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刑事訴訟法

平成25年予備試験 刑事訴訟法論文

答案例

第1 設問1
1 裁判所は訴因の特定(256条3項)に不可欠な事項に不備があれば検察官に対し釈明義務(規則208条1項)を負うと解する。そして、本件訴因には実行行為者が誰かが明示されていないので、訴因の特定がなされていないのではないか。訴因の特定の基準が問題となる。
(1) 当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)の下、裁判所の審判対象は検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因であると解する。そして、訴因には裁判所の審判対象を画定する識別機能及び被告人の防御の範囲を明確にする告知機能があるところ、訴因が他の犯罪事実と識別できれば被告人がいかなる防御をすべきか明確になり、告知機能が尽くされたといえるので、訴因の特定においては識別機能が第一次的機能であると解する。そうであれば、被告人の行為が特定の構成要件に該当するか否かを判断できる程度に具体的事実を明らかにし、他の犯罪時事と識別できれば、訴因が特定されたといえる。
(2) これを本件についてみると、共謀共同正犯においては、実行行為者が共謀者のうちの誰であっても構成要件該当性に影響はない。また、実行行為者の実行行為の日時・場所・方法が明示されていれば他の犯罪事実と識別できる。
(3) よって、本件訴因は特定されている。
2 以上より、裁判長が釈明を求める義務はない。
第2 設問2
1 本件認定は実行行為者の択一的な認定であるので、「罪となるべき事実」(335条1項)の特定として不十分ではないか。
(1) 同一構成要件内の択一的認定の場合、「罪となるべき事実」の特定において重要な事実を択一的に認定することは「疑わしきは被告人の利益に」の原則(憲法31条、刑訴法336条後段)に反し許されない。また、「罪となるべき事実」は構成要件に該当する具体的事実を指すので、その特定は当該構成要件に該当するか否かを判断するに足りる程度になされる必要がある。
(2) これを本件についてみると、前述の通り実行行為者が誰であるかは構成要件の該当性に影響はないので、本件認定は同一構成要件内の択一的認定であり、その対象は重要な事実ではない。そして、甲又は乙あるいはその両名が実行行為をし、他の関与者がいないと確定すれば傷害罪の構成要件に該当するか否かの判断するに足りる程度に特定されていると解する。
(3) よって、本件認定は「罪となるべき事実」の特定として十分である。
2 そうだとしても、本件認定は争点顕在化の手続きを経てなされておらず、争点逸脱認定にあたり許されない(379条)のではないか。なお、検察官の釈明事項は訴因の内容とならないので、訴因変更は不要である。
(1) 訴因は被告人の防御権の外枠を画するものであるところ、争点はさらにその中で被告人の防御権保障を実質化するものといえる。そうであれば争点となっていない事実を任意的訴因変更等の争点顕在化の手続きを経ずに認定することは被告人に不意打ちを与えるものであるから、適切な訴訟指揮(294条)を欠き違法であると解する。
(2) これを本件についてみると、検察官の釈明では実行行為者が乙のみとされていたので、甲は乙との共謀がないことに対しての防御に集中する。すなわち、甲は自己が実行者であることを否定する防御を念頭に置かない。よって、本件認定は甲にとって不意打ちとなる。そして、甲は自己が実行行為者であると認定されれば犯情が重くなる可能性がある。それにもかかわらず、本件では争点顕在化手続きがなされた事実はない。
(3) よって、本件認定は許されない。

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