答案例1
第1 設問1
1 本条例はCの商店会に加入しない自由(以下、「自由1」という。)を侵害し、違憲である。
(1) まず、「結社」(21条1項)とは特定の目的を有して特定多数人が継続的に集合することを指すから、本件商店会への加入は「結社」にあたる。そして、同項は結社しない自由も保障しているので、自由1は同項で保障される。
(2) 次に、本件商店会に加入しなければ営業停止を命じられるから、上記自由1に対する制約がある。
(3)
ア そして、上記自由は自己の思想を他人に干渉されず形成する自己実現の価値を有するので重要な権利である。また、法人も権利の性質上可能な限り人権保障が及ぶから、法人にも上記自由が保障される。
イ また、本件商店会は事実上強制加入団体であるから、規制態様は強度である。そこで、厳格に判断する。
(4) 後述の自由2の同様に目的との関係で必要性が低いので、上記制約は正当化されない。
(5) よって、本件条例は21条1項に反し違憲である。
2 本件条例はCの商店会に加入しないで営業する自由(以下、「自由2」という。)を侵害し違憲である。
(1) まず、自己の選択した職業を遂行する自由、すなわち営業の自由を22条1項で保障しなければ、職業選択の自由が無意味になるので、営業の自由も同項で保障される。よって、自由2は同項で保障される。
(2) 次に、自由1と同様上記自由に対する制約がある。
(3)
ア そして、上記自由は自己の個性を全うすべき場所を提供する点で自己の人格的生存に密接に関連するから重要な権利である。
イ また、自由1と同様規制態様は強度である。
ウ さらに、本件条例には地域の防犯強化という消極目的があるので、立法の裁量は広くない。そこで、厳格に判断する。
(4)
ア これを本件についてみると、集客は各店舗の自助努力で行うべきである。また、防犯は公的機関が担うものである。よって、目的のとの関係で適合しない。
イ また、大型の店舗は自ら集客できる。また、防犯においては享受する利益は店舗の規模に関係ない。それにもかかわらず、会費徴収される本件商店会への加入を義務付ける本件条例は過度である。
(5) 以上より、本件条例は22条1項に反し違憲である。
第2 設問後段 反論
1 21条1項は個人が任意的に団体を構成する自由を保障している。しかし、条例の罰則を伴う団体を構成する自由を保障していないので、自由1は同項で保障されない。
2
(1) 自由2は政治的意思決定に関与する自己統治の価値との関連性が低い。よって、権利の重要性は低下する。また、本件条例は営業自体に対する規制ではないので、規制態様は強度ではない。そこで、緩やかに判断する。
(2) 集客につき、同時期に商店街が一斉にイベントやセールを行うことで、集客が増加する。また、防犯に対する政策は地域住民の協力があって実効的なものとなる。よって、目的と適合する。また、大型店舗は多くの人が行き交うので、防犯における恩恵を受けているから、目的との関係で過度でない。
第3 設問後段 私見
1
(1) 営業活動は国民の利益保護の観点から一定の制約を受ける。そして、そのような観点から、立法政策により営業主体に一定の団体に所属させることは憲法上許容される。そうであれば、自由1は21条1項で保障されていない。
(2) よって、自由1は同項に反しない。
2
(1) まず、自由2が保障され、制約を受けることは原告の主張するとおりである。
(2) 次に、原告の主張する通り、自由2は自己実現の価値を有するが、被告の主張する通り自己統治の価値との関連性は低い。また、自由1は社会的相互関連性が高い権利である。そして、本件商店会は事実上強制加入団体であるが、本件条例は営業自体に対して規制をしていないので、規制態様は強度とはいえない。さらに、立法目的は積極目的だけでないので、立法の裁量を尊重する必要はない。そこで、中間審査基準で判断する。具体的には目的が重要で、手段が効果的で過度でなければ正当化される。
(3)
ア 本条例の目的は地域住民の生活の利便性の向上及び治安向上に資するので重要である。
イ 商店街全体でイベントやセールを行えれば地域住民のみならず、生活エリア外の住民も集客でき、商業活動が活性化する。そして、売り上げが増加すれば会費が増加するので、それを防犯に費やすことができる。よって、目的と適合する。
ウ しかし、大型店は商店街規模でイベントやセールをしなくても独自に集客できる。また、防犯は本来公的機関が行うものであるにもかかわらず、本件条例により大型店は享受する利益に比して多額の会費を納入することを強制される。よって、過度である。
(4) 以上より、本件処分は22条1項に反し、違憲である。
解説
本問では、問題文中に本条例の目的が明示されている。これは、本条例の目的を論述することが求められておらず、そのかわりに、目的との適合性及び必要性に重点を置いて論述することが求められていたと推認される。
答案例2
