答案例1
第1 設問1
1 本件指定は「処分」(行訴法3条2項)といえるか。その意義が問題となる。
(1) 「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められたものをいう。
(2)
ア これを本件についてみると、本件指定はA県知事が一方的に行ったものであるから、公権力性がある。
イ 本件指定がなされると対象区域で工作物の新築等をする場合は河川管理者の許可を要し(河川法26条1項)、それに違反すれば原状回復命令等を受ける(同75条1項)、また、刑罰が科される(同102条)。そのため、本件指定により指定区域内の土地利用者には新たな制約が課されることになる。
ウ しかし、本件指定には名宛人がいない。また、本件指定がなされても、工作物を新築等しない限り、本件指定は指定区域の利用に影響を及ぼさない。さらに、工作物の新築等をしようとする場合に、河川法26条申請をし、不許可処分がなされればその取消訴訟を提起することで権利救済が図られる。よって、現時点で本件指定を取り消す必要性は低い。
エ そして、本件指定の効果はあたかも指定区域内を対象とする新たな法令が制定された場合と同様の、指定区域内の土地利用者という不特定多数人に対する一般的抽象的な効果に過ぎない。
2 以上より、本件指定は「処分」にあたらず、処分性がない。
第2 設問2
1 本件指定に瑕疵がなければ、本件命令は河川法75条1項を根拠とする適法な行政処分であるとも思える。もっとも、本件事情に鑑み、本件命令は信義則(民法1条2項)に反するから、裁量の逸脱濫用(行訴法30条)にあたり違法ではないか。
(1) 行政活動は法律に違反してはならない(法律優位の原則)ところ、本件命令はCの河川法違反の行為を是正を求めるものであり、原則適法である。また、河川法75条は「できる」と規定し、また河川管理は専門技術的判断が必要である。そのため、河川管理者に効果裁量がある。そして、法の一般原則たる信義則の適用はありうるとしても、法律優位の原則との関係でその適用は慎重でなければならない。すなわち、法律に基づく適正な行政活動という要請を犠牲にしてもなお被処分者の信頼を保護すべき特別の事情があれば信義則を適用されると解する。
(2) これを本件についてみると、2000年から2014年7月までCはA県知事から河川法の許可を受けていないことにつき指摘を受けていなかった。河川法に重い処罰規定があるから、それに違反した場合は行政は速やかに行政指導等により是正を求めると考えられるところ、14年間もの間河川管理者からなんらの指摘がなかったのであれば、河川管理者による河川区域外であるとの黙示的な見解の表明が認められるとも思える。しかし、河川区域は広域にわたると考えられるから、行政が本件キャンプ場や本件コテージの存在自体を認識していなかった可能性が考えられる。そうであれば長年指摘がなかった事実をもって上記見解があったと認識することは早計である。また、本件指導を契機としてCはD及びEに照会をかけ、そのうえでEから本件回答を受けている。しかし、Eは「測量しないと正確なことは言えない」と留保している。本件キャンプ場が河川区域外であるかの判断は、本件図面によって行われているところ、本件図面の縮尺が2500分の1であることに鑑みれば測量をしなければ正確な位置関係が不明であることは明らかであり、Eの留保が不合理なものとはいえない。そして、かかる事情に鑑みればEの発言は個人的な見解含んでいるといえ、行政の公式見解と同視することはできない。また、Cは自ら測量して河川区域内か否かの判断を自らすることも可能であった。
(3) これらの事情を踏まえれば上記特別の事情は認められない。
2 以上より信義則に反せず、違法事由は認められない。
答案例2
第1 設問1
1 「処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体の行為の内、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められたものをいう。
2
(1) 本件指定は、A県知事が優越的な地位に基づいて一方的にしたものであるから、公権力性がある。
(2)
ア まず、本件指定が法的効果性を有するか。
イ 本件指定がされると、区域内で工作物を新築等するには許可が必要となる(河川法26条)。そして、許可を受けずに建築等した場合は原状回復を命じられることがある(河川法75条1項)。さらに、河川法26条に違反した場合は罰則がある(河川法102条)。
ウ よって、本件指定により工作物の新築等が制限されるので、法効果性がある。
(3)
ア 次に、かかる法的効果が具体的法的効果と言えるか。
イ 本件指定がされると対象地域の土地所有者に前述の法的効果発生させるので、法的地位に直接影響を及ぼすと言える。
ウ よって、具体的法的効果性がある。
(4)
ア さらに、本件指定の時点で争わせるべきか。
(5) 条文は「命ずることができる」としているので、原状回復が必ず命じられるわけでない。しかし、一度建築した工作物を解体する可能性があれば事実上工作物の建築は困難となる。よって、本件指定がされた土地では事実上工作物の新築等ができない。
(6) よって、本件指定の時点で争わせるべきと言える。
3 以上より、本件指定は「処分」にあたる。
第2 設問2
1 本件指定は信義則(民法1条2項)に反するから、違法である。
2 本件命令には実体法上も手続上も違法事由がないで、信義則違反を主張すべきである。もっとも、信義則を適用するのは、土地所有者の公平・平等の要請を犠牲にしてもなお、土地の所有者の信頼を保護する必要がある特別の事情がある場合に限られる。そこで、処分対象の行為につき、公的見解が示され(①)、その見解に基づき行為をし(②)、見解に反する処分があり(③)、これにより損害を受け(④)、行為者に帰責性がない(⑤)場合に信義則を適用すべきである。
3
(1) 本件ではD、「正確なことは言えないが」と付け加えて確定的な回答をしていない。しかし、A県が本件コテージの建築から2014年7月までの間に河川区域について指摘を受けていないことと相まって、Dの回答が公式見解であると評価できる。(①充足)。
(2) CはDの回答を信じて本件コテージを改築した(②充足)。
(3) A県は上見解に反し、河川区域内と認定した上で、本件命令をした(③充足)。
(4) 本件コテージを除却すれば多額の費用が掛かる。また、本件コテージは本件命令の1年前に大規模な改修をしているので、改修費用を回収できない(④充足)。
(5) Cは本件コテージを建築する際、本件図面により河川区域外である判断した。また、本件指導の際にDに照会している。そして、前述の通り河川区域に関する指摘がないことと相まって、Cは土地所有者として必要な注意はしたと言える(⑤充足)。
4 以上より、本件指定は信義則に反し、違法である。