答案例1
第1 設問1
1 本件では「回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項かっこ書)の有無が問題となる。Xは本件処分を取り消さなければ、今後本件基準2に基づいて処分が加重される恐れがあることを理由に本件処分を取り消す必要性が存続するから、営業期間停止後も訴えの利益はなくならないと主張する。
2 これに対し、Yは、本件基準は行政内部における裁量権の行使の指針で、行政規則にすぎず、国民の権利義務を直接制限するものではない。そのため、本件処分の存在により将来処分が加重されても、それは本件処分による法的効果といえないから、訴えの利益はないと反論する。
(1) 訴えの利益とは当該処分を取り消す必要性をいい、その存否は取消しによって除去すべき法的効果や、取消しにより回復すべき利益の有無より判断すべきである。
(2) ところで、行手法12条1項の処分基準は単に行政の便宜にとどまらず、行政の不利益処分の判断過程における公正と透明性を確保するために存在すると解される。そうだとすれば、処分基準が公にされていれば、行政は特段の事情のない限り処分基準に、き束されるから、処分基準と整合しない処分をすることは裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)にあたると解する。
(3) よって、本件基準2の期間内は本件処分の存在により本件基準に基づいて将来Xの処分が加重されるおそれがあるから、取消しによって除去すべき法的効果が存在する。
3 以上より、訴えの利益は存続し、訴訟要件は満たされる。
第2 設問2(手続上の違法)
1 Xは本件処分につき処分の理由の提示が不十分であることを理由に行手法14条違反を主張したうえで、かかる違反は本件処分の違法事由にあたると主張する。
2 これに対し、Yは処分理由にはいかなる事実関係に基づいて、いかなる法規を適用したかをXにおいてその記載自体から了知しうる程度に具体的に記載されてあるので、理由提示は適法であると反論する。
(1) 行手法14条の理由提示の趣旨は行政庁の判断の慎重・合理性を担保して、行政庁の恣意抑制すること及び被処分者の不服申立ての便宜にある。そこで、理由の提示に不備があるかはかかる趣旨に反するかという観点で判断する。
(2) これを本件についてみると、本件処分は法を適用してなされたところ、法の規定は抽象的であるから、本件処分にあたっては公表された本件基準を重要な根拠としてなされたものである。そして、本件基準には詳細な量定基準、加重・減軽規定が置かれている。また、本件処分は営業停止というXの経済活動に重大な影響をもたらすものである。かかる事情に鑑みれば法34条2項の処分にあたっては本件基準の適用関係も併せて理由として提示しなければ、上記趣旨に反する。
(3) よって、本件処分は行手法14条に反する。
3 そうだとしても、Yは理由提示に違法が本件処分の違法事由にならないと反論する。
(1) 行手法1条の趣旨に鑑み、行手法に規定する重要な手続の不備は処分の違法事由になると解する。
(2) これを本件についてみると、理由提示は前述の趣旨からして重要な手続きであるところ、かかる手続きが履践されていない。
(3) よって、本件処分に違法事由がある。
第3 設問2(実体法上の違法)
1 Xは、CがDらに直接に酒類を提供したのではなく、Eらの関与があって酒類がDらに渡っているので、法22条1項6号に該当しないと主張する。
(1) これに対し、YはDらに酒類が行き渡ったのはCの監視が行き届かなかったことにも起因するから、同号に該当すると反論する。
(2) CはDらとEらを別のテーブルに座らせることでDらに酒類が渡らないように配慮している。そして、飲食店の店員は客に対し迅速な対応が求められるから、その状況下で、席同士の酒類の交付を監視することは困難である。
(3) よって、同号に該当するというYの判断は事実の評価に明白な合理性の欠如があり、違法である。
