答案例1
1 Aは、本件工事を行ったのはCであるから、「指定工事店が・・・違反した」(本件規則11条)に該当しないので、本件処分は違法であると主張する。
(1) 本件工事はAの役員でなく単なる従業員に過ぎないCが、休日にAを通さず行ったものである。そのため、Aが本件工事を行ったという認定には重大な事実誤認がある。
(2) よって、本件規則11条に該当しないので、同条違反を根拠とする本件処分は違法である。
2 Aは本件処分につきBの裁量の逸脱濫用(行訴法30条)があり違法であると主張する。
(1) 本件規則11条は「できる」と規定し、処分の種類も複数ある。そして、指定工事店の適性の見極めは行政の専門技術的判断が必要となる。そのため、Bに効果裁量がある。もっとも、裁量権行使につき重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合には裁量の逸脱濫用として違法となると解する。
(2) これを本件についてみると、Aにつき本件条例及び本件規則に基づく処分歴はない。また、本件工事は前述のとおりCが無断で行ったものであるから、本件工事につきAに重大な帰責性はなく、違反の程度が軽微である。それにもかかわらず最も重い処分たる本件処分をすることは比例原則に反し、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
(3) よって、本件処分は裁量の逸脱濫用であり、違法である。
3 Aは本件処分に先立ち聴聞手続き(行手法13条1項1号参照)がなされていないことを理由に本件手続条例違反が本件処分の違法事由になると主張する。なお、本件処分は条例に基づく処分であるから、行手法は適用除外である(行手法3条3項)。
(1) 本件処分は、行政庁たるBが本件条例に基づき特定の者であるAを名あて人として本件指定工事店の指定の取消しという権利を制限する処分を行っている。よって、本件処分は「不利益処分」(同2条4号参照)にあたる。そうであれば本件処分に先立って聴聞手続きが必要である。しかし、本件ではこれがなされていない。
(2) そこで、かかる事情が本件処分の違法事由となるか。
ア 行手法は適正な手続きを保障して、国民の権利利益の保護を目的としている(行手法1条)ところ、かかる目的に鑑み、行手法の重要な手続きを履践していないことは処分の取消訴訟における違法事由にあたると解する。
イ これを本件についてみると、行手法と同等の規定がある本件手続条例の要求する聴聞手続きは処分の名あて人に意見陳述の機会を与え、行政庁に慎重に処分をさせるという重要な手続きである。
ウ よって、聴聞手続きがなされていないことは本件処分の違法事由となる。
4 Aは本件処分の理由提示が不十分であることを理由に本件処分が違法であると主張する。
(1) 前述のとおり本件処分は「不利益処分」であるから、理由提示(行手法14条参照)が必要である。そして、理由提示の趣旨は処分理由を被処分者に提示することで不服申し立ての便宜を図る点及び行政庁の慎重で合理的な判断を担保して恣意を抑制する点にある。そうであれば理由提示の不備は重要な手続きを履践していないといえる。そして、かかる趣旨に鑑み、理由提示はいかなる事実に基づいて、いかなる法規を適用して処分がなされたかを被処分者においてその記載自体から了知しうる程度に具体的であることが要求される。
(2) これを本件についてみると、本件処分の処分理由には法規の適用の記載がない。また、処分対象の事実につき日付・場所等で特定されていないので、Aが不服申し立てする事実を特定できない。
(3) よって、本件理由提示は本件手続条例に違反し、本件処分の取消訴訟における違法事由となる。
答案例2
第1 実体法上の違法
1
(1) 本件処分は本件工事につきAが行ったことを前提としている。そこで、Aが行った工事でないので、規則11条違反はないと主張すべきである。
(2) 本件条例9条は排水設備の公共性に鑑み、工事につき市の管理下に置き、工事が適切にされることを担保する趣旨である。そして、本件条例11条は排水設備の工事を指定工事店に限定し、工事する者を適切に管理する趣旨である。そこで、指定工事店の従業員が行った工事でも、原則指定工事店の工事と認定しなければ本件条例の趣旨が没却される。もっとも、指定工事店の従業員の工事を、指定工事店の工事を同視すべきでない特別の事情があれば、指定工事店の工事と認定すべきでない。具体的には工事を行った者の主観面及び工事の客観面で判断する。
