平成29年民法改正対応済み。
答案例
第1 設問1①の主張
1 ①の主張は既判力に抵触するか。
(1) 既判力の根拠は当事者の手続き保障に基づく自己責任、機能は紛争の蒸し返しの防止にある。そして、審理の弾力化・簡易化のため、既判力は訴訟物たる権利関係の存否の判断に生じると解する。そして、前訴と後訴で訴訟物が同一の場合のほか、前訴の訴訟物が後訴請求と先決関係にある場合や、前訴と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合には既判力が作用すると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア 第1訴訟と第2訴訟では訴訟物が異なる。
イ また、第2訴訟における請求原因は本件売買契約締結の事実であるが、第1訴訟の訴訟物は、かかる事実の先決問題とならない。
ウ さらに、第2訴訟は第1訴訟の訴訟物たる一部請求の残額を請求するものであるから、両訴訟の訴訟物は両立し、矛盾関係にない。
(3) よって、既判力に抵触しない。
2 では、①の主張は前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理した事項に関する判断の拘束力(争点効)に抵触するか。
(1) 争点効を認める明文の規定はなく、争点効を認めると114条1項の趣旨が没却されるので、争点効は認められない。
(2) よって、争点効に抵触しない。
3 そうだとしても、①の主張は信義則(2条)に反しないか。
(1) 後訴の主張が前訴の蒸し返しといえ、前訴で紛争が解決されたとの相手方の期待に反する主張は信義則に反し許されないと解する。
(2) これを本件についてみると、①の主張は第1訴訟と同じであり、かかる事項は第1訴訟の争点であるから十分な審理がなされたといえる。
(3) よって、①の主張は信義則に反する。
4 以上より、①の主張は許されない。
第2 設問1②の主張
1 ②の主張は、①の主張と同様に既判力に抵触せず、また争点効も認められない。
2 ②の主張は信義則に反するか。前述の基準で検討する。
(1) 本件相殺の抗弁における自動債権たる損害賠償請求権は第2訴訟の訴訟物とは別個の請求権であるから、かかる相殺の抗弁はXの期待に反するとはいえない。また、相殺の抗弁は訴求債権の存在を前提とするものであるから、前訴の事実審口頭弁論終結時までに主張することは期待できない。よって、前訴の蒸し返しとはいえない。
(2) よって、②の主張は信義則に反しない。
3 以上より、②の主張は許される。
第3 設問2
1 本件主張はいずれも相手方の主張と一致し、かつ主張する者が立証責任を負い、相手方の主張を排斥する主張(抗弁)である。そして、抗弁が認められれば判決理由中で示されるが、かかる部分には既判力は生じない。そのため複数の抗弁が主張された場合、裁判所はいずれの抗弁を先に検討してもよい。もっとも、相殺の抗弁の場合、かかる抗弁が認められても、抗弁を主張した者の実質的敗訴である。そこで、相殺の抗弁は予備的抗弁として、他の抗弁が認められない場合に審理判断すべきであると解する。
2 これを本件についてみると、裁判官は弁済の抗弁及び相殺の抗弁いずれも認定しているから、弁済の抗弁を先に認定し、残額につき相殺の抗弁を認定すべきである。
解説
設問1の②の主張につき、既判力の時的範囲の問題としての形成権の行使の可否の論点を論ずることは的外れである。
かかる論点は事実審口頭弁論終結時までに主張できた事実につき、判決確定後にかかる事実に基づく形成権行使が、既判力に抵触するかという問題である。そして、第1訴訟の既判力は第2訴訟に及ばないので、既判力に抵触するかという問題は生じない。
そこで、設問1の①の主張の適否と同様の視点で検討し、同様の基準で設問1の②の主張の適否を論ずることになる。