2 Xは、本件処分は本件基準に基づいて処分されていないから、違法であると主張する。
(1) これに対し、Yには効果裁量があり、本件基準を適用するか否かも裁量の範囲内であると反論する。
(2) 飲食店の営業許可においては専門技術的判断が必要である。また、法34条2項は「できる」と規定し、営業停止期間は6か月以内で期間を定められるとしている。そのため、Yには効果裁量がある。そうだとしても、前述のとおりYは本件基準に原則き束される。
(3) これを本件についてみると、Dらの酒類提供にXの関与はないので本件基準3(2)イ(イ)に該当する。また、④の事実より同(エ)に該当する。そうであれば本件基準3(3)に該当する。そのため本件処分にあたり、本件基準を適用していないので裁量の逸脱濫用がある。また、Yが本件基準を適用しない合理的理由はない。よって、本件処分は違法である。
答案例2
第1 設問1
1 訴えの利益(行訴法9条1項かっこ書)の有無が問題となる。
2 Xの主張
(1) 本件処分により、処分後三年間は処分内容が加重される可能性がある(本件基準2、3(1))。
(2) よって、処分後三年間は訴えの利益がある。
3 Yの反論
(1) 本件基準は処分を検討する際の内部基準に過ぎない。そして、後行処分時に本件処分が考慮されても、それは裁量行使の範囲内である。
(2) よって、Xに訴えの利益がない。
4 Xの再反論
(1) 処分基準の公表(行手法12条1項)は行政の公正・透明性確保を目的とする。そこで、処分の相手方の信頼保護や平等な取り扱いの要請のため、公表された処分基準は単なる行政の内部基準にとどまらない。すなわち、処分の際は原則処分基準によらなければ裁量の逸脱濫用になると解する。
(2) 本件処分により、処分後三年間は、原則加重規定が適用される。
(3) よって、Xには処分を取り消す法律上の利益を有する。
第2 設問2
1 手続法上の違法
(1) Xの主張
ア 不利益処分の際は理由提示が必要(行手法14条1項)である。本件処分における理由提示は不十分であるから、違法である。
イ 理由提示の趣旨は処分においての行政の恣意抑制と被処分者の不服申し立ての便宜にある。そこで、理由提示においては、この趣旨が実行される程度の事実と根拠条文の記載が必要であると解する。
ウ 本件処分の理由には事実関係と法の根拠条文はある。しかし、本件基準の根拠条文や加重・軽減規定の適用の有無の記載がない。本件では未成年の飲酒行為自体につきXは争っていない。そこで、本件基準の軽減事由該当性が処分内容を決めるのに重要な事項である。また、本件処分では処分基準につき、本件基準で具体的に規定してある。よって、本件基準の不記載は上趣旨に反する。
エ 以上より、本件は理由不備により、手続き上の瑕疵がある。
オ もっとも、手続き上の瑕疵が、取消事由になるか問題となる。行政の円滑・迅速と、適正・公正の調和を図るため、重大な瑕疵であれば、取消事由になると解する。理由提示は前述のように重要な趣旨を持つから、理由不備の瑕疵は重大な瑕疵である。
カ 以上より、取消事由がある。
(2) Yの反論
ア 本件基準は処分の際の内部基準であるから、処分の根拠条文たる法とは区別すべきである。また、処分基準の公表が努力義務(行手法12条1項)である。
イ よって、本件基準を理由として提示しなくても違法ではないと反論する。
2 実体法上の違法
(1) Xの主張
ア Xは、本件処分をするにあたって、Yに裁量の逸脱濫用があると主張する。
イ 本件処分にあたって、本件基準の軽減事由があるにも関わらず、それを考慮せず、処分を行った場合、裁量の逸脱濫用が認められる。
ウ