第1 設問1
1 本件条例は、A市内で店舗を有する者の商店会に加入しない自由を制約し、違憲である。
2 21条1項は結社の自由を保障している。結社しない自由は結社の自由と表裏をなすから、結社しない自由も同項で保障される。本件条例はA市内の店舗を有する者に対し、商店会という人的組織に強制的に加入させるものであり、結社しない自由を制約する。
3
(1) 結社しないことで、自己の人格形成を他人から強制されずにできる。また、他人から政治的思想を強制されないで、政治参加できる。よって、結社しない自由は自己実現・自己統治の価値がある。したがって、重要な権利である。
(2) 本件条例により、A市内で店舗を有すれば商店会への加入を義務付けられる。よって規制態様は強い。
(3) そこで、厳格審査基準で審査すべきである。すなわち、目的が必要最小限度で、手段が必要不可欠の場合に限り合憲とする。
4
(1) 本件条例の目的は商業活動の活性化である。これは商業の自由競争の結果に実現できるものである。商業活動のプロでない行政が活性化の術は持っていない。また、活性化を促進するのであれば、行政の関与は消極的であるべきである。
(2) また、もう一つの目的は地域の防犯体制の強化である。これは重要であると認める。
(3) 以上より、目的が必要不可欠とまでは言えない。
5
(1) 前述のように商業の活性化を図るのであれば、自由競争に任せればよいから、手段が必要最小限度とは言えない。
(2) 次に防犯体制の強化という目的との関係においても、手段が必要最小限度とは言えない。本件条例は加入事業者の売り場面積と売上に一定の率を乗じて得た額を負担額としている(以下、「定率方式」という。)。負担金使い道は街路灯やネオンサインへの出費が考えられるが、この恩恵は店舗の大きさや規模で比例的に受けている者とは言えない。従来は定額の支払いであったことを考慮すると大型店に不利な条例である。そこで、店舗の頭数に応じた負担額を徴収すべきである(以下、「定額方式」という。)。
6 以上より本件条例は違憲である。
第2 設問2
1 被告反論
(1) 本件条例は営業の自由に対する制約である。
(2) 商店街の経営者は小規模な経営であり、大型店舗経営者と比較すれば経済的弱者といえる。これの保護と調和のとれた経済発展のための制約であるから、専門技術的な判断が必要である。そこで、条例制定においても裁量が認められる。
(3) また、営業停止処分につき、本件条例は「することができる」としており、必ずしも営業停止処分が下されるとは限らない。よって規制態様は強くない。
(4) 自由競争にのみに任せれば調和のとれた経済発展ができない。よって、目的は重要である。
(5) 手段につき、売上高が減少すれば会費が減少するから、手段として過度な制約を課す者とは言えない。
2 私見
(1) 被告は営業の自由の制約であるから審査基準は緩めるべきと反論する。しかし、職業を通じて自己の人格を発展させる自己実現の価値を有しているので、営業の自由の制約という理由で審査基準を緩めるべきでない。そして、Bは法人であるが、この理念は法人の組織の個人にも妥当する。
(2) 本件条例で最長7日間の営業停止が課される。規模の大きな店舗ほど必要なキャッシュの額が大きい。よって、規模が大きさに比例して、営業停止期間の影響が大きいと言える。よって、大型店にとって、本件条例の規制態様は強い。
(3) 本件条例によれば売上高だけでなく、店舗の大きさも会費額に影響する。よって大型店に過度な負担になる。
(4) 他方で、商店会の加入による恩恵は店舗の大きさや売上高に比例したものとはいえない。商店会の恩恵は街路灯やネオンサインは店舗数に応じて均等に負担すべきで者であるからである。よって、本件条例は定額方式で会費を徴収するというより制限的でない方法がある。
(5) 以上より、本件条例は違憲である。
答案構成
第1 原告主張
第2
1 被告反論
2 私見
解説
制約される権利
本問では営業の自由(22条)が制約されていることは明らかである。
しかし、原告はできるだけ審査基準を厳格にもっていきたい。そこで原告は、営業の自由の制約ではなく、結社の自由(21条1項)の制約と主張した。
もっとも、原告で営業の自由も自己統治の価値を有する側面があり、精神的自由の要素も含んでいる。
よって、原告で営業の自由の制約として論じる筋も十分に考えられる。
抽象論
司法試験委員が嫌うのは抽象論で片づける答案である。
本問でいえば、原告で結社の自由の制約だから、厳格審査基準、被告で営業の自由の制約だから、緩やかな審査基準、私見で両方の性質を兼ね備えているから中間審査基準というような答案は評価されないであろう。
そもそも審査基準自体曖昧なものである。よって、答案で審査基準について多く言及することはあまり意味がない。
大切なのは審査基準でなく、具体的事実の適示とその評価を記述し、どちらを優先すべきかという具体的議論である。