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民法

平成28年予備試験 民法論文

※平成29年改正に対応済み

答案例1

第1 DのBに対する請求
1
(1) DはBに対し、原状回復義務(545条1項本文)として、本件売買契約の代金500万円の支払いを請求する。
(2) DはBに対し、本件売買契約を解除すると伝えているので、Dは解除権を行使している(540条1項)。
(3) よって、解除の効果が発生し、BはDに対し原状回復義務を負う。
2
(1) DはBに対し、債務不履行による損害賠償(415条2項1号)として、乙機械の購入費の増加代金分40万円を請求する。
(2)
ア CはDに対し、甲の返還を請求している。よって、Bが甲の所有権をDに移転することは事実上できない。したがって、債務の履行が不能であると言える。

(ア) Bに帰責事由があるか。
(イ) 帰責事由とは故意・過失又はこれと同視しうる事情と解する。
(ウ) 本件売買契約の際、BはCが甲を使用しないと思い込み、Cに確認をしないで、Dと本件売買契約をした。BCは親子であるから、甲の売買につき確認することは容易であったと考えられる。さらに、BはDに対し、Cの許諾を確実に得られると伝えていた。
(エ) よって、Bに過失があるので、帰責事由がある。

(ア) Cの帰責事由により40万円の損害が発生したと言えるか。
(イ) Dは印刷業を営んでいる。よって、印刷機械の甲を購入した後、それが使用できなくなった場は即座に代替機を購入すると考えられる。そこで、乙と甲の差額40万円につき、通常生ずべき損害であると言える。
(ウ) よって、本件では通常生ずべき損害として40万円が発生したといえる。
エ 以上より、CはDに対し、40万円の損害賠償義務を負う。
3
(1) DはBに対し、不当利得返還請求(703条)として甲の価値増加分の請求をする。
(2) しかし、甲はC所有であるから、Dに利得がないので、認められない。
第2 DのCに対する請求
1 DはCに対し、不当利得返還請求として甲の価値増加分50万円を請求する。
2
(1) Dは甲を30万円かけて修理したので、損失がある。そしてCは甲の所有者であるから価値増加につき利得がある。また、これらに因果関係がある。
(2) さらに、DC間には甲に関して契約がない。それにも関わらず、Cが修理された甲を所有し、修理代金を免れるのは公平の観点から妥当でない。よって、法律上の原因がないと言える。
(3)
ア 不当利得として、50万円の請求が認められるか。
イ 不当利得返還請求は、損害を公平に分担することが趣旨である。そうだとすれば、返還請求できるのは実際の損失額に限られると解する。
ウ Dは甲の価値増加分50万円を請求するが、甲にかけた修理費用は30万円である。
エ よって、損失は30万円といえる。
(4) 以上より、DはCに対し、30万円の支払いを請求できる。
第3 BのDに対する主張
1 BはDに対し、原状回復義務として、甲の使用料相当額25万円の支払いを請求する。
2
(1) 原状回復義務を負う場合に、金銭以外を返還するときは果実も返還しなければならない(545条3項)。
(2) 甲は印刷機械であるから、甲に果実は発生しない。もっとも、甲の使用によりDは自らの営業行為を行っていたのであるから、甲の使用料相当額は果実と同視しうる。
(3) よって、Dは甲の使用料相当額をBに返還する義務をおう。
第4 CのDに対する主張
1 CはDに対し、不当利得返還請求として、甲の使用料相当額の支払いを請求する。
2 Cは甲の所有者であるから、甲の使用料相当額の損失を被っている。しかし、解除による原状回復義務の趣旨は契約当事者を契約関係から解放する点にある。
3 そこで、甲の使用料相当額は甲の所有者のCでなく、契約当事者であるBに返還するべきである。