(ア) 本件ではB店では、厳格な年齢確認をしたうえで、未成年者とそうでないグループのテーブルを別々にした。それにもかかわらず、EらがDらに酒類を回していた。別々のテーブルにする行為は、年齢確認と相まって未成年に酒類を提供しないよう、物理的・精神的に客に促しており、本件飲酒行為にXの関与はほとんどない。また、未成年の飲酒行為を予見した上で、回避するよう措置をとっていた。もっとも、DらとEらのテーブルが隣接しており、B店の監視が行き届いていなかった。しかし、飲食店は、多数の客が行きかい、客同士の会話があるという性質を有する。よって、随時客を監視することや、グループの客を遠く離れたテーブルに移動させることは、経営上難しい。よって、飲酒行為を防止できなかったことに過失がない(本件基準3第2項イ(イ))。
(イ) また、Xにつき、最近3年間に処分事由に係る法令違反行為の事実はない。そして、後述の事情を考慮すれば、悔悛の情が著しいといえる(本件基準3第2項イ(ウ))。
(ウ) さらに、本件飲酒後、B店では未成年者と成年者でフロアをわけて、酒類の飲みまわしの防止を徹底する措置をとっている(本件基準3第2項イ(エ))。
(エ) 以上より、本件処分に関し、軽減事由がある。しかし、Yはこれらの事情を考慮せず、基準期間(本件基準3第1項)の営業停止処分を行っている。
エ よって、考慮すべきことを考慮していないので、裁量の逸脱濫用があり、本件処分は違法である。
(2) Yの反論
ア 前述の通り、本件基準は内部基準であるから、Yの処分は本件基準に拘束されない。
イ よって、本件基準は必ずしも考慮すべき事項でない。
(3) Xの再反論
ア 前述の通り、処分基準が公表されていれば、それが合理的である限り、処分は、処分基準によらなければ原則裁量の逸脱濫用となる。
イ 本件基準は合理的な基準であると解する。
ウ よって、本件基準及びこれに該当する事実を考慮していない本件処分は違法である。
答案例3
第1 設問1
1 本件取消訴訟の係属中に営業停止期間が満了した場合、「回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項かっこ書)がないのではないか。いわゆる訴えの利益の有無が問題となる。
2 Xの主張
(1) 訴訟係属中に営業停止期間が満了しても、将来の本件基準によって処分される場合に、本件基準2条により、処分が加重されることを防ぐことができるので、「回復すべき法律上の利益」があると主張する。
(2) 行手法12条1項の処分基準の公表は、行政の事務処理上の便宜にとどまらず、行政の適正・公正を確保し、被処分者の権利利益を保護する趣旨である。そこで、行政庁が先行の処分の存在を理由として、後行の処分を加重する旨の処分基準を設けており、それが公表されている場合、その基準通りに処分しなければ、行政庁の処分は、裁量の逸脱濫用により違法であると解する。そうであれば、行政は後行の処分にあたって、先行の処分の存在を考慮することが強制される。よって、被処分者は先行処分の期間満了後も、後行処分において先行処分が考慮される期間は、先行処分の取消しをする法律上の利益を有すると解する。
(3) 本件では、本件基準2条により、処分後3年間は本件処分を理由として将来における処分が加重される。
(4) よって、Xは本件処分の効力が訴訟係属中に消滅した後にも、回復すべき利益がある。
3 Yの主張
(1) 本件処分と、Xが主張する将来の処分は別の処分である。よって、Xに法律上の利益がないと反論する。
(2) 確かに、将来の処分において本件処分を理由に処分内容が加重される可能性はある。しかし、処分内容の決定には行政に裁量がある。そして、本件基準は裁量行使の際に用いられる行政内部の基準あり、Xに対し法効果をもたらすものではない。
(3) 以上より、Xに回復すべき利益はない。
第2 手続上の違法
1 Xの主張
(1) 本件処分は処分理由が不明確であるとして、行手法14条1項であると主張する。
(2)
ア 不利益処分において行政が理由を提示する趣旨は、行政の恣意抑制と被処分者の不服申し立ての便宜である。そこで、理由提示の際は、処分の対象となる事実と該当条文を具体的に適示する必要がある。