(3)
ア 本件工事は、Cが休日に自宅でされたものである。また、CはAの役員ではない。よって、外観上Aが工事を行っているとは見えないから、客観的に見てAの工事とは言えない。
イ また、CはAを通さずに工事を行っているので、Cの独断の工事と言える。よって、CはAの従業員として工事する意思はなかったので、主観面でもAの工事とは言えない。
(4) よって、本件工事をAが行ったと認定した本件処分は違法である。
2
(1) また、本件処分は比例原則により違法であると主張する。
(2) 本件規則11条は取り消し「又は」停止を「できる」としており、裁量が認められる。そこで、処分より私人が被る損害と、処分による公益との均衡という観点から処分の裁量の逸脱濫用があるか判断する。
(3)
ア 本件ではCが勝手に行った工事であるので、Aの帰責性は小さい。また、Aは過去に処分を受けたことがない。
イ よって、Aに悪質性が認められないので、取り消し処分をする必要性が乏しい。これに対し、取り消しがされると、Aは排水設備工事による収入がなくなるので、損害が大きい。
(4) 以上より、本件処分は比例原則に反し、裁量の逸脱濫用があるので違法である。
第2 手続法上の違法
1
(1) 本件処分に当たって意見陳述や資料提出の機会を与えていないことを違法事由として主張する。
(2) 不利益処分(手続条例2条4号)をする場合、聴聞手続きをしなければならない(手続条例13条1項1号イ)。そして、聴聞手続きにおいては意見を述べ、証拠を提出できる(20条1項)。
(3)
ア 本件処分は指定工事店の指定取消しであるから、「許認可等を取り消す」(手続条例13条1項1号イ)に該当する。よって、聴聞手続きが必要である。
イ しかし、乙市は本件工事について市役所での説明を求めただけである。聴聞手続きは重大な不利益処分の前にされる手続きであるから、厳格の手続き(手続条例15条等)を要求されるものである。よって、本件の事情説明で聴聞手続きがされたとは言えない。
(4) よって、本件処分に手続き上の違法事由がある。
(5)
ア もっとも、手続法上の瑕疵を常に取消事由としても、再度手続きが履行されれば同様の処分が可能である。そこで、行政の迅速・経済と適正・公正の調和を図るため、手続の瑕疵が重大であれば取消事由になると解する。
イ 本件では聴聞手続きがされれば、Aが本件工事に関与していないことが明らかになるといえる。よって、処分内容がかわる可能性があるので、重大な瑕疵と言える。
ウ よって、本件手続の瑕疵は取消事由となる。
2
(1) 本件処分につき、理由提示に不備があることを違法事由と主張する。
(2) 理由提示(手続条例14条1項)の趣旨は、処分による行政庁の恣意抑制と処分の相手方の不服申し立ての便宜にある。そこで、理由提示は、どのような事実関係に基づき、どのような条文を適用したが、理由記載書から了知できるものでなければならない。
(3)
ア 本件の理由提示では、下水道工事が日時・工事場所で特定されていない。また、適用条文の記載もない。
イ よって、理由提示に不備がある。
(4) 以上より、手続条例14条1行為に反し、違法である。
(5)
ア 理由不備が取消事由と言えるか。
イ 前述の趣旨より、理由提示は重要な手続きである。また本件においては、事実関係及び適用条文いずれも具体的な記載がない。
ウ よって、重大な瑕疵といえる。
(6) 以上より取消事由となる。
答案例3
第1 手続法上の違法
1
(1) 本件処分の前提として、意見陳述や資料提出の機会が与えられなかったことについて乙市行政手続条例違反であると主張する。
(2)
ア 「行政庁」である乙市市長が、「法令」である本件条例及び本件規則に基づいて、「特定の者」であるAを指定工事店にしている。しかし、本件処分で、指定取り消しをしているので、「直接に」、「権利を制限」している(乙市行政手続条例2条4号)。
イ よって、本件処分は「不利益処分」(同号)に該当する。
(3)
ア 本件処分は、指定工事店取り消しであるから、「許認可等を取り消す不利益処分」(手続き条例13条1項1号イ)に該当する。よって、聴聞手続きをしなければならない。
イ しかし、本件では意見陳述や資料提出の機会が与えられていない。
(4) 以上より、本件処分は乙市行政手続条例に違反する。よって、手続き上の違法がある。
(5)
ア もっとも、行政手続きに瑕疵があることが、処分の取消事由になるか。
