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刑事訴訟法

平成27年予備試験 刑事訴訟法論文

答案例1

第1 設問1
1 ①から③の撮影(以下、「本件撮影」という。)は無令状で行われているので、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)の見地から、違法となり得る。そこで、本件撮影は「強制の処分」にあたるか。「強制の処分」の意義が問題となる。
(1) 科学捜査が発達した現代ではそれによって容易に捜査対象者への人権侵害が起こりうる。そこで、「強制の処分」か否かは捜査対象者の被侵害利益の態様・程度を考慮して判断すべきである。もっとも、あらゆる捜査を「強制の処分」と解することは真実発見(1条)の見地から妥当でない。そこで、「強制の処分」とは相手方の黙示又は明示の意思に反し、重要な権利・利益の制約を伴う処分をいうと解する。
(2) これを本件についてみると、甲又は乙が本件撮影に同意した事実はないので、甲又は乙の意思に反する。また、本件撮影は甲及び乙の居宅の中で行われているので、プライバシー権(憲法13条後段参照)という重要な人権の制約を伴うものである。
(3) よって、本件撮影は「強制の処分」にあたる。
2 もっとも、本件撮影は、本件捜索差押許可状に基づく捜索・差押えに付随して司法警察員により行われている。そこで、本件撮影は「必要な処分」(222条1項本文、111条1項)にあたり、適法とならないか。
(1) 捜査比例の原則(197条1項本文)の見地から、「必要な処分」とは、捜索・差押えの執行に必要かつ社会的に相当な限度の行為であると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア ①は、令状を被処分者である乙に呈示した(222条1項本文、110条)ことを証明するためになされるので、適正手続きを担保するために必要性がある行為である。また、①により乙が被るプライバシー侵害は、捜索・差押えの執行によって不可避的に伴うものであるから、①は相当な行為である。
イ ②は、本件許可状の対象物の保管状況を写真で保存するためになされているところ、かかる対象物の写真撮影はその証拠価値を維持するために必要である。
これに対し、運転免許証等は本件許可状の対象物ではない。しかし、②によって甲が、甲方でサバイバルナイフを管理しているという事実を推認できる。そうであれば運転免許証等とサバイバルナイフを一緒に撮影する行為は必要である。
また、サバイバルナイフを撮影することは①と同様に相当性がある。そして、運転免許証等は他人に呈示することを前提として作成されているので、これの撮影によって甲が被るプライバシー侵害の程度は高くない。よって、運転免許証等の撮影にも相当性がある。
ウ ③は本件許可状に係る被疑事実と無関係な覚せい剤所持の被疑事実を立件するための撮影であるから、本件許可状による捜索差押えの執行に関して必要性がない。そして、③によるプライバシー侵害は本件捜索差押えの執行によって伴うものとはいえないので、相当性もない。
(3) よって、①及び②は「必要な処分」にあたるが、③はこれにあたらない。
3 以上より、①及び②の撮影は適法だが、③の撮影は適法でない。
第2 設問2
1 公判期日外の供述を内容とする本件書面は伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。伝聞証拠の意義が問題となる。
(1) 伝聞法則(320条1項)の趣旨は、伝聞証拠には反対尋問による吟味及び裁判官による供述状況・態度の直接視認・観察がなしえない点にある。すなわち、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経て証拠化されるところ、各過程に誤りが介在するので、供述内容の真実性につき反対尋問等による吟味が必要となる。しかるに伝聞証拠はかかる吟味がなされないので、証拠能力が否定される。そこで、伝聞証拠とは公判期日外の供述を内容とする証拠で、その内容の真実性を立証するために利用・提出するものであると解する。
(2) これを本件についてみると、
ア 本件書面はRの立証事実との関係で内容の真実性を立証するために提出されるものである。
イ しかし、本件書面の②の写真部分は撮影・保存・印刷の過程を経て証拠化されるところ、いずれの過程においても誤りが介在するおそれがない。よって、かかる部分は非供述証拠である。
(3) よって、本件書面のPの説明文は伝聞証拠にあたり、被告人の同意(326条1項)がない限り原則証拠能力がない。
2 もっとも、321条3項の伝聞例外により、証拠能力が認められないか。
(1) Pは強制的に五官の作用により説明文記載の状況を感知しているので、本件書面は検証調書にあたる。
(2) よって、公判期日における証人尋問でPが名義及び内容の真正作成供述をすれば本件書面に証拠能力が認められる。

