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商法

平成24年予備試験 商法論文

※平成29年改正に対応済み

答案例1

第1 設問1
1 本件売買契約は利益相反取引にあたり、Yの取締役会の承認が必要ではないか。
(1) 356条1項2号の直接取引と同3号の間接取引の区別を容易にするため、「自己又は第三者のため」とは自己又は第三者の名義においてという意味であると解する。本件売買契約ではBはXを代表していないので、形式的にみてBが自己又は第三者の名義で取引を行ったとはいえない。また、XをBと同視する事情もない。
(2) そこで、本件売買契約は間接取引にあたらないか。その判断基準が問題となる。
ア 取引の安全の確保から、間接取引にあたるかは外形的・客観的に見て会社の利益の犠牲の下、取締役が利益を得るものといえるかで判断する。
イ これを本件についてみると、BはYの取引相手Xの取締役であるから、Yの利益の犠牲の下、Bが利益を得るといえる。
ウ よって、本件売買契約は間接取引にあたる。
(3) したがって、Yの取締役会の承認が必要であった。
2 Yは、Yの取締役会の承認のないことを理由に本件売買契約が無効であると主張できるか。
(1) 会社の利益保護及び取引の安全の要請の観点から、会社の承認のない利益相反取引につき、その直接取引の相手方には常に無効主張できるが、間接取引の相手方には、相手方が承認欠缺につき悪意であれば無効主張できると解する。
(2) これを本件についてみると、AはXを代表して取引を行ったところ、AとBは旧知の友人であり、Xの取締役Bは、Yの代表取締役でもあった。そのため、AはBにYの取締役会承認の有無を確認することは容易であった。よって、AにはYの取締役会承認の欠缺につき重過失があり、悪意と同視できる。
(3) よって、YはXに本件売買契約の無効を主張できる。
3 また、Yの直近数年の平均的年間売上高は1億円であるから、代金が1億円である本件売買契約は重要な財産の譲受けにあたる。そのためYの取締役会の承認が必要であった(362条4項1号)が、これを経ていない。そこで、本件売買契約は無効となるか。
(1) 取締役会の承認欠缺の取引は原則有効である。もっとも、承認欠缺を相手方が知り、又は知り得た場合には例外的に無効であると解する(民法93条1項類推適用)。
(2) これを本件についてみると、BがXの取締役であること及びABの間柄を考慮すれば、AはYの取締役会承認欠缺を知ることができた。
(3) よって、YはXに本件売買契約の無効を主張できる。
4 Yの本件売買契約の解除は有効か。本件売買契約はX及びYが事業のためにする行為であるから、商行為に当たる(5条)。そして、X及びYは自己の名をもって本件売買契約をしているので、商人である(商法4条1項)。よって、本件売買契約は商人間の売買契約であるから、商法526条2項の解除権が発生したかを検討する。
(1) Yは本件生地を受領した際に詳細な検査を実施したが、本件生地の異常を見つけられなかった。そして、本件生地は数回洗濯すると色落ちするので洋服の生地に適さず、品質が契約内容に適合しない。また、かかる色落ちを直ちに発見することは困難である。よって、同項後段に基づき解除しうる。
(2) 以上より、Yは本件生地の受領から6か月以内に本件解除をしているので、有効である。
第2 設問2
1 Zは本件手形を所持しており、本件手形の裏書の記載が、受取人から最終被裏書人まで手形面上間断なく続いているので裏書の連続がある。しかし、Yは本件売買契約を解除したので、Xに対し手形債務を拒むことができるものの、所持人たるZにはかかる抗弁を原則主張できない(人的抗弁、手形法77条1項1号、17条本文)。もっとも、手形法17条ただし書によりZの請求を拒めないか。
(1) 手形法17条本文の趣旨は取引の安全の見地から所持人を保護する政策目的ため、債権譲渡における抗弁承継の一般原則(民法468条2項)を修正し、これを切断する点にある。そこで、「債務者を害することを知りて」とは、所持人が政策的保護に値しない主観的事情を有している場合をいう。具体的には所持人が手形を取得する際に、満期に手形債務者が所持人の直前の前者に抗弁を主張して支払いを拒むことは確実だと認識していた場合をさす。
(2) これを本件についてみると、Zは本件手形取得時に本件売買契約の代金の支払いのために振り出されたことを知っていたが、本件売買契約が解除されうるものであることを認識していなかった。
(3) よって、Zは「債務者を害することを知りて」といえない。
2 以上よりYはZの請求を拒むことはできない。

解説

設問1につき、本件売買契約がX社にとって直接取引(356条1項2号)にあたるから、X社取締役会の承認欠缺を検討することも考えられる。もっとも、設問1は「Y社からみて」という留保がなされている。そのため、X社にとって直接取引であることを認定の上、Y社が、X社の取締役会の承認欠缺を理由に本件売買契約の無効を主張できるかという論述をすることになる。この点、356条1項2号、3号は、利益相反取引の承認を要する会社の財産保護を図る趣旨であるから、取引の相手方からの無効主張はできない。