イ 本件では確かに処分該当事実とその適用条文が記載されてある。しかし、本件基準の適用関係や本件基準に関する事実認定につき記載がない。また、処分理由記載事項はXにおいて争いのない事実であり、Xは処分が重すぎる点で不服申し立てを検討する可能性があるから、Xの不服申して立ての便宜が図られていない。
(3) よって、本件処分は理由提示に不備があり、行手法14条1項違反である。
2 Yの反論
本件基準はYが処分を下す上での内部的基準に過ぎないので、Xに提示する必要はないと反論する。
3
(1) 手続きに違法事由があり、瑕疵があるとして、それが処分の取消し事由になるか。
(2) 行政手続法の趣旨は行政の適正・公正を確保することであるから、瑕疵が重大である場合に取消事由になると解する。
(3) 本件の理由提示では被処分者が不服申し立てする際に行政に対して主張すべき事実関係や法令解釈を準備できない。また、業務停止期間は非処分者の営業にとって重要事項であるから、これにつき行政の恣意を抑制する必要性が高い。よって、瑕疵は重大である。
(4) 以上より、取消し事由になる。
第3 実体上の違法
1 Xの主張
(1) 本件処分は業務停止期間が長いので、比例原則により裁量の逸脱濫用にあたり、違法であると主張する。
(2) 本件基準によれば、営業停止期間は原則基準期間の3か月である(本件基準3条1項)。しかし、処分に軽減事由があれば停止期間が縮減される(本件基準3条2項柱書)
(3) 本件ではXの役員Aは未成年の飲酒について関与していない。また、Bの店内では厳格な年齢確認をし、未成年者とそうでない者のテーブルを分けていた。そして飲酒行為はBが未成年に提供したのではなく、EらがDらに提供していた。よって、飲酒行為の不防止に過失がない。したがって、本件基準3条2項イ(イ)に該当する。
(4) また、B店は飲酒行為後に、飲みまわし防止のためにフロアをわけるという、再発防止策をしている。よって、具体的な改善措置がある(同項イ(エ))。
(5) 以上の事実関係の下では、処分について基準期間で行うのは本件基準に反する。また、「軽減するものとする」の文言上、軽減事由がある場合に、行政に軽減しないのは裁量の逸脱濫用にあたる。
2 Yの反論
本件基準は内部的基準であるから、Yは処分を決定するにあたって本件基準に拘束されない。よって、処分の裁量に逸脱濫用はないと反論する。
答案構成
答案例2の答案構成
第1 設問1
1 訴え利益の有無につき問題提起
2 訴え利益の有無につきXの主張
3 Yの反論(書くことが思い浮かばない。)
第2 手続き上の違法
1 理由不備についてのXの主張
2 Yの反論
3 手続きの瑕疵が取消し事由になるか(サブ論点だから、簡潔にまとめる。書かなくても合否に影響なし。)
第3 実体法上の違法
1 Xの比例原則違反の主張(事実関係を拾って、効果裁量の逸脱濫用を述べれば、比例原則違反でなくてもよい(重大な事実誤認や考慮不尽など)。)
2 Yの反論(書くことが思い浮かばない。)
解説
問題文の量
本問はとにかく問題文が多い。さらに設問1では訴訟要件が問われ、設問2では手続き上の違法と実体法上の違法が問われている。
設問全部に一通り答えて、答案を完成させていれば、多少荒い記述をしても合格点には達するだろう。
本解答例は受験勉強用に作成したものであるので、これが合格最低ラインでない。
被告の反論
本問では被告であるY県の反論を踏まえなければならないが、これがかなり書きづらい。
Y県としては、下記を主張することになるだろう。
- 本件基準は行政内部の便宜のためのものに過ぎない。
- 行政内部の基準であるから、裁量がある。
- 後行処分で、本件基準を基に処分しても、あくまでそれは裁量の範囲内である。
このような書きにくい問題に出くわせば、そこそこ書いて守りに入るのが現実的な戦略であろう。
資格試験は相対評価であるから、いかに全体として論文を完成させるのかが最優先事項である。