※平成29年改正に対応済み
答案例
第1 設問1(1)
1 有効である。Bは甲債権を、甲債権の発生時に取得する。
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(1) AB間で譲渡された債権には今後1年の間に有することとなるものという、債権譲渡時に「現に発生してい」ないものが含まれている。このような将来債権の譲渡も可能である(466条の6第1項)。
(2) また、将来債権が債権譲渡された場合、譲受人は発生した将来債権を「当然に取得する」(同条2項)ので、Bは甲債権が発生した時点、すなわちAC間のパネル部品の製造に係る契約時に取得する。
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(1) また、AB間で譲渡された債権は、パネル部品の製造及び販売に係る代金債権という集合債権である。このような債権譲渡は有効か。
(2) 債権者による包括的な担保権の取得を禁ずるため、譲渡人の債権を包括して担保する契約は公序良俗(90条)に反して無効であると解する。もっとも、柔軟な資金調達を可能にするという企業取引の円滑との調和を図るため、集合債権でも、一定の取引内のものや、一定の契約から発生するものを包括的に担保することは許容されると解する。
(3) 本件では、Aのパネル部品の製造及び販売という一定の範囲の取引内の債権を包括的に担保している。また、担保される将来債権の発生時期は1年間に限定されている。企業の会計年度は通常1年であるから、担保期間を1年にすることは企業運営に則していいると言え、債務者を極端に害するとは言えない。
(4) よって、本件債権譲渡は公序良俗に反せず、有効である。
第2 設問1(2)
1 Cは免責的債務引受(472条1項)がされたことを理由に支払いを拒否する。
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(1)
ア 免責的債務引受は「債権者」と「引受人」と契約ですることができる(472条2項前段)。もっとも、「債権者」AはBに債権譲渡しているから、A及び「引受人」D間の免責的債務引受契約は効果が生じないのではないか。
イ AD間の免責的契約時には未だAからCに対する債権譲渡の通知が行われておらず、AB間の債権譲渡をCに対抗できない(467条1項)。その結果、CはAD間の免責的債務引受を主張できる。
ウ よって、AD間の契約は「債権者」と「引受人」との契約と言え、効果が発生する。
(2)
ア もっとも、債権者と引受人で免責的債務引受をする場合は債務者に通知しなければ効力を生じない(472条2項)。そこで、CはFに免責的債務引受を対抗できないのではないか。
イ 472条2項が債務者への通知を必要とした趣旨は、債務者の知らない間に債務が消滅することがないよう債務者に配慮する点にある。そこで、「通知」がなくても、債務者が免責的債務引受を認識すれば有効になると解する。
ウ 本件ではCはFの請求を拒絶する立場にあるから、その手段としてAD間の免責的債務引受を認識していると考えられる。よって、Fに対抗できる。
(3) 以上より、Cは支払いを拒絶できる。
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(1) なお、CはAのCに対する債権がBに譲渡されたことを理由に、Fの請求を拒否することが考えられる。
(2)
ア 債務者に公示機能を営まわせるという467条1項の趣旨に鑑み、差押と債権譲渡の優劣は差押命令の第三債務者への送達と、債務者への債権譲渡通知の到達の先後で決すべきである。
イ 本件では、Fの送達がAの通知よりも先であるから、FがBに優先する。
(3) 以上より、CはBが債権者である旨の主張は認められない。
第3 設問2
1 AのEに対する債権はAB間の債権譲渡時に発生していなかった。そして、AE間の譲渡禁止特約は平成25年3月5日にされ、AによるEへの債権譲渡の通知というBの対抗要件具備は同年5月7日された。
2 よって、譲受人Bが譲渡禁止特約を知っていたとみなされ、債務者EはBの請求を拒むことができる。(466条の6第3項、466条3項)。
解説
設問1(1)は将来債権の譲渡性についての論述であるが、平成29年の民法改正により解釈論の展開がなくなった。すなわち、466条の6の新設により将来債権の譲渡性が明文で認められた。
設問1(2)につき、問題文中に「免責的債務引受をCに通知した」という事実が挙げられていない。平成29年民法改正により、免責債務引受を債権者と引受人との契約で行う場合には債務者への通知が効力要件となった(472条2項)。平成29年民法改正後の免責的債務引受の問題ではこの「通知」の事実が問題文中に表現されるだろう。
設問2につき、平成29年民法改正により解釈論の展開がなくなった。すなわち、将来債権の債権譲渡につき、譲渡禁止特約を譲受人に対抗できるかという問題については466条の6第3項で規定された。よって、立法政策で解決されたので、今後この論点が論文でメインテーマで問われることはないだろう。