答案例1
第1 設問1
1 法17条は景観計画に適合しない場合には必要な措置を命ずることができる旨を規定している。そして、本件計画では外壁の幅は原則50メートル以内とされているところ、Bは外壁の幅70メートルの本件マンションの建築を計画し、法16条の届出をしている。そこで、Bの建築が本件計画に違反することを理由に、法17条に基づく設計の変更命令を義務付ける非申請型義務付訴訟(行訴法3条6項1号)を提起する。
2 また、法17条1項の命令は法16条の届出から30日以内にすることができるところ、Bの届出日から、上記訴訟の判決がなされるまでにかかる期間を経過すると考えられるから、仮の義務付けの申し立てる(行訴法37条の5第1項)。
第2 設問2
1 非申請型義務付訴訟(37条の2)の要件該当の有無を検討する。
(1) 法17条1項の命令は、Aが一方的になすものである。また、Bという特定人を対象に、建築計画の変更という具体的な義務が発生するから、かかる命令は公権力主体の行為うち、その行為によって直接国民の権利義務を形成することが法律上認められたものであるから、「処分」にあたる。そして、かかる命令は裁判所が判断できる程度に特定されているから、「一定の」の要件を充足する。
(2) 本件マンションの建築により本件計画の外壁の幅の上限を超える外壁が水域に面することにあり、周辺住民の景観が損なわれる。ところで、法6条は良好な景観の形成に住民の協力義務を定めているところ、かかる規定は景観が住民の共通の資産である(法2条)ことを前提として、住民が良好な権利を享受できるこという意義も有する。よって、本件マンションの建築により、「重大な損害」が生じるおそれがある。
(3) 他の抗告訴訟ではCの救済は図られないので、「他に適当な方法がない」といえる。
(4) Cに原告適格が認められるか。
ア 「法律上の利益を有する者」とは処分がなされないことで自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害される恐れのある者をいう。そして、処分の根拠たる行政法規が不特定多数人の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消するにとどめず、個々人の個別的利益をしても保護する趣旨であればかかる利益は「法律上保護された利益」にあたる。
イ Cは本件マンションにより景観を害されない利益を有すると考えられる。
ウ 変更命令の根拠となる法17条が含まれる法律全体の解釈の方向を示す法1条は国民生活の向上を目的とし、前述のとおり景観が国民共通の資産である。また、景観が一度破壊されると現状回復が困難であり、金銭賠償で代替できるものはない。そうであれば、法17条は工作物により直接景観を害される者を保護する趣旨であると解される。
エ これを本件についてみると、本件マンション建築予定地の隣のマンションに居住するから、直接景観が害される。
オ よって、Cは「法律上の利益を有する者」にあたり、原告適格が認められる。
2 以上より訴訟要件を充足する。
答案例2
第1 設問1
1 CはA市に対し、本件マンションの設計の変更を命ずる「義務付けの訴え」(行訴法3条6項1号)を提起する。また、併せて、「仮の義務付けの訴え」(行訴法37条の5第1項)を提起する。
2
(1) 本件マンションの外壁は、本件計画違反である。そこで、A市は法17条1項に基づいて本件マンションの建築の変更を命ずべきである。
(2) しかし、A市は変更を命じていない。
(3) よって、行訴法3条6項1号の場合に該当する。
(4) なお、本件ではCはA市に対し、処分を求める申請をしていない。また、処分を求める申請の権限がない。よって、行訴法3条6項2号の場合には該当しない。
3
(1) また、法17条1項の処分には30日間の期間制限がある。しかし、本件特定届出日が7月10日で、CがDに相談したのは同月14日である。
(2) 義務付けの訴えの審理中にこの期間が徒過する可能性が高いので、仮の義務付けを併せて提起すべきである。
第2 設問2
1