答案例2

第1 DのBに対する請求
1 DはBに対し、代金500万円につき、契約解除に基づく原状回復義務(545条1項)として、支払いを求める。また、増加代金分の費用40万円につき、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)として、支払いを求める。さらに、価値増加分50万円につき、不当利得返還請求権(703条)に基づいて、支払いを求める。
2 代金500万円の請求
(1) DはBに対し、解除すると伝え、「解除権を行使」したので、DB「各当事者」は原状回復義務を負う(545条1項)。
(2) よって、500万円の請求が認められる。
3 増加代金分の費用40万円の請求
(1) 「他人」であるCの「権利」である甲機械の所有権を「売買の目的」とした、本件売買契約においては、Bはその「権利」を取得して、買主Dに移転する義務を負う(561条)。しかし、CはDに対し甲機械を直ちに返還するよう求めた。よって、本件売買契約におけるBの債務は履行不能である。また、BはCに甲機械の使用につき確認することもなく、Dと売買契約をしている。よって、Bが甲機械の所有権を移転できないことにつき、Bに免責事由(415条1項ただし書)はない。
(2)  
ア また、Dに損害が発生したと言えるか。
イ 「損害」とは、債務の履行がされた場合の債権者の財産状態と、不履行による債権者の現在の財産状態の差額を指すと解する。
ウ 本件では、甲機械の代金が500万円で、その修理費用が30万円であった。これに対し、乙機械の購入代金は540万円であった。
エ よって、差額の10万円が損失となる。
(3)
ア では、債務不履行と損害との間に因果関係があるか。
イ 416条の趣旨は損害の公平な負担にある。そして、416条1項は、相当因果関係の原則を規定し、同条2項は特別の事情の範囲を示したものであると解する。
ウ Dは印刷工場を営んでおり、印刷機械の使用は業務上必須である。また、甲機械を修理し、自己の営む工場内で甲機械を稼働させていた。よって、Dは甲機械の稼働を前提に営業活動を予定していたと言える。それにも関わらず、Cから甲機械の返還を求められた。そして、印刷機がなければ営業活動に重大な支障が出るので、Dは速やかに代替の機械を手配する必要があった。よって、乙機械の購入に係る差額10万円は「通常生ずべき損害」である。したがって、この損害と債務不履行に因果関係がある。
(4) 以上より、10万円の請求が認められる。
4 価値増加分50万円の請求
(1) 甲機械の所有者はCであるから、Bに甲機械の価値増加による「利益」(703条)はない。
(2) よって、50万円の請求は認められない。
第2 DのCに対する請求
1 Dは196条1項に基づき、必要費の償還として甲機械の価値増加分を請求する。
2  
(1) 「占有者」であるDは「占有物」である甲機械を修理した。甲機械は修理により稼働したので、この修理費用は「必要費」といえる。
(2) よって、Dは修理費用30万円を償還させることができる。
3 なお、この請求は、不当利得返還請求(703条)の特則と解されるから、703条に基づき50万円の請求はできないと解する。
第3 使用料相当額(25万円)の請求
1
(1) Cは果実の代価の返還請求権(190条1項)に基づき、Dに対し25万円の請求権を有することを理由に相殺(505条)の抗弁を主張する。
(2)  
(ア) DはBから甲機械がC所有であることを聞いていたので、「悪意の占有者」であった。
(イ) よって、DはCに対し、「既に消費」した甲機械の使用料相当額を支払う義務がある。
(3) 以上より、CはDに対し、25万円につき相殺を主張できる。
2
(1) Bは原状回復義務(545条1項本文)に基づき、Dに使用料相当額の支払いの請求権を有することを理由に相殺の抗弁を主張する。
(2)  
ア 前述の通り、本件売買契約は解除されたので、BDは互いに原状回復義務を負う。もっとも、Bは甲機械の所有者でない。そこで、DはBに甲機械の使用料相当額を支払う必要があるか。
イ 解除の趣旨は、契約関係から当事者を早期に解放させることにある。よって、解除に基づく原状回復義務は契約当事者であれば生じる義務である解する。
ウ BDは本件売買契約の当事者である。
エ よって、Dは使用料相当額の支払い義務がある。
(3) 以上より、Bの相殺は認められる。
3 なお、使用料相当額につき、BC双方の主張が認められれば、Dは二重の負担を強いられることになる。そこで、DはBCいずれかのみに負担をすれば足りる。そして、Cは甲機械の所有者であるから、使用料相当額について、CはBに優先する。

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