イ 行政手続条例の趣旨は、行政手続きの適正・公正を確保することにある。そこで、手続きの瑕疵が重大である場合に、取消事由になると解する。
ウ 本件では、Aに対し聴聞の機会を与えれば本件処分の結論が異なる可能性が高いので、重大な瑕疵といえる。
(6) 以上より、本件処分を取り消すべき手続きの違法があると言える。
2
(1) 本件処分は理由提示に不備があり、手続条例14条1項違反であると主張する。
(2) 不利益処分の際に理由を提示する趣旨は、被処分者の不服申し立ての便宜及び行政の恣意抑制にある。そこで、理由には、処分対象となる具体的事実の適示と適用条文を記載すべきである。
(3) 本件の理由記載では、処分対象とある事実につき、工事日・工事場所等で具体的に特定されていない。また、適用条文の記載もない。
(4) よって、本件処分は上記条例違反である。
(5) なお、上記趣旨によれば理由の不備は重大な瑕疵であるから、取消事由になる。
第2 実体法上の違法
1
(1) 乙市が、Aに対し、本件規則11条違反と適用し、本件処分をしたことが違法であると主張する。
(2)
ア 本件条例9条及び本件規則7条2項6号は、「確認」のない排水工事を禁止している。本件処分はAが「確認」なしで、工事をしたことを前提にしている。そこで、Aが本件工事をしたと認定できるか。
イ 本件工事は、CがAを通さずに行ったものである。また、本件工事はCが休日に自宅で行ったものであるから、Aが把握することは困難であった。
ウ また、確かにCはAの従業員であるので、Aと同視しうる事情がある。しかし、CはAの役員ではないので、Aの業務執行権を有していない。よって、Cの行為をAの行為と同視するのは妥当でない。
エ よって、本件処分の前提として乙に重大な事実誤認がある。
(3) よって、Aにつき本件11条違反を適用した本件処分は違法である。
2
(1) 本件処分は比例原則違反で違法であると主張する。
(2)
ア 本件規則11条は指定の取り消し又は停止を選択的に選択できる。また、条文では「することができる」としている。よって、処分内容の選択に行政に裁量がある。
イ しかし、本件工事はAの従業員Cが独断で行ったものであり、Aに帰責事由は少ない。その他、AがCの工事を黙認していた等の事情もない。
ウ それにも関わらず、処分で一番重い指定取り消しをすることは比例原則に反する。
(3) 以上より、本件処分は違法である。
答案構成
答案例2の構成
第1 手続き法上の違法
1 聴聞の機会
前段 乙市行政手続条例(行政手続法)違反
後段 手続きの瑕疵が、処分の取消し事由となるか。
2 理由の不提示
前段 乙市行政手続条例(行政手続法)違反
後段 手続きの瑕疵が、処分の取消し事由となるか。
第2 実体法上の違法
1 要件裁量?
2 効果裁量(効果の比例原則違反)
解説
総論
本問は処分の違法事由について論述させる問題である。
行政法の問題は通常、訴訟要件と本案要件を各々問われることが多いが、この年は後者のみ問われた。
本案要件には、手続き上の違法と、実体法上の違法がある。さらに、実体法上の違法には要件裁量と、効果裁量ある。
これらを隈なく検討させること、予備試験の時間配分を考慮し、訴訟要件は問われなかった。
上記の区分があやふやな場合は今一度テキストを読み返す必要がある。
手続法上の違法
行政手続法
手続き法上の違法を検討する場合、行政手続法の参照は必須である。
これは行政手続法に、被処分者に聴聞・弁明する機会や、処分者の理由提示を義務付ける規定があるからである。
なお、行政手続法は条例に基づく地方公共団体がする処分には不適用である(行手法3条3項)。
本問では、問題文中に乙市行政条例の存在が明記してあり、同条例に行手法と同様の規定があることが前提となっている。
取消事由
手続法の瑕疵が直ちに、処分の取消事由になるとは限らない。
手続きの瑕疵があった場合に処分の取消しを認めても、再度手続きを踏めば同じ処分は可能だからである。
また、軽微な瑕疵の場合にまで取消しを認めると、行政事務が停滞する。
そこで、手続きの瑕疵が重大な場合に限って、取消事由とすると解される。
「手続きの瑕疵が重大」とはどのような場合かを一般的抽象的に考えるのは試験勉強上は必須ではない。
この論点に関しては予備校の論証集を丸暗記しても、費用対効果は悪い。
問題文中に瑕疵の重大さを基礎づける事情があるので、それを拾い、自分なりの考えで重大さ(若しくは重大ではないこと)を説明して、答案に落とし込めば、少なくとも合格点には達するであろう。