(1) Bの本件建築により、外壁による圧迫感が発生し、良好な景観が破壊される。良好な景観は近隣住民が享受している重要な権利と言える。また、臨海部を一度工事すると、それを仮に撤去しても完全に元通りにできない。よって、「重大な損害」が生じる恐れがある。
(2) 本件ではA市の処分がないので、他の訴訟形態はとれない。よって、「他に適当な方法」がない。
(3)
ア Cに原告適格が認められるか。「法律上の利益」を有するかが問題となる。
イ 「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害される恐れのあるものをいう。そして、処分の根拠となる法令が、不特定多数の個人的利益を、専ら一般的公益の中に吸収解消するにとどめず、個々人の利益としても保護する趣旨を有していれば、その利益は法律上保護された利益といえる。
ウ (法令の趣旨及び目的)(行訴法9条2項)
法1条は、良好な景観を保護するため、景観計画を作成するとしている。また、法2条は良好な景観は生活環境の創造に不可欠なもので、国民共通の財産としている。よって、住民の生活環境圏内の良好な景観は保護される趣旨と解される。
エ (利益の内容及び性質)
もっとも、良好な景観の侵害は住民の生命財産を直接侵害するものではない。また、法は、住民に良好な景観の形成に協力する義務を定めている(6条)が、良好な景観を享受するための権利を定めていない。よって、良好な景観の保護が住民個々人の利益とまではいえない。
オ よって、Cに法律上の利益がない。
2 以上より、義務付け訴訟の訴訟要件は具備しない。
3 義務付け訴訟の訴訟要件を具備しないので、仮の義務付けも認められない。
答案構成
第1
1 選択した訴訟形態の指摘
2 義務付け訴訟の要件該当性
3 仮の義務付けの要件該当性
第2
1 義務付け訴訟の訴訟要件
(1)重大な損害
(2)他に適当な方法無し
(3)原告適格
ア 法律上の利益の判断につき、問題提起
イ 判例規範
ウ あてはめ
エ 結論
2 義務付け訴訟不可の結論
3 仮の義務付けも不可の結論と理由
解説
義務付け訴訟
設問1は義務付け訴訟を選択し、条文を参照しながら理由を記載すれば守れる問題である。
条文を参照し、設問の事実関係を拾えば何かしらは書ける。
また、本件では行政の「処分」がないこと及び、届出に対して応答義務がないことを踏まえて、その他の訴訟形態が不適当である旨を論じれば加点になるかもしれない。
もっとも、設問1で高度な答案を作成すれば時間がかかる。そして、その結果全体としてみれば点数が伸び悩む可能性がある。
よって、設問1はそこそこの記載でとどめておくのが無難であろう。
特に本問では設問2で原告適格の検討に相当時間がかかる。
原告適格
原告適格の問題は予備試験・論文試験で頻出分野である。
最判平成4年9月22日規範はすらすら書けるようにしたい。
「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する
もっとも、規範を丸暗記しただけでは論文試験では通用しない。
そもそも、規範を一言一句暗記することは得点を取るのに必須ではない。
解答例では規範を自分なりに書けるように修正して記載している。
(伊藤塾の基礎講義では「判例規範をこのまま丸暗記しましょう。」で片づけられ、どのように規範を使用するのか説明がない。旧司法試験であれば問題文に事実の記載があまりないので、規範丸暗記して吐き出せば点数がつく。しかし、新司法試験や予備試験では事実と規範を結び付けて解答しなければ点数が伸びない。この点、伊藤塾は旧司法試験の予備校として名門であったが、現行の試験制度では新興予備校に劣っている。)
原告適格の検討では、行訴法9条2項の考慮要素で検討する。具体的には「法令の趣旨及び目的」と「考慮されるべき利益の内容」を判断材料とする。
本問では、これを本問中に挙げられている条文から読み解くのが難しい。参考答案もきちんと解答できているかは不明である。
もっとも、試験の時間制約の下、原告適格の論点だけに時間を割けないので、実際は厳密な考察は難しい。
そこで、問題文の条文を適示し、それなりのことを書いていれば(又はきちんとかけていなくても)原告適格の箇所で他の受験生と大きく差がつくことはないであろう。