他方、本答案例1は、Y社の取締役会の承認欠缺を問題としている。この場合には直接取引(356条1項2号)と間接取引(356条1項3号)の区別、すなわち、直接取引における「自己又は第三者のために」の意義が問題となる。なお、本答案例1では、直接取引における「自己又は第三者のために」の意義を名義説で展開している。

設問2に関連して、本件手形の振出しは、Y社にとって利益相反取引にあたらない。なぜなら、本件ではY社代表取締役Bが、X社に振出しているからである。

手形の振出しが利益相反取引にあたるのは、会社が取締役に振出す場合である。例えば、本件でX社代表取締役Aが、Y社に振出す場合には利益相反取引にあたりうる。なぜなら、かかる場合にはY社の代表取締役はBであるから、X社が、X社取締役であるBに振出す場合と同視しうるからである。

答案例2

第1 設問1
1 売買契約の効力について
(1) 重要な財産の譲受け(362条4項1号)
ア 本件売買契約は重要な財産の譲受けに該当し、取締役会の承認がなければ無効ではないか。

(ア) 本件売買契約は重要な財産の譲受けと言えるか。
(イ) 重要な財産の譲受けにあたるかは、譲受財産の価格やその価格の、譲受会社資産に対する割合等を総合的に考慮して判断すべきである。
(ウ) 本件売買契約の代金は1億円である。そして、Y社の直近の売上が1億円であることを考慮すると、Y社によって規模の大きい売買契約と言える。また、本件生地は売れ残れば、Y社の在庫となる。そうなれば管理費用等が発生し、Y社に重大な損害が発生する可能性がある。
(エ) よって、本件売買契約は重要な財産の譲受けといえる。

(ア) しかし、本件では取締役会の承認がない。そこで、本件売買契約は無効となるか。
(イ) 356条の会社財産保護という趣旨と取引の安全の調和を図る必要がある。そこで、民法93条1項但書を類推適用して、取締役会の承認がない場合でも原則取引は有効であると解する。そして、取締役会の承認がないことを取引の相手方が知り、又は知らなかったことに過失があれば無効と解する。
(ウ) 本件ではAがY社の事情を知っていた事情がない。よって、取締役会の承認がないことに善意無過失といえる。
(エ) よって、本件売買契約は無効とならない。
エ 以上より、Y社の取締役会決議がないことで本件売買契約は無効とならない。
(2) 利益相反取引(365条1項、356条1項2号)
ア X社において本件売買契約に係る取締役会の承認(365条1項、356条1項2号)がなく、本件売買契約が無効となるか。
イ X社の「取締役」であるBが、「第三者」であるY社のために、「株式会社」であるX社と本件売買契約という「取引」をする場合、X社の取締役会の承認が必要である(365条1項、356条1項2号)。
ウ しかし、本件ではX社の取締役会の承認はなかった。よって、本件売買契約は無効となる。
エ もっとも、365条の趣旨は会社の利益保護にある。よって、取引の相手方であるY社から本件売買契約の無効を主張できないと解する。
2 解除について
(1) Y社は民法564条及び商法526条に基づく解除ができるか。
(2)
ア X社とY社は会社であるので、商人である(商法11条1項参照)。よって、本件売買は商人間の売買である。
イ Y社は本件生地を受領した際にその一部につき、詳細な検査をしたが、異常を発見できなかった。また、本件色落ちは数回の洗濯を経ないと発見できないものであった。これは「契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合」といえる。
ウ また、本件売買から6か月以内である、平成24年2月20日に解除をしている。そして、本件生地が色落ちすることを発見してから直ちに解除した。
(3) よって、商法526条2項後段の、品質に関して契約不適合物といえ、解除できる。
第2 設問2
1 拒むことができない。
2 約束手形の請求を受けた者は、振出人に対する抗弁をもって、所持人に対抗できない(手形法77条1項1号、17条)。
3
(1) 約束手形の請求を受けたY社と、振出人のX社で契約した、本件売買契約はY社が解除した。よって、Y社は本件売買代金を支払いを拒否できる。
(2) しかし、本件売買契約の有効性は、支払手形の有効性に影響しない(無因証券)。
(3) また、Y社は「所持人」であるZに対し、X社に対する抗弁を主張できない。
4
(1) もっとも、約束手形の所持人が債務者を害すること知って手形を取得したときは債務者は支払いを拒むことができる(手形法77条1項1号、17条但書)。ここで、「害することを知りて」とは、債務者が満期又は権利行使時に前者に対し抗弁を主張して支払いを拒むことが確実であるとを、手形取得時に認識していたことを指すと解する。
(2) 本件では、Y社は本件売買契約の存在は知っていたが、解除権が行使されることを認識していなかった。
(3) よって、手形法17条但書の場合に該当しない。
5 以上より、上記の結論となる。

答案構成

第1 設問1
1 売買契約の効力について
(1) 重要な財産の譲受け(362条4項1号)
重要な財産の譲受けと言えるか。
言えるとして、売買契約が無効となるか。
(2) 利益相反取引(365条1項、356条1項2号)
利益相反取引にあたるか。
あたるとして、売買契約が無効となるか。
2 解除について
(1) Y社は民法564条及び商法526条に基づく解除ができるか。

第2 設問2
手形法17条により拒めない。
もっとも、同条但書にあたるか。

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