答案例2

第1 設問1
1
(1) 本件撮影は強制処分(197条1項但書)にあたるか。
(2) 強制処分とは、相手方の明示的・黙示的意思に反し、個人の重要な権利・利益を制約する行為をさす。
(3)
ア 本件における撮影行為につき、警察官に居宅内や容ぼうを撮影されることは、通常同意しないので、甲及び乙の意思に反する。
イ また、乙の容ぼうや居宅内の撮影は、プライバシー権(憲法13条後段)や住居権(憲法35条1項)という重要な権利への制約である。
(4) 以上より強制処分にあたる。
2  
(1)
ア 強制処分にあたる場合、法の根拠が必要である(197条1項但書)。
イ 本件撮影は、五感の作用で対象物を存在や形状を知覚する検証(128条)にあたるので、法の根拠がある。
(2)
ア そして、強制処分を執行するには令状が必要である(憲法35条)。
イ しかし、本件では検証令状はがない。
(3) よって、本件撮影は違法とも思える。
3
(1) しかし、司法警察職員は令状により捜索差押をする場合、必要な処分ができる(222条1項、111条1項、218条1項)。
(2) これは、捜索の実効性を確保するための規定である。もっとも、対象者への人権侵害を考慮する必要がある。そこで、必要な処分は必要かつ相当な限度において可能であると解する。
4  
(1) ①の撮影
ア 捜索差押許可状は処分を受ける者に示さなければならない(222条1項、110条)。
イ 本件では甲の同居人である乙に本件許可状を示した。そこで、この手続きが適法に行われたことを証明するために①の撮影が必要である。
ウ また、乙が本件許可状を見ている姿のみを撮影しているので、相当な限度といえる。
エ よって、①の撮影は必要な処分にあたる。
(2) ②の撮影
ア ②の撮影は、本件被疑事実の重要な証拠と思われるものに対する撮影であった。凶器の保管場所は犯人性の特定に重要な事項である。
イ 本件では甲の身分証と凶器が一緒に保管されていたので、凶器が甲によって保管されていたことを示す。そこで、この状況を撮影する必要性があった。
ウ また、身分証は他人に提示することが想定されるものであるから、撮影によるプライバシー侵害は低い。よって、相当な限度といえる。
エ よって、②の撮影は必要な処分にあたる。
(3) ③の撮影
ア 「必要な処分」ができる趣旨は、令状記載の被疑事実の捜索の実効性確保にある。よって、被疑事実と関連のない行為は「必要な処分」にあたらない。
イ ③は覚せい剤の使用をうかがわせる状況の撮影である。よって、③の撮影は本件許可状の被疑事実と関連性のないものである。
ウ 以上より③の撮影は必要な処分にあたらない。
5 以上より①②は適法で、③は不適法である。
第2 設問2
1 P作成の書面は公判廷外の供述書であるから、伝聞証拠にあたり証拠能力が否定されないか。
2 伝聞証拠が否定されるのは、供述証拠が知覚・記憶・叙述の過程で誤りが混入する恐れがあるので、反対尋問で供述内容の真実性を確かめる必要があるからである。そこで、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる場合に伝聞証拠となると解する。
3  
(1) ところで、本件書面では、Vの血がついたナイフが本件被疑事実の凶器であると推認される。
(2) また、このナイフが甲宅の引き出しに甲の運転免許証及び健康保険証と一緒に保管されていた。これにより、ナイフの管理者が甲であることが推認される。
(3) 以上より、甲の犯人性が推認される。
(4) したがって、本件書面の立証趣旨は甲の犯人性であると考えられる。
(5) また、この立証趣旨が要証事実となる。
4  
(1) 本件ではPの供述の通りの状況が甲宅で実際に存在したことが推認過程に必要である。よって、Pの供述内容は要証事実との関係でその内容の真実性が問題となる。
(2) したがって、伝聞証拠にあたる。
5
(1) そこで、321条3項により証拠能力が認められないか。
(2) 同項の趣旨は五感の作用で対象物の形状・性質を感知する検証は専門技術的な作業であるから、恣意が入る恐れが小さいこと及び口頭より書面の説明の方が正確でわかりやすいことにある。
(3) そして、本件書面にもこの趣旨が妥当する。
(4) よって、同項が適用される。
6 以上より、本件書面に証拠能力が認められる。

答案構成

第1 設問1
1
 本件撮影は強制処分(197条1項但書)にあたるか。

2  
強制処分の場合の処理(法の根拠及び令状)
3
必要な処分で可能か。

必要な処分で許容される基準。
4  
(1) ①の撮影

(2) ②の撮影

(3) ③の撮影

第2 設問2
1 問題提起。
2 伝聞証拠の趣旨、規範。
3立証趣旨における犯人性の推認過程
4伝聞該当性の結論
5刑訴法321条3項による証拠能力。
6 結論

解説

写真撮影の法的性質

捜査においてがまず、行為の強制処分該当性を検討する。

本問でも写真撮影が強制処分にあたるかを検討する。

写真撮影が強制処分に該当するならば、法の根拠が必要である。

写真撮影が検証であると認定すれば、法の根拠があることになる。

次に令状の有無を検討する。本問では検証令状がないので、違法な捜査とも思える。

しかし、本当答案では令状の執行における「必要な処分」(刑訴法222条1項、111条1項、218条1項)に該当すると解答した。

この点、写真撮影は令状の執行に付随するものであるという認定が正しいようだ(予備校解答例記載)。

もっとも、「必要な処分」か「付随するもの」いずれをとったとしても、それらをする必要性があり、・相当な限度でのみ許されるという基準は同じである。

仮に「必要な処分」として解答しても、具体的事実に即して必要性・相当性を検討すれば点数は入ると思われる。

もっとも、写真撮影③は必要性・相当性というより、被疑事実との関連性なしという理由で違法となる。

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