答案例
第1 設問1
1 本件解雇は労基法19条1項に反し無効ではないか。「業務上」の「疾病」の意義、すなわち、両者の因果関係の判断基準が問題となる。
(1) 同条の趣旨は業務上疾病した労働者の生活保障にある。そうであれば、業務と疾病の因果関係の有無は自然科学的証明ではなく、経験則に照らし合理的に判断すべきである。そこで、「疾病」とは業務と相当因果関係があるものを指す。
(2) これを本件についてみると、Xは相当なプレッシャーのかかる本件プロジェクトのリーダーとして時間外労働をしていた。そして、本件プロジェクトが開始した同時期に頭痛・めまい等の症状があらわれている。さらに、Xには精神疾患の既往歴はなく、私生活上のトラブルはなかった。また、本件プロジェクトの要員が削減され、リーダーたるXの負担が増した時期に、別の業務を打診され、上司Bから度々厳しい叱責を受けていた。かかる事情の下ではXの一連の体調不良は業務に起因しているといえる。よって、相当因果関係が認められる。
(3) また、本件解雇時にはXはいまだ「休業する期間」にあった。
(4) 以上より、労基法19条1項に該当する。そのため、本件解雇は同項の解雇制限に抵触し、無効である。
2 本件解雇は労契法16条に反し無効ではないか。なお、本件解雇は周知された合理的な就業規則に基づいて行われているので、Y社に解雇権は発生している。そのため、解雇権の濫用の有無が問題となる。
(1) 本件解雇に「合理的な理由」があるか。
ア Xは平成20年にY社に入社後、本件プロジェクトを開始するまで精神疾患なく業務を行っていた。また、XはY社に本件医院の診断書を提出しているから、Y社はXの疾病を認めるべきである。そうであればXを本件プロジェクトリーダーから外し、従前と同等レベルの業務に従事させればXが労働できる可能性がある。よって、本件疾病はXが労働契約を継続することが期待できないほどのものとはいえない。
イ よって、「合理的な理由」がない。
(2) 「社会通念上相当」といえるか。
ア Xが体調不良を理由に別の製品の開発業務の担当から外すようBに相談したところ、認められなかった。Xが本件プロジェクトによって心身共に披露していたことを認識しつつもこのような態度をとったBは労契法5条の趣旨に反する。そして、かかる対応をとりながら、解雇を通告することはXの労働する権利を不当に侵害するものである。また、Y社には休職制度があるので、それによりXの体調回復をはかる方法がある。
イ よって、「社会通念上相当」とはいえない。
(3) 以上より、本件解雇は労契法16条に反し無効である。
第2 設問2
1 Xは欠勤を続けていたので、「勤務に耐え得ない場合」(本件就業規則24条1項)といえ、Y社の休職命令は有効である。
2 そうだとしても、Xは「就業が可能」(同25条1項)であり、本件退職扱いは無効ではないか。Xの労務提供の有無が問題となる。
(1) 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合において、現に就業中の業務に従事できないとしても、当該労働者が他の業務に従事でき、それが実現可能であり、当該労働者がそれを希望していれば債務の本旨に従った履行の提供がされたといえる。
(2) これを本件についてみると、Xは配置換えを希望した。また、Xは職種を限定せずに労働契約を締結し、A工場に配置される前には他部署で働いていた。さらに、本件診断書には通常の勤務が可能である旨記載されてあるので、Xの主張を虚偽であると認める事情はない。よって、Y社はXの他部署への転換が可能であったといえる。
(3) よって、Xは労務の提供をしており、「就業が可能」である。
3 以上よりXは復職を命じられるべきであり、Xの請求は認められる。