スポンサーリンク

労働法

平成28年司法試験 労働法論文第2問

答案例

第1 設問1
1 本件団体交渉拒否が労組法7条2号違反であることを理由に労働委員会に団交応諾命令を求め、裁判所に対し、団体交渉請求権を保全するための団交応諾仮処分命令の申請、団体交渉を求め得る法的地位の確認の訴え、不法行為に基づく損害賠償請求の訴えの提起する。また、本件声明文が支配介入(同条3号)にあたることを理由に労働委員会に対しポストノーティスの求め、裁判所に対し不法行為に基づく損害賠償の訴えを提起する。
2 本件団体交渉拒否は労組法7条2号違反であるか。
(1) 同号は義務的団交事項を対象とするものである。そこで、本件交渉事項は義務的団交事項にあたるか。
ア 義務的団交事項とは労働組合の組合員たる労働者の労働条件その他の待遇又は団体的労使関係の運営に関係する事項であって使用者に解決可能なものを指す。
イ これを本件についてみると、本件交渉事項は新規採用者の基本給に関するものであるから、既存の労働組合員に影響はないと思える。しかし、従業員の基本給は新規採用時の基本給をベースに決定される。そして、Y社の従業員の約3分の2が1年以内にX組合に加入する実態があった。そのため、新規採用者が労働組合に加入後、本件基本給引き下げは組合員の将来の賃金に影響をもたらす。また、既存の組合員と新規採用者の組合員との間に賃金格差が生じ、将来的に組合員の待遇が異なる事態が生じる。そして、本件基本給引き下げは使用者に解決可能である。
ウ よって、本件交渉事項は義務的団交事項にあたる。
(2) それにも関わらず、Y社は団交拒否したので、強行法規たる労組法7条2号違反である。よって、労働委員会に対する上記請求及び裁判所に対する損害賠償請求の訴えは認められる。では、仮処分命令の申請及び法的地位の確認の訴えは認められるか。
ア まず、団交拒否を禁止する労組法は公法上の義務を規定しているに過ぎず、団交請求権という私法上の権利を規定している実定法は存在しない。また、仮にかかる私法上の権利を認めても、給付内容が不明確であり、強制執行の実効性に疑問が残る。よって、団交請求権が認められないので、それを保全するための仮処分命令の申請も認められない。
イ 次に、労組法の諸規定(1条、6条、14条、16条)より、義務的団交事項につき団体交渉を求め得る法的地位が私法上設定されているといえる。よって、法的地位の確認の訴えは認められる。
(3) そして、Y社に「正当な理由」(7条2号)はないので、本件団体交渉拒否は同条2号違反であり、上記救済の一部は認められる。
3 本件声明文は支配介入にあたるか。
(1) 使用者にも表現の自由(憲法21条)が保障されるが、無制限ではなく憲法28条の保証する団結権との兼ね合いから一定の制限を受ける。そこで、言論が組合員に対し、萎縮的効果を与え、組合の組織・運営に支障きたすものは支配加入にあたり許されないと解する。
(2) これを本件についてみると、Y社の全事業所に一斉に掲示された本件声明文にはY社の経営状況を理由に組合員に協力を求める部分はある。しかし、X組合の幹部を名指しし、幹部の主張を「強弁」と表現し、「重大な決意をせざるを得ません」と述べている。かかる文言をみれば組合員が今後同様の行為を行えば名指しされて、重大な処分を受ける不安を抱く。そうであれば組合活動に消極的にならざるを得ない。
(3) よって、本件声明文は支配介入にあたりうる。
(4) また、使用者保護のため、支配加入が認められるには支配介入の意思が必要であると解されるところ、上記の態様からY社には反組合的意思があるので、支配介入の意思がある。
(5) 以上より、本件声明文は支配介入にあたり、上記救済は認められる。
第2 設問2
1 Zらは平成28年3月15日に労働をしていないので、原則賃金を請求できない(民法624条1項)。もっとも、労働債務が履行できなかったのは、債権者たるY社の帰責事由に基づくものであるから、危険負担(民法536条2項)に基づき賃金を請求できないか。ストにおける使用者の帰責事由の有無が問題となる。
(1) ストは労働者に保障された争議権の行使であり、使用者に制御できるものではなく、また団体交渉でどの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉決裂の結果ストに突入し、労務不能となった場合には原則使用者に帰責事由はないと解すべきである。もっとも、使用者が不当労働行為の意思その他の不当な目的をもってことさらにストライキを行わせたなどの特別の事情があれば使用者に帰責事由が認められると解する。
(2) これを本件についてみると、本件ストは前述のY社の団交拒否及び支配介入を理由とするものである。そうであればY社に上記特別の事情がある。
(3) よって、Y社に帰責事由があり、Zらは賃金請求ができる。
2 では、休業手当(労基法26条)の請求が認められるか。
(1) 同条の趣旨は労働者の賃金生活の保護にある。そこで、同条の使用者の帰責事由は民法536条2項の帰責事由より広く解すべきである。
(2) これを本件についてみると、前述のとおり民法536条2項の帰責事由がある以上、労基法26条の帰責事由もある。
(3) よって、Zらは休業手当を請求できる。

スポンサーリンク

-労働法

© 2024 予備試験・司法試験合格ノート