の「差し押さえるべき物」にあたり、かつ②被疑事実と関連性を有していることが必要である。
2 これを本件についてみると、本件メモは類型的に本件許可状の「メモ」にあたる(①)。
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(1) また、被疑事実との関連性がある物には、被疑事実の直接証拠だけでなく、間接証拠も含むと解する。
(2) これを本件についてみると、本件メモは本件被疑事実の直接証拠ではないが、間接証拠である。すなわち、覚せい剤を譲渡するためには覚せい剤を仕入れる必要があるところ、本件メモ記載の日付は本件被疑事実の前日である。また、本件メモを基に算出される覚せい剤の単価は、本件被疑事実の単価より安い。また、乙に譲渡した覚せい剤が10グラムであることから、甲が丙より譲り受けた覚せい剤の量は甲個人で使用するには量が過剰であることが伺える。そうであれば、甲は転売目的で丙から譲り受けたと考えられる。よって、本件メモにより甲が乙に覚せい剤を売るための覚せい剤の仕入れ事情を証明できる。そして、覚せい剤の仕入れの事情の存在が、覚せい剤を譲渡した事実、すなわち本件被疑事実の存在を推認させる。
(3) よって、本件メモは被疑事実と関連性を有する(②)。
4 以上より、本件メモを差し押さえることができる。